最近は「古さ」を楽しむ人が増えたのか、自分が関心があるから目につくのか「ヘリテージ建築(歴史遺産建築)」に関わる出版が多い。この本は2023年6月初版だから、出たばかりの本。
このヘリテージ建築には、建築設計者の手で保存再生され、魅力的な場に生まれ変わったものもあります。元日経アーキテクチュア編集長の宮沢洋さんが現地を巡り、分かりやすいイラストを交えながらその面白さを「変化を楽しむ」「物語に出会う」「グルメを楽しむ」という構成で伝えています。
この本はヘリテージビジネスの分野で、組織設計事務所の中では何歩も先を行く日建設計が全面協力という。日建設計のヘリテージビジネス分野のリーダーである西澤氏が案内役をしているが、西澤氏は構造設計や耐震工学の専門家であると聞くと既存建築物を扱っている人間としては合点がいく。既存建築物の法的課題、技術的課題の7割から8割が構造的な問題だからだ。エンジニアリングでありながら文化的センスのある人がこの分野のリーダーに相応しい。
今まではヘリテージというと伝統木造や文化財といった歴史的建造物を想起しがちだが、いま鉄骨造や鉄筋コークリートなどの近現代の建造物が、解体の岐路に立たされており急速に文化財的保存、動的保存の対象となりつつある。また官民建築物の長寿命化も最近の重要課題の一つとして浮上している。
本書とは関係ないが、上記の写真は沖縄の名護市庁舎。鉄骨鉄筋コンクリート造りの3階建てで1981年4月に完成した。全国的な設計コンペで最優秀だった象設計集団の斬新なデザインで日本建築学会賞(作品)を受賞した。庁舎には56体のシーサーが設置されていたが、老朽化で2019年に全て撤去された。いま、この昭和の名建築が築42年で老朽化という理由で解体されようとしている。なんとまあ歴史を大事にしないことか。
近現代建築物には耐震改修や安全性の確保、設備の更新が強く求められるが、経済的付加価値を適切に加えていくことが大切。保存改修設計とか耐震補強とかのシングルイシューだけでなく総合的な視点とそれに対応できる技術力を早急に構築することが必要と思う。