訓示規定

法令などで定められた規定のうち、もっぱら裁判所または行政庁の職務行為に対する命令の性質をもち、規定を遵守しなかったとしても処罰の対象にはならず、また、違反行為そのものの効力も否定されない性質の規定のこと。

訓示規定に対して、規定に違反した場合に処罰の対象とされる規定を「取締規定」という。取締規定は行為そのものの有効性は否定されない。行為そのものが無効であると見なされる性質の規定は、「効力規定」と呼ばれる。

訓示規定は当事者に対して努力すべき内容を指示する規定であり、それ自体に直接的な法的効力はないと言える。訓示規定の具体例として、労働基準法第1条第1項「労働条件の原則」などが挙げられている。

さて、建築基準法では 例えばこういうのが訓示規定である。

建築基準法94条2項には、「審査請求を受理した場合においては、審査請求を受理した日から一月以内に裁決をしなければならない」とある。

実際のところ1ヶ月で採決したケース少ないのではないだろうか。受理してから概ね二ヶ月以上はかかっているように思う。各特定行政庁の建築審査会事務局に聞いたら、「それは裁量権の範囲」と軽くあしらわれるだろう。

建築法規の試験で建築基準法94条2項に関する出題があっても、試験と現実は違うということ。

 

工事の着手 -2

「工事着手の時期」は、既存不適格の適用の有り無しと絡んでくる。

「工事の着手」は、建築基準法では定義化されていない。

建築基準法第3条第2項には、改正された法の施行又は適用の際、

  1. 現に存する建築物若しくはその敷地
  2. 現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地

「1」は、工事完了検査済証を取得していて使用が開始されている場合。「2」工事中の場合で、ここで「工事の着手」時期が問題になることがある。あるいは工事着手時期の操作が発生する場合がある。 「法改正の施行日が建築確認の受付後か、あるいは確認許可後の日でも既存不適格扱いとなるか」という質問を受けたことがあるが、改正法令の適用を受けない場合の基準時は、既存建物の場合は、一般的には建築確認申請許可日が基準時となるだろうか。

尚、「基準時」は、令第137条に規定されており「法第3条第2項の適用を受けない期間の始期をいう」のだが、令第137条に掲げる規定ごとに抽出しないといけないので、中々厄介なのだ。

工事の着手 -1

知人から電話が来て「工事の着手」についての建築基準法の定義はないかと言うので、日本建築行政会議編集の「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例」(2013年度版)の34頁を送ってあげた。

『「工事の着手」の時点とは、「杭打ち工事」「地盤改良工事」「山留工事」又は「根切り工事」に係る工事が開始された時点のことをいう』

工事の着手

今時、「工事の着手」時点は何時かと聞かれるのは珍しい。

法令が大きく変わる時には、改正前にとりあえず建築確認だけ降ろしてダミー施工会社に一部掘削なりさせておいて「工事着手」させ、その後確認申請は、大きく計画変更確認申請をして正式に実施図面を完成させ施工会社と契約して本当の工事着工。確認から正式着工まで1年以上という、手法が流行ったりした。

いわゆる「かけこみ着工」なのだが、工事の継続性があるのかないのか、偽装もできるし、中々わかりづらいものだ。

ところで、知人の相談には現場の写真が添付されてきた。

2014-07-01 17.26.43

敷地は道路より約1.6mほど高かった。

DSC_1828

掘削して山留のH鋼を設置している

現地2

道路より約1.6m高かった敷地の土砂を掘削し平坦にし、山留H鋼を打ち込み矢板も設置している。この時点でも工事施工会社と工事監理者は工事着工前の準備工事中と言い張っているらしい。

驚き、桃の木、山椒の木である。

不作為

古い建築審査請求の裁決書をながめていた。

中野区の「17中建審・請第1号審査請求事件」。

審査請求の内容は、「一低層地域にある○○会社が所有する建物は、法第48条が定める用途地域制限に違反しているから是正してほしい旨、繰り返し(5回も)特定行政庁に求めたにもかかわらず、法第9条第1項の規定に基づく違反の是正命令を発しないことは建築基準法に違反する不作為にあたる」という請求。

行政不服審査法第2条第2項の「不作為」とは、「行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内になんらかの処分その他公権力の行使に当たる行為をすべきにかかわらず、これを発しないことをいう」

この裁決書では、「不作為の前提となるべき、法令に基づく申請」が存在しない「審査請求人(近隣住民)が不作為庁(中野区)に対して行った一連の要求(是正申出書)は、法令に基づく申請にはあたらない」とし「したがって、請求人の要求に対して不作為庁が違反の是正に必要な措置をとることを命じることその他の行政指導等を行わなかったとしても、これをもって行審法にいう「不作為」ということはできない。よって請求人の本件請求は、行審法にいう「不作為」に該当しない事項を対象として行われた不適当なものである」として住民からの不作為の審査請求を却下している。

この場合、具体的にどのような経過で住民が5回も行政指導をお願いしたのかわからないが、住民側が不作為の審査請求まで出すのは余程の事だと思う。不作為の審査請求があることを知っていて活用しているのはあまり多くない。

処分庁(中野区)が弁明の中で「住民の要望」は、「特定行政庁に対して職権の発動を求めたものに過ぎず、行審法第2条第2項に規定する「法令に基づく申請」にはあたらない」と主張している」

だとしたら建築基準法には規定されていても、条例や細則等に規定されていないような事柄。

例えば「工事現場の危害の防止」が建築基準法に明白に違反している場合でも、近隣住民などは、お上にお願いするだけで、職権の発動はすべて行政の裁量であるから黙っていろと言っているのに等しい。

施行者側に何らかの処分を求めて不作為の審査請求を出しても行審法第2条第2項に規定する「法令に基づく申請」には該当しない事となり 建築基準法に違反していても事実上免責されてしまう。

「することができる」と「しなければならない」

建築中の建物の山留工事について、安全上不安があると近隣住民が都内の特別区に要望書をもって陳情に行ったという。

「要望書」は、施工者が工事説明で配布した山留計算書に対して第三者の技術者が意見書を付けるという体裁のもので、私も見せてもらったが、施工者の計画は山留計算における背面側上載荷重が極めて少なく、非常に不安がある内容だった。

紹介議員(区議)を通じていたせいか部長と課長が対応してくれて、施工者なり工事監理者に何らかの指導をすると言ってくれたそうだ。

根切、山留については、建築基準法施行令第136条の3に規定されているが、この規定に違反していることが明白になった場合、建築基準法第9条第10項による職権の発動をしてもらわないといけない。

とはいっても条例や施行細則に記載がない限り 事前に施工計画書などを届け出る必要はなく、近隣住民側が不信に思い第三者に技術的検討でもしないかぎり事前の問題点を発見できたりすることはできない。

この行政の「職権の発動」は、中々腰が重い。法文の最後に「~することができる」とあるように、すべて行政の裁量にゆだねられている。

建築基準法は、行政側が対応するものは「~することができる」だが、建築主や設計者や施行者は「~しなければならない」と本当によくできているというか・・・

上記の陳情の際、行政側は「民間の指定確認検査機関を利用した場合、工法の変更は強制できない」という 発言をしたという。

これは、責任逃れの発言としか思えない。

第一 指定確認検査機関で確認処分をするとき、山留工事の施工計画は設計図書には含まれない。

行政は、2005年の最高裁判決を忘れてしまったのだろうか。

「建基法の規定から判断すると、建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについての確認 (建基法6条1項、6条の2)に関する事務を、地方公共団体の事務とする前提(同4条、地方自治法2条8項)に立 ったうえで、民間機関をして、上記の確認に関する事務を特定行政庁の監督下(報告、是正権限)において行わ せる(建基法6条の2第3項、同4項)こととした、と言うことができる。     
   そうすると、民間機関による確認に関する事務は、建築主事による確認に関する事務の場合と同様に、 地方公共団体の事務である。 
  その事務の帰属する行政主体は、当該確認に係る建築物について確認をする権限を有する 建築主事が置かれた地方公共団体であると解するのが相当だ。 
  したがって、民間機関の確認に係る建築物について、確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、民間機関の当該確認につき、 行訴法21条1項所定の「当該処分または裁決に係る事務の帰属する公共団体」に当たるというべきであって、 横浜市は本件確認に係る事務の帰属する公共団体に当たると言うことができる。 
 A社は本件確認を横浜市の長である特定行政庁の監督下において行ったものであること、 その他、本件の事情の下においては、本件確認の取消訴訟を横浜市に対する 損害賠償請求に変更することが相当であると認めることができる(最高裁2005年6月24日決定)」

 

 

大学教育における建築法規

その昔、社会人になりたての頃のこと

先輩に「意匠設計者にとって一番大事な事、勉強しなければならないことは何だと思う?」と問われて 少し逡巡して「デザインでしょ」と言った。

先輩は、「法規」だよと言った。

これにはガツーンときた。

実は、若い時は法規は苦手だった。大学で建築法規の勉強はしたし法令集は持っていたが、どうも法文が頭に入らず苦手意識が抜けなかった。

社会人になってほどなく担当したのが、ある会社の川崎の寮だったが、都市計画法の開発行為(都計法29条)をしなければならなかった。測量以外の手続きはすべて行えというのが上司の指示だったが、苦手な建築法規だけでなく 一度も見たこともない都市計画法と施行令、開発行為の手引きに悪戦苦闘した。

公園、道路、水路、排水と各担当課と協議を整え同意文書をつくりと毎日のように役所に通い苦労していたが、先輩に聞いても誰も開発行為の許認可をしたことがなく教えてもらえずに役所の担当者に教えてもらいながらの業務だった。多分土木系の事務所に外注した方が経費は掛からなかったと思うが、今考えると良い勉強をさせてもらったと思う。

建築や都市をつくる上で、法規の役割はとても大きい。社会人になればすぐ直面するのが建築法規を理解しているかどうかだ。

大学教育における建築法規は、今も昔も2単位らしい。

知人に聞くと、建築士試験対応の授業内容で演習中心になっているところもあると聞く。常時使用する法令集は昔の3倍(2分冊)ぐらいの厚さになっているから、それだけ関係法も含めて法令が増えたということだろう。

建築基準法、関係規定だけでなく民法、不動産登記法等、もっと広範囲の法令を教養として勉強してきてもらいたいものだ。

若い設計者からは すっとんきょな質問を時々受け面喰う。

「自分の敷地なのに 何で こんな規制うけなくちゃならないんですか?」「非常用照明なんか必要なんですか?」書き上げると疲れてくるからやめよう。

最後に

「建築基準法はザル法なんでしょ」

「建築基準法が悪いんじゃない。使う人たちがザルにしているだけ」と答えるようにしている。

お願いだから大学や専門学校で建築法規をもっと勉強させて。

 

 

山手通りの家 -3

知人「やあ あれ わかった?」

私 「ごめんごめん 五層竪穴区画無しの件だね」

知人 「仕事忙しかったの?」

私 「ちょっとね 盆前だから まとめなきゃならないことがあって」

知人「忙しくて何よりでした。それで どう?」

私 「う~ん あれは イルージョンだね」

知人「えっ そうなの?」

私 「最初、床面積が100㎡以下なので準耐火建築物ロ-1かと思ったんだけど、階段は鉄骨造だし、他の状況からみても耐火構造の建物。防火地域で階数が3以上だから、耐火建築物にしなければならないし、耐火構造だと階段部分の竪穴区画(令第112条第9項)は逃れられない」

私 「5階=ルーム5は、天井高さが2010mmなので居室として確認申請が通るわけがない。でもベットが設置され寝室としての利用なので居室だし・・・」

知人 「建築確認申請は許可になっているようだね」

私 「そう確認と中間検査はA指定確認検査機関、完了検査はB指定確認検査機関になっている」

知人「ロ準耐なら可能は可能?」

私 「そう、防火地域以外で主要構造部が実際にロ準耐の仕様なら・・」

知人「耐火構造でありえるとしたら?」

私 「1,2階の店舗部分と3階部分で区画して5階は非居室」

知人「ということは 確認申請図書と実際の建物は祖語があると」

私 「断定はできないけど 可能性は大いにある」

知人「これ以上調べられない?」

私  「役所に情報公開請求を出す。そうすると役所は指定確認検査機関に法第12条第5項の報告を求めるから、ある一定の確認図書は公開される。そうすると今よりははっきりするんじゃないかな。ただし内部は個人情報保護とかで黒塗りにされてくる可能性が大だから、どれだけわかるかは定かではないけどね。」

知人 「調べてくれる?」

私 「これ以上は、有償だよ。経費がかかるから」

知人 「検討します」

 *8/13、一部記載に不備があり修正しました。

防火地域内で階数が3以上あるに、床面積が100㎡未満だからロ準耐でも良いと誤解される表現がありました。この建物は耐火建築物である必要があります。

山手通りの家 -2

【建物概要】

建築場所 : 東京23区内、山手通り沿い

用途規制 : 近隣商業地域、防火地域、40m高度地区

容積率400%、建蔽率80%(基準)+10%(角地)(実際は耐火+防火100%で申請)

道路 :  前面道路幅員40m (山手通り)、側道路・幅員6.84m、角地

主要用途 :  店舗併用住宅(具体的用途不明・実際は1階物販店・駐車場、2階物販店、住宅として使用は、3階~5階)

敷地面積 : 24.32㎡

建築面積 : 17.92㎡

延べ床面積 : 89.60㎡

構造規模 :  鉄筋コンクリート 地上5階建て

建築確認・中間検査 :   A指定確認検査機関

完了検査 :  B指定確認検査機関

山手通りの家 -1

1週間ほど前、知人から電話がかかってきた。

知人「新建築7月号に掲載されいる住宅なんだけど、地上5階建てで五層も階段の竪穴区画がないんだ。うちも こういう竪穴区画の無い住宅を提案したいんだが どうやったらできる?」

私「五層竪穴区画無しなんて無理だっぺ・・」

知人「でも雑誌に掲載されているからには、建築確認降りてるだろうな~。資料送るから知恵貸してよ」

私「了解」

この知人は研究熱心で建築雑誌に掲載されている建物で、建築基準法的に面白そうな物があると私に振ってくる。そして、この住宅の概要・資料が送られてきた。

私「資料みたよ。この場所だいたいわかる。山手通りは結構行き来しているからね」

私「S区の場合、山手通リ沿いは防火地域だね。床面積が100㎡未満だけど階数が3以上だから耐火建築物。防火地域でなければロ準耐で設計する方法もある」

知人「鉄筋コンクリート造のロ準耐って主要構造部のどれかの部位の仕様を変えるだったよね」

私「そう。鉄筋コンクリート造りだと外壁・屋根・床がコンクリートで耐火構造仕様になっているから、階段を木造にしたりするんだよね」

知人「鉄骨階段じゃ駄目?」

私「鉄骨階段だと耐火構造になるでしょ。幾ら準耐火ロ-1とか記載しても実態上の仕様が耐火構造になるから」

知人「イ準耐と耐火構造は竪穴区画必要でロ準耐だと竪穴区画しなくていいっていうのも一般には説明しずらいところだ」

私「専門家でも 中々理解しずらいところ」

知人「でも この建物は耐火建築物である必要がある」

私「そうだね もう少し調べてみるよ。」

知人「全館避難安全検証法だったりして」

私「住宅は発熱量高いし、以前シュミレーションしてみた事あるけど この手のプランでは無理だと思うよ」

知人「そうなんだ・・」

私「では 調べてから電話するよ じゃあね」

ということで、知人から課題を与えられてしまった。

やれやれ

【法令メモ】

建築基準法施行令第112条第9項(9項区画・竪穴区画)は「主要構造部を準耐火構造とし、かつ、地階又は3階以上の階に居室を有する建築物」が対象です。

準耐火構造というのは建築基準法第2条七号の2に規定されていて、45分準耐(面積区画は1時間準耐)、例示仕様は平成12年建告第1358号。

「主要構造部を準耐火構造とし」とは、準耐火建築物である場合は、準耐火(イ-1、2)が該当し、準耐火(ロ-1、2)は対象外。

法令上の用語として「上位の性能を有する材料・構造等は、下位の材料・構造等に含有されるものとして整理」(平成12年建住指第682号通知)されたから、主要構造部を耐火構造としたものも対象建築物となる。

わかった?

わからないしょ

でも法文上はこうなる