建築士法第19条「設計の変更」に関わるトラブルは昔から結構ある。
「設計監理契約が途中で解約となり、自分の設計をほとんど利用して、別の設計者が設計して建物を完成させた。」「工事監理が別の設計事務所になり、計画変更確認申請が出されたが、承諾を求められなかった」等
長く設計事務所を営んでいる人なら、こうした建築士法第19条にまつわる発注者とのトラブルは大なり小なり経験している事だろう。
建築士法第19条はこう書いてある。
(設計の変更)
第十九条
一級建築士、二級建築士又は木造建築士は、他の一級建築士、二級建築士又は木造建築士 の設計した設計図書の一部を変更しようとするときは、当該一級建築士、二級建築士又は木造建築士の承諾を求めなければならない。
ただし、承諾を求めることのできない事由があるとき、又は承諾が得られなかつたときは、自己の責任において、その設計図書の一部を変更することができる。
「設計を変更しようとした場合、原設計者の承諾を得られない場合は、自己責任において変更できるとあるが、 もし杭や基礎、RC部の躯体を変更せずに、構造計算書による耐力の範囲内で屋根や間取りが変更された場合、杭、基礎、RC部の躯体の設計責任は弊社に残るのものなのか?」という質問があった。
第三者が監理を行う場合、設計者が参加しない「設計変更」とその場合の「設計責任」について私見を述べた。
「 設計変更を承諾するのは建築士法で設計者となっています。しかし建築士法第19条のただし書き「承諾の得られない事由」がありますのでその解釈によっても捉え方が変わると思います。
以前 知人の事務所が施主と意見があわず工事監理者により計画変更がなされた時にまず、文書で建築士法第19条に基づき「計画変更願い」(図面等添付)を提出させました。
設計者からの回答として「承諾できない旨」の文書を発行し「設計を含めた全責任を工事監理者が請け負うことの趣旨の念書」を書いてもらった事があります。
上記について弁護士と相談し対応しました。
設計者の承諾なしで行われた設計変更に起因する不具合や瑕疵は、設計者にとっては民法上も免責事項になります。
但し、知っていて何も行動しなかったときは、請負人が負う、
「知りて告げざりし責任(民法640条)」が類推適用され責任を問われる場合があります。
今回は設計変更を知ってしまったので逆に何らかのアクションをしないとまずいのではないかと思います。
設計者と監理者の意見が異なった場合に生じた事項に対する責任は、決定に至った状況によりますので、何ともいえません。
また建物全体は一体性がありますから部分の変更にともなう全体や他の部分への影響は、因果関係の証明に苦労します。
発注者の意志で、設計者を参加させないで変更しても良いかとなれば、設計者の承諾を得ない限り、建築士法(設計者の承諾義務)、著作権法(同一性保持権)に違反することと思います。
いずれにしても弁護士に相談しながら対応し、設計者としての保険をかけておいた方が良いと思います。」
と回答しておいた。
この件は、どうやら確認済証が出ているので、工事取止め届を出して、工事監理者が設計変更したもので確認申請を出しなおす方向で、発注者と話し合いがまとまりそうだとのことだった。
弊社の裏メニュー的な業務として「建築法務」がある。建築界も表面には出てこないがトラブルは結構ある。