「建築転生から都市更新へ・海外諸都市における既存建築物の利活用戦略」角野・木下・三田村・讃岐・小林編著

 この本は、2019年6月から2021年8月まで日本建築センターの機関紙「ビルディングレター」で連載されていた「海外諸都市における既存建築物の利活用による都市更新の広がり」の原稿を元に編集され2022年6月に出版された。

 建築単体だけでなく都市的視点と重ねて見る事で、都市の更新技術としてのコンバージョン建築のあり方を論じている。

 世界の諸都市は、その成り立ちそのものに様々な背景を持っている。それがどのような更新を遂げているのかを西欧、東欧、北欧、北米、オセアニア、アジアという広大な地域を取り上げており知見は豊富で有意義だ。

 私も2023年より「まちづくり」の中の大規模な既存建築物活用プロジェクトに関わり、自ずと都市的視点の必要性を感じた。プロジェクトに合せて読み返していたのが「人間の街・公共建築のデザイン」ヤン・ゲール著や「ソフトシテイ」ディビッド・シム著だった。

 そのプロジェクトに於いては、その地域のランドマークとなるような建物は、新築建替え(着工済)であるが、その地域がこれから変化する方向性を指し示めすメッセージ性を持っている。と他の設計者の担当だが、私はそう感じている。

 私が関与しているのは、そのランドマーク的な建物の街区に連続する2棟の既存建築物のリノベーションだが、街区は異なるが連続性を強く意識した。

 建築コンバージョン・リノベーションの価値は

  • 1、実用的価値 : 使われていない建物を有効に使う。新築よりも工事期間が短い。投資金額が少ない等
  • 2、文化的価値 : 建物の歴史や都市の記憶の一部を残すことができる価値
  • 3、美学的価値 : 新築ではできないコンバージョン・リノベーションならではの空間や外観が出来るという価値

があると言われている。

 民間の商業的なプロジェクトでは、実用性が最も重視される。投資対効果、事業収支の実質利回り、既存建築物の多角的視点による潜在能力(ポテンシャル)の確認等である。

 私は、学者でもなく、評論家でもなく、単なるデザイナーでもない。実践者の一人なので「実用性」を最も重視していている。

 この本には、登場する建物の建築名リストと所在地がリンクされている。地図を見ていると その建物の都市の中の配置、景観的位置づけ等を読み取ることができ、ペーパーとデジタルの連携的な本の作り方は参考になった。