先頃届いた東京都建築士事務所協会の機関誌「コア東京6・2016」をながめていた。
記事の中では、「オフィスビルを保育所にコンバージョン・ビルイン型保育所の課題と設計の実際」石嶋寿和氏(株式会社石嶋設計室)が読み応えがあった。
石嶋氏が、ビルイン型保育所を設計する上で直面した用途変更に伴う諸問題が良く整理されている。
1、消防法の既存遡及
保育所がテナントとしてビルインする場合、ビル全体の消防法の用途が「複合用途防火対象物(16項イ)となり、用途変更する保育所部分の問題だけでなく建物全体に現行の消防法の基準が適用される。それらにかかる防災設備の費用をテナントが負担しなければならない場合があり資金的なハードルとなる。これはビルの一部に飲食店が入居する用途変更の場合も同様の問題が生じる。
2、建築基準法の採光
オフィスビルに入居する場合などは、敷地境界線から建物の離隔距離か少ないため有効採光が取れないことがある。弊社でも事務所から入院施設のある診療所への用途変更で病室の有効採光の確保に苦心したことがある。
3.東京都建築物バリアフリー条令
記事では「誰でもトイレ」の設置について取り上げているが、おりから東京都都市整備局市街地建築部長から「高齢者、障害者が利用しやすい建築物の整備に関する条令第14条の適用に係る基本的な考え方について」(28都市建企第252号・平成28年6月2日)という技術的助言が通知されている。これで保育所関係の都バ条令第14条の制限の緩和は、やりやすくなった。
4、東京都児童福祉施設の設備及び運営の基準関する条令
記事では、二方向避難の問題を取り上げている。駅前などの中小ビル等には敷地の余裕がないため外階段等を設置できないという実情はわかるが、こと安全上の問題に関わることであり、避難に関わること、防災上の問題は慎重に考えたいところだ。それにしても建築基準法上は、「直通階段」で良いところを「屋外避難階段」とされている。より安全性を考えて「屋外避難階段」としているのかも知れないが、過剰かなと思うこともある。
5、排水
記事では既存の給排水の位置を現地調査し計画図を作成しているとある。リノベーションでは「調査なくして設計無し」であり、新築とは異なる設計手法が必要となる。
用途変更に伴うオール電化厨房設置による幹線の変更、キュービクルの変更あるいは新設、飲食店等が入居する場合はグリストラップの設置などの問題もある。
これらのように、用途変更には幾つものハードルがある。入居ビルの選定の段階から、構造・設備・法令等の総合的な知識と経験が要求される。