土砂災害危険区域 -4

たまたま全国各地の建築法規の取り扱い基準について別な項目で調べていたら、先に記載した崖地のオープンテラスに類似したケースとして「架台等の取扱い」というのを見つけた。

横浜市建築基準法取扱基準集(令和2年4月版)

1-3 架台等について(参考)
架台その他これに類するもの(柱又は壁及び床版により構成される工作物でその床版の上部を駐車や建築物へのアプローチ等の利用に供するもの)又は機械式駐車装置の地下ピット部分については、確認申請等が必要ではない工作物ですが、日常的に人の通行、駐車等に供し構造上の安全性に配慮する必要があることから、法第 19 条、法第 20 条
など建築物に対する規制に準じた設計を行ってください。

(まち建企第 2287 号 平成 20 年3月4日)
(建建企第 811 号 平成 22 年8月9日改正)

斜面地の多い横浜市ならではの取扱い基準だと思う。この架台等の取扱い基準は、現行はシンプルな表現だが、以前は法12条5項に基づく築造計画書の提出を求めていた。以下 昔の横浜市の架台指導基準。

■架台等の指導について(指導基準)

架台等の築造における指導については、次により行うものとします。

1、架台等の意義

架台その他これらに類するもの(以下「架台等」といいます。)とは、柱又は壁及び床板により構成される工作物で、その床版の上部を駐車その他の利用に供するものをいいます。

2、適用範囲

この取扱いは、高さが2m超える架台等に適用します。

3、築造計画書の提出

築造主は、架台を築造しようとする場合において、工事着手前に法12条5項に基づく架台等築造計画書(以下「築造計画書」といいます。提出するものとします。

4、築造計画書の審査

築造計画書が提出された場合においては、構造の安全その他の事項について審査を行うものとします。

5、技術基準

技術基準については、法19条、法20条及び法44条を準用するほか、建築物に準じた指導を行うものとします。

6、施工状況報告

築造主は、架台等の工事が完了した場合においては、施工状況について報告するものとします。

7、8略

(横浜市建企指第1007号 建築局長 平成5年4月1日)

土砂災害危険区域 -3

以前書いた土砂災害危険区域のオープンテラスの構築について、区の建築主事はテラス下部が屋内的用途ではないので、建築基準法第二条の「建築物」には該当しないという判断をしめした。

今一度、建築基準法の「建築物」の定義をおさらいしてみよう。

一  建築物 土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨こ線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。」(平成5年6月25日 – 現在有効)

上記が現在の規定。

「一  建築物 土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの、これに附属する門若しくはへい、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設をいい、鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びにこ線橋、プラツトホームの上家、貯蔵そうその他これらに類する施設を除くものとする。」(昭和25年11月23日 – 昭和34年12月22日)

上は建築基準法制定時から昭和34年改訂までの規定。

庭の平坦部分につくるオープンデッキなら その安全性は自己責任の範囲でどうぞということで良いと思うが、土砂災害危険区域に指定されている崖地の上に自己所有地とはいえ、敷地いっぱいにオープンテラスを作れば、地域住民がその安全性を心配するのは当然だと思う。

塀が地震等で倒壊し歩行者の安全をおびやかしたり、事故が発生しブロック塀などの建築基準が出来たように、本件の崖地のようなところに敷地一杯にオープンテラスを作る場合、崖地の崩壊やデッキの崩壊が起きた場合は、敷地外にも影響を及ばす可能性が明らかな場合には「類する構造のもの」で「建築物」とするべきで、所有者は、それ相応の安全性を担保する責務があると言うのが私の考えです。

現役の建築主事と法律論を闘わしても平行線に終わると思いますが、振り返れば建築基準法も「環境を整える」視点から「私権の拡大」へと大きく変わってきました。

この20年程の背景は、なんといっても「新自由主義」「市場万能」「規制緩和」だと思います。今は「新自由主義」と決別する分岐点に立たされている時代を迎えています。

土砂災害危険区域 -1

都内の土砂災害区域内・つまり崖の下に住む住民の方から相談を受けていた。

以前は樹木に覆われていた斜面の下に大谷石の擁壁がある。その崖の上の敷地の建物の新しい所有者が崖の上・敷地全域にテラスを築造する工事を開始した。当然樹木は伐採、地表面は裸になり木の板で土留めのような工事をしている。またテラスを支えている支柱の基礎は根切が浅く、中には置いてあるように見えるところもある。このテラスは大規模で斜面部分に築造し約100㎡はあるのではないだろうかと思われた。

東京都内の土砂災害危険区域の指定は、東京都の管轄で建設局河川部が担当している。

建設局河川部に相談したところ、危険性があることは確かだが都が要請、指導する権限はないとのこと。建築物であれば建築申請等が必要になるが、区が申請不要と判断すればそれ以上の対応は難しい。
しかし都から区の建築課に電話をすることくらいなら可能とのことだった。

相談をした際の都の主な見解。
・木の土留めは評価できない。仮設とすら言い難い。
・大谷石は機能するとは見ていない。大谷石の考え方については区でも説明あり、
現在の建築基準を満たしていないものの、長い年月その状態にあることから、構造
上の計算はできないが、長年の安定性への信頼度からそのまま残しているケースは多いとのことだった。→ 実際本職が現地を見た限りでは、かなり風化が進んでいる大谷石擁壁だった。
・水害だけでなく地震による危険もある。
・自分たちであればこのような工事は行わない。
・切り株を残してもツツジを植えてもあまり意味はないと考えられる。

樹木を取り除いてしまった今の状態をより安全にするには、排水処理をしたうえで法面をコンクリで固めるか、しかるべき擁壁を建てることが望ましい。

一方 区の建築指導課監察係は、屋根のない構造物であり、テラスの下が屋内的用途でない事から建築基準法第2条に規定する「建築物」には該当しないので、指導や是正命令はできない。ただし設置者は、安全性を考慮したうえで設置すべきだと考えられるから、テラス及び崖地法面の安全性については住民に丁寧に説明するよう要請すると回答。

区から回答があってから三週間。未だ設置者から地域住民への説明はない。

クオス横浜六浦ヒルトップレジデンス 建築確認取消し判決

2016年11月29日、東京地方裁判所で建築確認申請が取り消された横浜市金沢区の地下室マンションの概要について記載しておきます。新聞関係の掲載記事はリンク切れになりつつあるので。

【概要】

名称 :  クオス横浜六浦ヒルトップレジデンス・ブライトガーデン

クオス横浜六浦ヒルトップレジデンス

当該マンションは、第一期二次の販売を中止しています。

所在地 :   神奈川県横浜市金沢区六浦五丁目地内

地域・地区 : 市街化区域、第一種低層住居専用地域、22条地域、第1種高度地区、宅地造成工事規制区域、急傾斜地崩壊危険区域、緑化地域
建ペイ率 : 50%・40%
容積率 : 80%

設計監理 : 荒川建設工業(株)

建築確認 : 国際確認検査センター㈱

売主 :  株式会社 ワイ・エフ・エム

【関係記事】

横浜市金沢区 地下室マンション

小石川二丁目マンション(ル・サンク小石川後楽園)@事件の現場

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2/25、小石川二丁目マンション(ル・サンク小石川後楽園)の現地を訪れてみた。

外構工事を残して工事は中止されたままだった。工事事務所は撤収されており、現在は管理者は常駐していないように見受けられた。

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地下鉄の後楽園駅、春日通り・文京区役所の交差点からはとても近く、利便性が良くマンションとして最適な立地だと感じた。

しかし道は狭い。

住民側の要望だった「車寄せを敷地内に設けてください。ゴミ出し場やメインエントランスを車寄せに代用しないでください」というのは、近くに住んでいる人達にとっては、至極あたりまえのような要望だと思った。

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この建物の敷地は凸型で、実質は急傾斜の「掘坂」に面していて、六角坂とかこの道には形ばかりの接道なのだ。

DSCF2350_R「堀坂」は、歩道はあるものの、思っていたより急傾斜だった。

私だったらこの坂の途中に駐車場の出入り口があるのは嫌だな。何よりも坂道発進苦手だし。

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「堀坂」を「六角坂」から見たところ。住民側の要望に「駐車場出入口を坂が平坦になる位置に移してください。」とあったが、マンション側住民の駐車場出入りの安全性から考えても検討の余地はあったのではないか。

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1階の駐車場出入口付近

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「六角坂」は、一方通行だが幅員は6m程度ある

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「六角坂」側の接道。

昨年平成27年11月2日付けで東京都建築審査会で建築確認申請が取り消されたのだが、その後公表された「第1254回口頭審査議事録」「建築計画概要書」等を読んだ。

こうした傾斜地に建つ建物の「避難階」の考え方は難しい。建築基準法では、施行令第13条第一号に「避難階」カッコ書きで「直接地上に通ずる出入口のある階をいう」とあるだけだ。法律の解釈だけで是非を判断しがちだけど、果たしてそうだろうかと思う事が多い。

竣工間際の建築物の工事の執行停止や建築確認を取り消す事が、どれだけ社会的に影響が大きいことか。マンションを契約していた人達、事業者、設計者、施工者・・・。そして地域の人達にとっても、このままこの建物が放置されることは望んではいないのではないかと思う。

建築業界のみならず、様々な教訓を「事件の現場」は提起してくれる。