「70歳が老化の分かれ道」和田秀樹著

 周囲を見渡すと最前線で仕事をしている高齢者も散見するし、片方で仕事をしなくなって一気に衰えた高齢者もいる。

 著者は「現在の70代の日本人は、かつての70代とはまったく違う。各段に若々しく、健康になった70代の10年間は、人生における「最後の活動期」となった。」と書き、「この時期の過ごし方が、その後、その人がいかに老いていくかを決めるようになった。」と。つまり70代はターニングポイントと言えるだろう。

  • 気持ちが若く、いろいろなことを続けている人は、長い間若くいられる。
  • 栄養状態のよしあしが、健康長寿でいられるかどうかを決める。
  • 人々を長生きさせる医療と、健康でいさせてくれる医療は違う。

 一気に老け込まないために、一番必要なものは「意欲の低下」だと記する。それを防ぐには、日々の生活のなかで、「前頭葉の機能と、男性ホルモンを活性化させること」がとても重要だと。

 意欲レベルが低下してくる理由の一つとして、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの減少があり、セロトニンの材料となるのがトリプトファンというアミノ酸。それが多く含まれているのが「肉」で、高齢者に「肉」の摂取を推奨している。

 よく普通の内科医からは、コレステロールは動脈硬化を促進し心筋梗塞のリスクを高めると聞くが、コレストロールは男性ホルモンの材料にもなる。男性ホルモンの中でテストステロンは「意欲」と関係しているから、「肉」を食べることは、セロトニンと男性ホルモンの生成を促進し、人の「意欲」を高め、活動レベルを維持することに効果的だと書く。 

 聖路加国際病院名誉院長であった日野原重明先生は 満105歳で亡くなられたが、以前その食事風景の動画を見たことがあった。その食事は、夕食をメインにしたものであった。朝食はジュースにオリーブオイルをかけて飲み、昼食は牛乳、胚芽クッキー、林檎だけで済ませた。夕食は週2回は肉、他は魚と少し多めに食べていた。その日の体調に合わせて食べ物を変えていたようだった。

 食・食品衛生は妻の分野であり、任せておいて心配ない。朝から出かける予定がない日は1時間ぐらいかけて朝食を作ってくれる。朝昼食兼用ということもあるが、夕食はどちらかと言うと少な目にしているようだ。

 人の意欲と密接な関係のある脳内物質・セロトニンは、光を浴びると沢山作られる。うつ病の人はセロトニンが不足しているとされ、その治療法に光療法というのがあり、人工的な光を一定時間浴びせせると改善効果があるそうだ。だから光を浴びる習慣が人々を若々しくする。

 さらに陽を浴びて作られるセロトニンによって、夜には脳にはメラトニンというホルモンがつくられる。このメラトニンは、睡眠ホルモンともよばれ、人の睡眠に深くかかわっている。

 指定確認検査機関に勤務していた頃、建築基準法の採光規定を巡って議論をした事があったことを思いだした。「照明器具が設置されていれば自然光の窓は不要ではないか」という意見だっと思う。「人工照明と自然光は全く別次元の問題で、代替えすることは出来ない」と言ったような記憶がある。その後の建築基準法の改訂を振り返ると人工照明派が多数派となっているようだ。

 しかし自然光によるセロトニンの生成を聞くと、建物の自然光を取り入れる建築基準法の採光規定は、今でも重要だと感じる。

 和田秀樹先生は、日本の医師は、自分が担当する臓器のスペシャリストにしか過ぎず、長生きの専門家ではないと指摘する。色々な医者とこれまで接してきたが、本当にそう思う。

 自分も「建物を長生きさせる専門家」になろうと思った。