「建築物の防火避難規定の解説2016」

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「建築物の防火避難規定の解説2016」が発行された。2012年版から4年での改訂版となった。

早速、日本建築行政会議のサイトで発表されている「追加・更新の概要」を基に、差分ヶ所をマーキングした。

変更箇所は、2012年版以降の建築基準法令及び告示の改正に伴うものの他、これまでの質疑応答も掲載されている。

この本は、建築基準法令の全国的に統一された取扱いや運用を意図して日本建築行政会議で編集作業が進められたものである。

実際にはこの本に全面的に依拠して審査する指定確認検査機関もあれば、依拠度が低い指定確認検査機関もあるが、2005年版発行当時に比べれば年々、重要度は高くなっている。

設計者・審査者にとって必読書の一冊である。

『プロが読み解く「増改築の法規入門」Q&Aと実例で学ぶ「可否の分かれ目」』

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『プロが読み解く「増改築の法規入門」Q&Aと実例で学ぶ「可否の分かれ目」』日経アーキテクチュア+ビューロベリタスジャパン著。

特殊建築物の増改築・用途変更等のリノベーションで、いかに魅力的な提案ができるかは、法的知識が左右する。この本では建築基準法に焦点をあてているが、実際は消防法、バリアアフリー法等の関連法規に熟知していないいけないし、意匠のみではなく設備や構造についても一定の知識が必要だ。

プロデューサーは、ゼネラリストでなければならない。

この本で取り上げている「実例」は、見覚えがあるから これまで日経アーキテクチュア誌に掲載されてきたリノベーション関係の事例だと思う。これまで実際見に行ってきた建物も多く含まれている。実は、法的な取扱いについては仲間内でも議論が分かれている建物もあるが、それについて書くのはまた別な機会にしておく。

増改築・用途変更に係る法規のQ&Aは、BVJにより良く整理されている。

綴じ込みの「建築基準法・改正年表」「遡及条文チェック表」は、実務に役立ちそうだ。

リノベーションの必読法令本に仕上がっているので、是非意匠設計者の方々に読んでもらいたい本である。

「天災から日本史を読みなおす」磯田道史著

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「武士の家計簿」「無私の日本人」の歴史学者・磯田道史氏の「天災から日本史を読みなおす~先人に学ぶ防災」をいっきに読んだ。

地震・津波・火山噴火・異常気象。史料・古文書に残された「災い」の記録を丹念にひも解いている。

著者は若い時から災害に係る史料を収集していたとある。東日本大震災のあと、防災に係る本は沢山だされたが、この本は人間が主人公の防災史の本であり、災害から命を守る先人達の知恵と工夫が満載されている。

建築法も 近代以降に限ってみても国内外の災害に対応して修正されてきた経緯がある。

さて現代の建築基準法では、地上部分の地震力は、当該建築物の各部分の高さに応じ、当該高さの部分が支える部分に作用する全体の地震力として計算される。具体的な数値は、当該部分の固定荷重と積載荷重の和に当該高さにおける地震層せん断力係数を乗じて計算する。(Q=Ci・ΣWi)

地震層せん断力係数は、Ci=Z・Rt・Ai・Coで算出する。

そのうち地域係数Zは、「その地方における過去の地震の記録に基づく震害の程度及び地震係数活動の状況その他地震の性状に応じて1.0から0.7までの範囲内において国土交通大臣が定める数値」である。(令第88条、昭和55年建告第1793号)

熊本市はZ=0.9、八代市・水俣市・宇土市はZ=0.8である。

先般地震があった函館市もZ=0.9で軽減されているが、今後この地域係数は変更されるのだろうか。ちなみに東京はZ=1.0 で沖縄県がZ=0.7

これら軽減地での今後の耐震診断・耐震補強において地域係数Zは軽減したままで良いのだろうか、と ふと考えてしまった。

「用途変更の円滑化について(技術的助言)」国住指第4718号

「用途変更の円滑化について(技術的助言)」国住指第4718号・平成28年3月31日が出されていた。行政庁ごとに運用のばらつきがあるので整理したとある。

「1、用途変更の手続き」で下記のように記載されている

「区分所有建築物等で 、異なる区分所有者等 が 100 ㎡以下の 特殊 建築物の用途 への 用途変更を別々に 行う 場合に、用途変更する部分の合計が 100 ㎡を超えた時点での用途変更手続 きは、特定行政庁が地域の実情に応じ必要と判断した場合に限 り、その手続きを要する 。なお、 用途変更の手続きを要しない場合であっても、建築基準関係規定が適用されることはいうまでもないが、 同一の者が 100 ㎡以下 の用途変更を 繰り返し行う場合については、意図的に意図的用途変更の手続きを回避しようとすることがありえるので、 特に留意すること。」

共同住宅等で区分所有部分が100㎡以下で、区分所有者が異なれば手続きは不要とある。建物総体で100㎡を超えても「特定行政庁が必要と判断」した場合のみであるとある。これでは意図的な用途変更の回避は制御できないだろうと感じた。

いつのまにやらマンションから飲食店ビルになっているかも知れない。

「2、用途変更時に適用される規定等について」

この部分は、指定確認検査機関の人達は、よく読んで理解してほしいと思う。用途変更の確認申請で、指定確認検査機関の審査担当者から、しばしば指摘されるのが法第28条の2(シックハウス)である。法第87条の既存遡及からは除外されている。

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法第28条の2が何故法第87条から除外されたのはわからないが、建物の一部を用途変更する場合しか想定していなかつたからではないかと思ったりする。建物全体を用途変更するフルリノベーションも増えてきた今日では、確かに法的には遡及しないがシックハウス・24時間換気を除外するのはいかがなものかなと考える。

同じように、用途変更では建築士の設計・工事監理は不要である。建築士法第3条、第3条の2、第3条の3には用途変更は除外されているから。これも法的には必要ないのだが、事務所ビルの1階をコンビニにするような用途変更ならいざ知らず、フルリノベーションでは、有資格者が介在しなくても良いのかどうか検討する必要があると考えている。

建築主からこの条文を逆手に取られて、用途変更は工事監理は不要なのだからと言われ工事監理料を大幅に削られたが、リノベーションの方が現場に行ったり打合せ回数が増え赤字になった。というような声も聞く。

用途変更・大規模改修・大規模模様替えに伴う法的な取扱いは、交通整理ができてないと思う。

例えば、

  1. 耐震補強をアウトフレームで行う場合は、増築や大規模模様替えにならないか
  2. 屋根防水を取り換え別の防水にする場合、大規模模様替えとするか否か
  3. 外断熱で改修する場合、大規模模様替えとなるか否か、床面積が増加し増築となるか否か

法的に考えていくとグレーな問題が沢山出てくる。

是非 国交省にあられては、ストック活用を巡る法的な問題において引き続き指導力を発揮し、運用の整理を行ってもらいたい。

 

コア東京6・2016 東京都建築士事務所協会

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先頃届いた東京都建築士事務所協会の機関誌「コア東京6・2016」をながめていた。

記事の中では、「オフィスビルを保育所にコンバージョン・ビルイン型保育所の課題と設計の実際」石嶋寿和氏(株式会社石嶋設計室)が読み応えがあった。

石嶋氏が、ビルイン型保育所を設計する上で直面した用途変更に伴う諸問題が良く整理されている。

1、消防法の既存遡及

保育所がテナントとしてビルインする場合、ビル全体の消防法の用途が「複合用途防火対象物(16項イ)となり、用途変更する保育所部分の問題だけでなく建物全体に現行の消防法の基準が適用される。それらにかかる防災設備の費用をテナントが負担しなければならない場合があり資金的なハードルとなる。これはビルの一部に飲食店が入居する用途変更の場合も同様の問題が生じる。

2、建築基準法の採光

オフィスビルに入居する場合などは、敷地境界線から建物の離隔距離か少ないため有効採光が取れないことがある。弊社でも事務所から入院施設のある診療所への用途変更で病室の有効採光の確保に苦心したことがある。

3.東京都建築物バリアフリー条令

記事では「誰でもトイレ」の設置について取り上げているが、おりから東京都都市整備局市街地建築部長から「高齢者、障害者が利用しやすい建築物の整備に関する条令第14条の適用に係る基本的な考え方について」(28都市建企第252号・平成28年6月2日)という技術的助言が通知されている。これで保育所関係の都バ条令第14条の制限の緩和は、やりやすくなった。

4、東京都児童福祉施設の設備及び運営の基準関する条令

記事では、二方向避難の問題を取り上げている。駅前などの中小ビル等には敷地の余裕がないため外階段等を設置できないという実情はわかるが、こと安全上の問題に関わることであり、避難に関わること、防災上の問題は慎重に考えたいところだ。それにしても建築基準法上は、「直通階段」で良いところを「屋外避難階段」とされている。より安全性を考えて「屋外避難階段」としているのかも知れないが、過剰かなと思うこともある。

5、排水

記事では既存の給排水の位置を現地調査し計画図を作成しているとある。リノベーションでは「調査なくして設計無し」であり、新築とは異なる設計手法が必要となる。

用途変更に伴うオール電化厨房設置による幹線の変更、キュービクルの変更あるいは新設、飲食店等が入居する場合はグリストラップの設置などの問題もある。

これらのように、用途変更には幾つものハードルがある。入居ビルの選定の段階から、構造・設備・法令等の総合的な知識と経験が要求される。

夢は枯野をかけ廻る

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【写真は、群馬県館林美術館】

「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」 元禄七年 十月八日

松尾芭蕉 最後となったこの句からは 旅先で死の床に臥しながら、見る夢は、あの野、この野、と知らぬ枯野を駈廻りたいという思いが切々と伝わってきます。

芭蕉の気持ちがわかる歳になってきました。

東京に住みながら、全国各地に足を運び、各地方に思いを寄せる日々。

今は北は宮城県から、南は熊本まで

全てのプロジェクトの場所が異なり、出かけては各地の風景・材料・食材に触れ大いなる刺激を得ています。

あ~。まだまだ全国各地を飛び回りたい。

夢は、留学です。