近年著作に触れることが多い、内田樹(たつる)さんの自宅・合気道道場・能楽堂など多様な機能を持っている建物「凱風館」を建てた時のことを建築主としての立場から書かれた本です。
内田さんが命名した建物名「凱風館」の「凱風」(がいふう)は、
詩経の「凱風自南 吹彼棘心」
「凱風南よりして彼の棘心(きょしん)を吹く」から取られたと書かれています。凱風は暖かい南風で、母親や教師の慈愛を表し、棘のある子を温かく見守るという意味です。名は体を表すというか、いい館名だと思います。
「道場が欲しい」から始まって、家を建てようと思った時に、初面識で雀卓を囲んだ若い建築家(まだ住宅を一から設計したことがない)・光島裕介さんに設計を依頼したくだりは感心しました。内田さんは、人を見る目があるというか、無謀というか・・・こんな建築主は、ほとんどいないだろうし。
私が、その仕事に触れたことがある人達が沢山出場します。
岐阜県中津川市加子母に本社がある中島工務店。左官職人の井上良夫さん。瓦師の山田脩ニさん。いい仕事っぷりです。
この本は、「凱風館」の建設の記録、内田さんの住まいに対する考え方の本でもありますが、やはり思想家・内田樹の書く本は違います。「能」「アジール(避難場所)」「逃れの町」「母港」「貨幣」「教育」に対する論が散りばめられています。
読み終わると爽快な気分になりました。