「ウジェーヌ=エマニュエル・ヴィオレ=ル=デュク」の事

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「建築講話」(飯田喜四郎訳、中央公論美術出版)は、ヴィオレ=ル=デュク(1814年~1879年)の著作である。

はるか昔 学生時代に読んだ事がある。

ヴィオレ=ル=デュクは、その著作をして建築史上 最も優れた理論家の一人と言われている。

アール・ヌーボーの展開に大きな影響を与えたし、フランク・ロイド・ライトやガウディもヴィオレ=ル=デュクの著作から多くの啓示を受けている。

ヴィオレ=ル=デュクが建築家として手がけた仕事は、ほとんど修復作業だった。

フランスの有名な中世建築で彼の手が入らなかったものはほとんどないと言われている。

パリのノートルダム大聖堂(1845年~64年)、サン・ドニ大聖堂(1846年~)、ランスの大聖堂(1860年~74年)、ヴェズレーのラ・マドレーヌ大聖堂(1840年~)等だ。

私が「既存建築ストックの再生と活用」を業務のテーマにあげたとき、脳裏に浮かんだのが修復の名人と言われたヴィオレ=ル=デュクだった。

彼はゴシック・リヴァイヴァリストとレッテルを貼られていたが、修復にあたっては考古学的判断と構造的な安定を両立させると言う難しい仕事に取り組んでいる。

 

建築には真実であるための必要不可欠な道が二筋ある。建築は要求項目に沿って真実でなくてはならぬ。また、構造の方法に添って真実でなくてはならぬ。要求に従って真実であるとは、すなわち、必要によってかせられる条件を正確かつ率直に満たす事である。構造の方法によって真実であるとは,つまり,その方法の性質ならびに特質に随う材料を採用する事である。[・・・]左右対称や見かけの形態など、全く芸術上の諸問題などは,われわれのいう支配的原則からすれば二義的条件に過ぎぬ。

ウジェーヌ・ヴィオレ・ル・デュク「建築講話」1863〜1872年

「建築講話」は、現在再版されて30,000円弱の価格で売られている。図書館では見れるが中々自分の所蔵書に出来ないでいる一冊のひとつである。

中世建築を広義の立脚点から解読していったヴィオレ・ル・デュックの軌跡は、結論として普遍的な建築哲学に到達している。そこには19世紀の近代精神が輝いており、その近代精神は20世紀のそれを凌ぐほどの整合性をもって聳えている。「建築講話」は、もっとも19世紀的かつもっともフランス的なラショナリズムの書であり、それゆえにこそ、本書は全歴史を通じて最も刺戟的な建築論のひとつとなり得ている。本書は全20講よりなり、I 巻は第10講までを注釈を付して訳出した。2004年再販出来。
■目次
読者の皆様へ
第一講 野蛮とは何か/第二講 原始時代の建物/第三講 ギリシア人とローマ人の芸術の比較/第四講 ローマ人の建築/第五講 建築の研究方法、ローマ人パシリカ、古代人の私的建築/第六講 古代建築の衰退期、ビザンティン建築の起源、キリスト教公認以後の西欧建築/第七講 中世西欧建築の原理/第八講 建築衰退の原因/第九講 建築家に必要な原理と知識/第十講 19世紀の建築と研究の方法/訳註・原註/訳者あとがき/索引

「まちづくり」と景観条例 -2

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豊島区は大規模再開発プロジェクトが、このところ めじろ押しである。

上の図は、豊島区庁舎が移転する役場+分譲マンションが合体した「豊島区再開発プロジェクト」のサイトから借用したものだが、左側に池袋東口。右側に護国寺があり、中央部分の青い部分が豊島区庁舎の移転先である。

分譲マンション部分の展示場がまもなくオープンするが、模型を見たところ再開発ビルは迫力あるスケールで壁面緑化なども採用しているようだ。

サンシャインシテイの右側に造幣局東京支局があり すでに埼玉県への移転が決まっており、その跡地は再開発される。

上図、中央に都電荒川線があり、その軌道に沿って「補助第81号線沿道まちづくり地区」がある。ここに東京都の不燃化特区が指定されており、以前から幾つも再開発プロジェクトが立ち上がっている。

又、造幣局の南側にも木造密集地帯があり、「造幣局南地区」まちづくり意向調査(アンケート)が実施されている。

上の写真を見ると さも緑のネットワークが形成されているように見えるが、雑司が谷霊園と護国寺があるから緑が多いように見えるだけ。

実感として街路樹も含めて緑のネットワークが出来ているとは思えない。

雑司が谷霊園は霊園内に幾つも道路があり、通勤、買い物、散歩と周辺住民の生活の中で開かれた霊園だが、それに対して護国寺は閉ざされた空間領域という感じがする。

個々の再開発プロジェクトが連立し、今後大きく街の景観がかわり、環境が変わっていくことだろう。

今すぐ、総合的な景観形成の指針が必要とされている。

環境面で言えば、東池袋4丁目・5丁目地区は、サンシャインシテイ・ライズタワー等の西側の再開発ビル=高層ビルのビル風に以前から悩まされている。

冬場の乾燥期で風が強い時に火災が発生すれば 見る見るうちに延焼し、場合によっては文京区側にも延焼範囲が及び家屋が焼失する危険性も孕んでいる。

「まちづくり」において道路整備も必要だが、街に必要な防災対策は、そのソフト面の整備も含めて必要不可欠で緊急性を帯びている。

 

 

 

「まちづくり」と景観条例 -1

建築プロジェクトの許認可・届出業務をするようになって、様々な行政の条例に接するが、かなり行政によって条例の内容に温度差があると感じるもののひとつに景観条例がある。

例えば、豊島区には「アメニティ形成条例」という景観条例がある。

届出の対象建築物が、

「新築、増築、改築、移転、大規模な修繕、大規模な模様替え、外観の過半にわたる色彩の変更」については、延床面積(地階を除く)が商業地域は800平方メートル以上、その他の地域は600平方メートル以上で、地階を除く階数が3階以上で、共同住宅で住戸数が15戸以上のものと比較的大規模な建築物に限定されている。

http://www.city.toshima.lg.jp/machi/machizukuri/002223.html

練馬区の景観計画では対象建築物は、

「新築、増築、改築、若しくは移転」「外観を変更することとなる修繕若しくは模様替又は色彩の変更」で、高さ10m以上又は延床面積が500m2以上。敷地面積500m2以上となっており、住宅街が多い練馬区の地域性を反映したものとなっている。

千葉県の市原市の場合は、

届出対象が地盤面からの高さが10mを超える建築物。建築面積が1,000m2を超える建築物となっている。

景観条例の内容についても色々と異なるが、練馬区の景観ガイドラインを見ていると中々きめが細かいなと感じる。

練馬区全域の景観の構造や特性を踏まえて四つの景観軸と三つの景観ゾーンを分けて景観形成基準を定めているところには感心した。

それらと比較して豊島区の「アメニティ形成条例」は大雑把というか、抽象的概論はあるが実態的にどれだけ景観形成に役立つか疑問に感じる。

私の参加している「まちづくり協議会」の中でも、不燃化特区の中での景観形成(色彩の一体性)が机上に上がったことがある。

地域・地区の景観を制御し、一体性のある街並みを作っていく方法として、「地区計画」(建築基準法)、「建築協定」(建築基準法)、「景観条例」(景観法)などがあるが、景観条例で不燃化特区内の景観形成を図っていくのも一案であるという発言をしたことがある。

そういえば豊島区のアメニティ形成条例に「アメニティ形成賞」というのかあったが、今は財政的理由で中断しているが、是非復活して欲しいものだ。