「大本営参謀の情報戦記」堀栄三著

北海道出張に持つていった文庫。

太平洋戦争中に参謀を務め、戦後も情報戦の最前線にいた著者が書き残した至言の数々。1996年に出版され私が読んだ文庫で第30刷。累計23万部という隠れたロングセラー。

相手から教えたい情報、商品として売られるべく氾濫している情報の中で溺れそうになる日々。本当に必要な情報は何か。SNSやインターネットに頼りすぎていないか。

著者は本文に出てくる軍隊用語を、企業の人が読む場合は「戦略」は企業の経営方針。「戦術」は職場や営業の活動。「戦場」は市場(マーケット)。「戦場の考察」は市場調査(マーケッティング・リサーチ)と置き換えて読むことを勧めている。

昭和20年の敗戦まで、軍は日本最大の組織であり、しかも最も情報を必要とする組織であった。その組織がいかなる情報の収集・分析処理・管理のノウハウを備えていたのか、その実態が体験的に述べられている。

文中の孫子の言葉が記憶に残った「爵禄百金を惜しんで、敵の情を知らざるは不仁の至なり、人の将にあらざるなり、主の佐にあらざるなり、勝の主にあらざるなり」

大要は、敵情を知るには人材や金銭を惜しんではならない、これを惜しむような人間は、将師でもなく、幕僚でもなく、勝利の主になることはできないという意味。

多面的な情報の収集とともに、情報には解析・審査が必要で、それを生かすことの重要性を学んだ。

「兎の戦力は、あの速い脚であるのか、あの大きな耳であるのか」というドイツで読んだ本の中の設問を紹介して終わっている。

「長くて大きな『兎の耳』こそ、欠くべからざる最高の”権力”である。」

この本は、堀さんの回想録だけど、日本人への警告を含んだ貴重な本だ。こういう本を次の世代の人にも読み継いでいくことが必要なんだと思う。