最近の大学の卒業設計において、既存建築ストック再生の提案が多くなっていると聞く。一種のブームなんだろうけど、それでも若い人達は、時代を読む力が鋭いところがある。建築ストック再生・活用は これからの日本では避けることができない分野であることは、ほぼ間違いないだろう。
さて この本は近畿の大学で教鞭をとっている6人の先生たちの共著である。「はじめてリノベを学び、取り組むための入門書」とあるように「さまざまな教育機関での講義や実習のテキスト」としての役割を持つている。
いままでテキストとして使えそうなリノベ本が中々無かったが、この本は「理論と実践の座標軸」「建築からまちや地域までという座標軸」そして「新築から改修までを時間軸でとらえる」という立体的で体系だった構成になっていて実務者でも再発見する箇所があり面白い。
とりわけ関西方面の事例については、知らなかったものもあり興味深かった。
また弊社が2014年から2015年にかけて、その業務の一部を担当した「THE SHARE HOTEL HACHi 金沢」が事例として掲載されていた。
弊社は、この建物が工事完了検査済証が無かったために金沢市と交渉し、建築基準適合性状況調査や耐震診断・耐震補強設計を行い、法12条5項報告提出する業務までを担当した。その頃は、国交省ガイドラインも発表される前だったので「検査済証の無い建物のコンバージョンなんかできるのか」と事業者も心配していた。たしか法12条5項報告で「検査済証の無い建物の用途変更」を行うのは金沢市で始めてと言われた記憶がある。リノベの裏には、我々のようなデバイスメーカーがいることも知って欲しい。
これからは、簡単なリノベばかりでなく高度の専門知識を要する建築設計者・技術者を育ていく必要があるように思う。たぶん大学教育もこれから変わっていかなければならないのだろうと予感する。