既存建築物の図面復元

 既存建物の遵法性調査やリノベーション、レイアウト変更を行う際、新築時の図面が全部または、一部しか残っていなかったり、当時の図面と異なっていることがある。

 不動産が流動化する時代では、既存建物の図面、図書等整備も資産価値を下げない一つの要素である。

 現状を実際に把握しないと方針は決まらない。とにかく図面がなければ次の展開には進められない。

 検査済証があろうが、無かろうが、既存建物を活用しようと思ったら「まず調査」から始めないといけない。実際には一度ならず追加調査が必要だったりする。そしてその調査の野帳は、自分だけでなく他人が判別できるものでなければならない。それには一定のレベルの人材による作業が必要である。

 実際の図面復元は、アナログの極致で平面・断面・立面の各部位を実測し野帳図に書き込み、写真や動画を撮影して、現在ではCADで作図する。図面の復元と言っても意匠、構造、設備、電気等 どこまで復元するかによって人手と費用は大きく変わる。

 

 上記の2枚の画像は、10年近く前だが木造家屋の調査で私が担当した断面野帳。フリーハンドでも、他の人が見て判りやすい野帳にする必要がある。

 もっとも最新鋭技術で、建物全体を3Dデータ化することで、3DCAD上で建築図面を再現することができるそうだ。まあ高額なので中々一般には普及しないとは思うが。

 一方で図面復元をしたことを、ことさら「すごいでしょう」と吹聴したり、過大評価する第三者がいたりするから世の中面白い。図面復元をしたことがない人達からしたら大変な業務なのかもしれないが、古民家や木造住宅、社寺仏閣のリノベーションの世界では当たり前の作業。

 筆者も学生時代から伝統建築物の調査や図面復元に関わっているので、汗をかきかき灼熱の天井裏で調べたり、狭くてかび臭い床下にもぐり調査したり大変な作業であることは間違いない(尚、最近は体積が多くなり過ぎたのと加齢のため、小屋裏、床下の調査があっても若い人にお願いしている)が、だからといって全体を指揮して調査し図面を復元するのは苦にはならない。

 現場に行くこと、汗をかく仕事を避ける設計者もいるようだが、古来より「現場に神宿る」と言われている。歳をとっても、それだけは譲れない。

耐用年数評価の為のコンクリートコア採取

蒸し暑い一日だった

耐用年数評価用+耐震診断用のコンクリートの中性化、圧縮強度を

調べるためのコンクリートコア等を採取した。

ちょつと声をかけたら見学者が6人、皆真剣に作業を見守っていた

2階の外壁部分からコアを採取する為に足場を建てた

未確認部分だった1階屋根の部分には、

図面には設備基礎が書かれていたが無い事が判明した。

鉄筋クロス部分を露出させて発錆状態を確認

コンクリートかぶり厚は、5cm

外壁側2cmの増し打ち、打放コンクリートの上に外壁塗装という事を確認

フェノールフタレイン液を噴霧して、中性化状況を確認

これが全部で5箇所

圧縮強度+中性化試験の他に塩化物調査用、含水率調査用を別に採取

夜7時まで延長して全てのコア抜き、斫り調査は終わったが、

コア抜き箇所の無収縮モルタル詰めは翌日の午前中作業となった。

現場主義を貫きファクトに向きあうと得るものも大きいが、

身体には応える

それでも この案件の大掛かりな現場調査は無事終了

耐用年数評価・耐震診断・耐震補強計画・改修計画に進む

超音波厚さ計

中国の計測器メーカー品の「超音波厚さ計」

あまり薄いものは測れませんが、安価だったので買ってみました

取説が英語版のみ

息子に訳してもらい操作方法を教えてもらいました

たぶん測定器の価格よりアルバイト代の方が高くつきそう

錆止め塗装を落としカップリング材を塗っているところ

鉄骨埋込柱脚部からコラムの板厚を計測してみました

作業をしているのは、今年21歳になるインターンシップのI君

UT検査でもコラムの板厚は計測できていたので

板厚は、12mmというところでしょうか

現地詳細調査 -2

現地詳細調査も物件の規模等に応じて調査チームを編成しないとならない。今回の八王子の場合は、重量鉄骨造2階建て200㎡以下と規模は小さいので、以下のように調査チームを編成した。規模が大きくなるとそれぞれの調査パートに補助員を付け研修する事もあるが今回は内部も狭いので調査員だけとした。

  • 内部実測調査 1人
  • 外部実測調査 1人
  • 外部劣化調査+傾斜測定+床高低差調査 1人
  • 鉄骨部材及び材質調査 1人
  • 統括(私)

以上5人の調査チームである。その他に非破壊・微破壊検査の方々

外部の実測調査を担当した人は 某会社の社長夫人で一級建築士。普段は主に住宅関係のリフォームの図面を書いているとか。今回が調査参加4回目なので補助員から調査員に昇格。

実測調査4回目ともなれば、こちらが調べて欲しいことをきちんと見ている。

Q  電気の分電盤の写真撮った?

A     撮りました。12回路です

Q    契約アンペアは?

A    45Aです。

Q    電柱の番号調べた?

A    写真撮りました

ふむふむ 成長著しい !(^^)!

建築ストックの業務では、既存の「調査」はかなり重要な要素。

いざ仕事が決まったから学生を集めるとか、他社の所員を借りるとか、調査に不慣れな人を人海戦術で というのでは いい調査にはならない。また一級建築士を持つていれば正確な調査ができるというものでもない。

調査をする人を常日頃 自社で養成しておくことが必要。ただし社員を増やせという意味ではない。どうやって優れた調査員を養成していくのかは課題でもある。

そんなことは調査会社に頼めばよいのだと言う人もいるだろうが、そう気にいる手頃な価格の調査会社は中々見つかるものではない。

それにアウトソーシングしていると、どうしても自分達で考える力が低下してしまう。

しかも特殊建築物の調査が出来る人はそう多くない。規模が大きくなると法令の知識が必要不可欠になる。しかも建築基準法に限れば現行法、改正の履歴、そして戦前の市街地建築物法についての知識も必要になるが、この事については又書く機会があると思う。