藤森先生と山口画伯の掛け合い漫才のような珍道中ならぬ建築史講義。2013年に淡交社から出版された単行本が。今年8月中公文書から文庫版で出された。写真は淡交社版。
古くは法隆寺に始まり、新しくは聴竹居の全13回と文庫版では「平野家住宅」が特別収録されている。
この本の中で、近くに行くのに見に行けないのが、京都大山崎の「聴竹居」(ちょうちくきょ)。昭和初期のいわばエコハウスの先駆けと言われている建築。施主の藤井厚二は、モダニズムと数寄屋が両立するデザインを追求し、自然エネルギーを生かした住まいを完成させた。
聴竹居の存在を知ったのは学生時代、卒業設計に着手したころではなかっただろうか。その頃のテーマは「エナージー&フォーム」(エネルギーと建築形態)で、いまでもそれを引きずっている。
あれから半世紀近くになろうとしているのに京都や大阪には幾度となく行くのに見に行けないでいる。冥土の土産に一度は行かないと。
さて、藤森先生と山口先生の視点は 流石に面白い。
それぞれ懐かしい思い出が呼び起こされる建物が題材になっている。京都「角屋」は文化財保存修理の最中に今は亡き田中文男さんらと見学する機会を得た。横浜の「三渓園」は、横浜の設計事務所の頃、所員とその妻が全員招待されて懐石料理をいただいたこと。西本願寺飛雲閣を見る機会を得て、その頃「日本の屋根」について書いた論考を見た師・伊藤ていじから激励の葉書が来たこと。
実際に見た建物からは記憶が呼び起こされてくる。恐らく建築というのは記憶を封印する装置なのだろうと。