川口の古民家調査

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シルバーウィークの前、三日間の北九州出張から夜中に帰ってきて、翌日朝からの埼玉県川口市の古民家調査に参加した。

疲れていたが関東では古民家調査の機会が少ないので少し無理して調査に参加した。

(一社)住宅医協会の主催で、参加者14名の調査。

築約175年というから江戸時代後期・天保年代の建物と思われる。

上の写真は土間部分の豪壮な梁組。

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調査の担当は、矩形図の作成だったのだが、GLラインから天井までは自分で実測できるのだが、床下チームから基礎伏図、小屋裏チームから小屋伏図や高さ関係の野帳を見せてもらっての作図となる。

しかし この建物の小屋裏は中々複雑で、小屋梁と小屋束では芯ずれがあり調査・伏図の作成が難航していた。すべての作業が同時並行では矩形図の作成も中々まとまらず、夕方までにフリーハンドの矩形図が出来たのは梁間方向一断面だけだった。

日本の建築法制史を振り返る中で、近世民家のフィールドワークに参加して見聞きするのは欠かせない。というか文献読んでいるだけではわからないことが多い。

江戸時代には「三間梁規制」といって上屋の梁間は三間(約19.5尺)に制限されていた。寛永20年(1643年)「武家住宅法令」が定められ、明暦3年(1657年)に大名屋敷だけでなく町民屋敷へと規制は拡大されている。

しかし古民家を調べていくと実に色々な架構形式があり、三間梁規制を守りながらもあの手この手の工夫で架構方法を変えてながら大きな梁間の家を実現しようとしているのが見られて面白い。

約一か月後ぐらいには調査結果をまとめた検討会が開催されるらしいから、成果小屋伏図、架構図を見せてもらうのが楽しみだ。

デザイン化された耐震補強

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写真は、紀尾井町パークビル・1976年に建てられた旧耐震基準の10階建てSRC、RCのオフィスビル。

テナントビルなので建物内部に一切補強工事をしない。内部は使いながら施工する為に、アウトフレームグリッド工法(鉄骨造外付耐震架構)を採用している。

単に耐震性能を満たすだけでなく耐震補強材によって建物の新しい顔を出現させている。

  • 設計監理:(株)プランテック総合計画事務所
  • 施工:(株)安藤・間
  • 工期:2013年5月14日~2014年8月29日

「外付け耐震補強」は、新しい補強方法ではない。テナントが入居したままの補強工事が可能なこと、意匠性に配慮したい建物などの場合に、これまでも事例がある。

例えば「宮田商店伏見ビル」(愛知県名古屋市)

  • 改修監理:(株)佐藤総合計画
  • 施工:五洋建設(株)
  • 工期:2006年竣工

ただしデザイン的完成度で言えば紀尾井町パークビル。

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上の写真は、四国銀行本店(高知市)の耐震改修後の写真で縦格子鋼板耐震壁が採用されている。

t=25のフラットバー格子とt=10のパネル材が市松に配置されている。開口率が50%なので採光も確保できている。

  • 改修監理:(株)現代建築計画事務所、大成建設一級建築士事務所
  • 施工:大成建設(株)四国支店
  • 改修施工:2007年

この縦格子鋼板耐震壁は、大成建設が特許を取得している。

建築関連法規の変遷・明治から昭和25年まで

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  • 1873年(明治6年) 神奈川県「家作建方条目」公布
  • 1886年(明治19年) 大阪府「長屋建築規則」公布
  • 1886年(明治19年) 滋賀県「家屋建築規則」公布
  • 1886年(明治20年) 群馬県「長屋建築規則」公布
  • 1905年(明治38年) 佐野利器 : 台湾地震震害報告会講演
  • 1906年(明治39年) サンフランシスコ地震(推定M7.8)
  • 1906年(明治39年)   東京市長尾崎行雄が建築学会に東京市建築條令作成を依頼し起草委員会ができる
  • 1907年(明治40年)   東京市建築條令第一回草案、これ以降1913年(大正2年)終結まで5回起案

佐野利器:明治44年2月より大正3年4月までドイツ留学

  • 1909年(明治42年) 大阪府建築取締規則公布
  • 1912年(明治45年) 兵庫県建築取締規則公布
  • 1913年(大正2年) 東京市建築条令成案
  • 1915年(大正4年) 佐野利器「家屋耐震構造論」博士学位論文
  • 1918年(大正7年) 東京府建築取締規則案(警視庁)
  • 1919年(大正8年) 大連市建築規則
  • 1919年(大正8年) 市街地建築物法公布
  • 1919年(大正8年) 都市計画法(旧法)公布(用途地域3種)
  • 1920年(大正9年) 市街地建築物法施行令・施行規則改正
  • 1923年(大正12年) 関東大震災
  • 1924年(大正13年)  市街地建築物法施行規則改正(構造規則の改正、耐震計算義務化、震度法による水平震度k=0.1明記)
  • 1946年(昭和21年)  特別都市計画法公布
  • 1946年(昭和21年) 建築法草案(戦災復興院建築局)
  • 1947年(昭和22年)  消防法公布
  • 1949年(昭和24年)  建設業法公布
  • 1950年(昭和25年)  建築基準法公布

1950年(昭和25年)の建築基準法の公布まで、大地震の視察や経験、研究の成果を反映して明治以降様々な建築法や案が作られ、ひとつの法律として収斂されてきたことがわかる。

現行法の原形ともいえる構造規定が東京市建築條令(学会案)に生まれている。例えば柱の小径規定、煉瓦造の壁長制限、算出式、材料強度や荷重等の数値規定がすでに盛り込まれている。

人物として佐野利器さんの業績は偉大だと思った。

今年3月に築85年の文化住宅を調査したが、筋違・ボルトがあり大正期の近代法規(案)の影響があったことを知った。

また現行法令の根拠を考えていると、結局その源泉は、古い法律やその案に見出すことができる。近代以前は、近世・江戸時代の建築規制の影響を見過ごすわけにはいかない思う。

昨年、京町屋について学ぶ機会があったが、京町屋の定義として「昭和25年に建築基準法が制定される以前の京都の木造住宅」あるいは「京都の町屋だから京町屋」という考えには違和感を覚えた。

江戸時代の規制がなくなった後の影響、大正期の近代法規の影響もあるし、全国的にみても際立った特徴があるわけでもなく、ただただ空襲が少なく古い木造住宅が残っているだけではないかと思っている。

戦時統制下の住宅 : 旧前川圀男邸

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東京小金井の江戸東京たてもの園にある、建築家・故前川圀男氏の「自邸」。 旧所在地は、東京都品川区上大崎(現在のJR目黒駅に近い閑静な住宅地)、敷地面積は149.82坪で北側が4mの道路、南側は崖であったと記録されている。 この「自邸」の竣工は、1942年(昭和17年)で、すでに太平洋戦争中であり、昭和14年には「木造建物建築統制規則」が施行されていた。

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現在、私達が江戸東京たてもの園で見ることができるのは、竣工時の昭和17年のものではなく、昭和30年頃のものと「前川圀男邸復元工事報告書」に記載されている。1973年(昭和48年)に解体され部材の状態で保存され、復元工事を経て1997年(平成8年)に公開された。

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復元工事による現在の建物概要は 木造二階建て、切妻造、桟瓦葺き、外壁竪羽目板張り、 建築面積 : 94.21㎡ 、1階床面積 : 94.21㎡ 、2階床面積 : 14.46㎡、 延床面積 : 108.67㎡

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【北側】

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【居間】

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【2階をのぞむ】

昭和14年の「木造建物建築統制規則」では、第一条に

木造建物(以下建物と称す)にして次の各号の一に該当するものを新築せんとするものは地方長官(東京府にありては警視総監以下同じ)の許可を受くべし

一、農業(養蚕業を含む)、林業、畜産業、又は漁業を営む者の業務及居住の用に併せ供する建物にして総床面積160㎡(48.4坪)を超ゆるもの。

二、前号に掲ぐる用に供せざる建物にして総床面積100㎡(30.25坪)を超ゆもの

とあり、規則上は100㎡以上は警視総監の許可が必要だったとあるがその書類は残っていないようだ 。

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【寝室(2)】

復元図に基づいて単体規定(採光・換気等の計算)について演習を行い実際に見学し、数値と感覚を確認する。

【この記事は「空間デザインと建築法令」講義のダイジェスト版です】

「空間デザインと建築法令」-2

【目次】

1、 総論

(1) 建築関係法の遍歴
・近世から現代へ建築法制の遍歴を江戸東京たてもの園、博物館明治村等に移築復元され実際観に行くことができるものを中心に論究する。
(a)江戸の防火規制、屋根、蔵は耐火建築物について
(b)「普請申請」(現在の建築確認申請)、「作事検分」あるいは単に「検分」(現在の竣工検査・工事完了検査)について
(c)市街地建築物法・東京市建築条令案(学会)、東京市建築条例案(妻木案)等
*実例案*
(d)明治: デ・ラランデ邸(江戸東京たてもの園)
(e)大正: 田園調布の家(大川邸/江戸東京たてもの園)
(f)昭和: 旧高田邸(国立市・2015年解体)
(g)戦時統制下: 前川圀男邸(江戸東京たてもの園)

(2) 法令の構成・建築基準法の目的と内容
(3) 基礎知識(用語の定義、面積、高さ等の算定方法を学ぶ)~法を正しく理解するために

2、 建築基準法

(1) 制度規定~建築計画の段階から着工、完了、維持管理に至るまでの各種の手続き及び制度の運用に関する規定を学ぶ

(a)建築確認
(b)建築確認を要する建築物
(c)行政不服審査法・建築審査会
(d)違反建築物に対する措置・罰則

(2) 集団規定~戸建て住宅と特殊建築物

(a)建築物と道路
(b)用途制限に関する規定
(c)規模制限(建蔽率・容積率)
(d)形態制限(道路斜線・隣地斜線・北側斜線・高度斜線・天空率)
(e)防火、準防火地域内の規定(条令:新防火地区)

(3) 単体規定

(a)採光、換気等の居住環境に係る一般構造
(b)排煙、内装制限等の特殊建築物に係る規定
(避難安全検証法・耐火性能検証法等)
「木材会館」「富広美術館」「坂の上の雲ミュージアム」
(c)構造設計と構造計算に係る規定
(d)構造種別毎の構造仕様に係る規定
(e)建築物の防火に係る規定
(f)建築物の避難等に係る規定
(g)建築設備に関する規定

3、 建築関係法規~実在の建築プロジェクトを通して関連法について学ぶ

(1)郊外型店舗(コンビニエンスストア、飲食店)
・都市計画法(開発行為)/農地法/道路法/屋外広告物/工作物
(2)伝統的建築物保存地区等
・景観法(条令:金沢市、今井町等、都区内の景観条例比較)

(3)バリアフリー法
(4)消防法(老人ホーム、保育園)
(5)建築士法
(6)環境建築・省エネ法(「ソニーシテイ大崎」「木材会館」)
(7)契約、訴訟、トラブル対処
(8)東京都総合設計許可制度(超高層ビル予定)
(9)一団地申請(集合住宅団地、「蔦屋代官山」等)

4、 建築再生~リノベーション・耐震診断・耐震補強等、既存建物の設計と法令について学ぶ
(1) 既存建物の事前調査の方法(登記簿謄本・台帳記載証明等)

(2)実地調査の方法

(3) 実例解説
・「千葉県大多喜町役場」
・「三菱一号館」
・「紀尾井町パークビル」(アウトフレーム耐震補強)
・その他
*実例解説で取り上げた建物は「案」であり、講義時期に合わせて話題の事例を取り上げていきたいと考えています。

「空間デザインと建築法令」-1

「空間デザインと建築法令」・「建築法規」カリキュラムの提案

【はじめに】

空間デザインに関連する建築法令は、都市や環境、建築の形態、性能に大きくかかわっています。

建築計画や設計を行う際に必要となる建築関係の法令について、建築基準法を中心に解説するほか、実在の建築プロジェクトにおいて都市計画法、バリアフリー法、景観法、消防法等の他の関係法令と、どのような関わりがあるのかについても解説します。

建築の実例等を紹介しながら建築関連法規を法文解説することで、建築法令のリアルな把握を促し、建築法令を止揚することでデザインの自由度や空間の新しい可能性を生み出すことができることを知ってもらいます。そういう実例を通して若い人達に建築法令の必要性を理解してもらう事を主眼としています。

建築実例は、現に存在し見ることが可能な建物を中心に、江戸東京博物館、江戸深川資料館等の資料、江戸東京たてもの園等に移築復元した近代の建物や市中にある著名な現代建築等を中心にすえて法令の解説をします。

建築基準法をはじめとする建築法令は、建築物を計画、設計する上で必須の法令です。また建築関係法令は、木造建築士、二級建築士、一級建築士等の資格試験の試験科目となっています。

このように建築法令は、実務上必須であり、年々複雑かつ多様な関係法令が出来ているにも関わらず、今も昔も多くの大学では、2単位というところが多く選択科目にすぎないところや、授業の内容が二級建築士受験対策講座のようなところもあります。

実務現場からは、学生時代にもっと多くの時間を割いて、建築基準法や建築関連法について学んでおくことが、切望されています。

主として都内の大学で4単位としてカリキュラムを編成する場合を想定して提案します。