「法隆寺建築の設計技術」溝口明則著

HORIYUJI

2014年日本建築学会賞・論文賞を受賞した名城大学の溝口教授の著作である。

法隆寺の造形尺度や寸法計画について、伊藤忠太の柱間比例決定説や関野貞の柱間完数制説などの既往の研究を詳細に分析検討しその問題を指摘しつつ、建物全体の規模計画に注目している。

まさに労作であり、学会賞受賞にふさわしい著作だと思う。

私は、日本建築史の専攻ではないが、学生時代には法隆寺の再建・非再建論争には関心があって 幾つかの論文を読んだ記憶がある。

法隆寺非再建論を主張した関野貞の論拠の一つが、法隆寺は「高麗尺」によって設計されたというものであった。

以来、建築学会の中では「唐尺」か「高麗尺」かという議論があったが古代史研究の中では、新井宏氏が「まぼろしの古代尺・高麗尺はなかった」(吉川弘文館刊)の中で「古韓尺」という尺度を日韓の数多くの遺跡、寺院の資料から提示されている。

この「古韓尺」は尺=26.7cmである。

尚、一般的には大宝律令の大尺(高麗尺に由来)は、35.6cm

小尺(唐尺に由来)は、29.6cm

現尺は、30.303cmである

溝口先生は、唐尺を現尺の0.987程としているから29.91cmとしているようだ。

法隆寺の設計尺度として高麗尺では説明しきれなかったし、私の中では「古韓尺」がもっともすっきりしていた。ここにきて溝口先生が「唐尺」という説を出されて「百年の議論を終結」と言われても・・・

今、この本に記載されている法隆寺の寸法を時間を見て自分なりに検証してみている。

それにしても法隆寺は、ため息がでるほど美しいのだ。

私は法隆寺の五重塔が、日本で一番美しい五重塔だと思っている。

美しい建物や仏像は、学徒を虜にする。