てら小屋セミナー2025 加子母フィールドツアー 原点に還る旅

 「てら小屋セミナー2025・加子母フィールドツアー」は、木から建築ができるまでの過程を体験的に学ぶことと、神宮備林で樹齢何百年の木々達と触れ合う機会でもありました。

 またツアーを通じて、通常では中々体験できない20歳代から70歳代の世代間交流をリアルに行う場でもあり、同じ時間を共有し会話をすることで、お互いに刺激になったのではないか思います。

 そして、人として建築技術者として「原点に還る旅」でもありました。

 都会で仕事をして生活していると、身体は満たされても心は空腹になっていくような気がしていました。

 渡合温泉で早朝に小鳥のさえずりと小川のせせらぎの音だけの世界に身をおいていた時、何か心の空腹が満たされていくような気がしました。それは、たぶん「癒される」という事なのでしょう。

 先人達は、自然の音のだけの世界で、癒され、思考し、行動していたのだなと思うと、こういう空間に時々立ち戻る必要があると思いました。

 また、建築技術者として、生産者や流通経路に思いを寄せる必要性を強く感じました。

 それは「凧の糸」なのではないか。我々は、糸を切ったら、どこに飛んでいくかわからない「凧」で、常に現場との糸を切らしてはいけないのではないかと思ったツアーでした。

 【神宮備林・二代目大ヒノキの前でツアー参加者と】

 

てら小屋セミナー2025 加子母フィールドツアー 神宮備林-2

人工植林の山路を進む

山は整然とし凛とした美しさ

空は五月晴れ

天然の山は、実生(みしょう)と言って自然に芽をだし、それが育つ

いろいろな木や草の中で苦労して、時間をかけて育ち

根が深く他の草木の根と支えあう

「二代目大ヒノキ」

樹齢1000年、樹高26m

初めて天然ヒノキ林である神宮備林に来ることができた

林道から往復3km弱の山道だったけど、やっぱり上り下りはきつかった

大地のエネルギーというか魂というか、それを感じることができたのは

この歳にして貴重な体験だった

てら小屋セミナー2025 加子母フィールドツアー 神宮備林-1

今回、特別な許可を得て神宮備林に入ることができた

まずは第62回神宮式年遷宮斧入れ式跡地

2033年(令和15年)に、第63回式年遷宮が行われますが、

その8年前の今日2025年(令和7年)6月5日に、

始まりの祭事「御杣始祭(みそまはじめさい)」(裏木曽御用材伐採式)が、

加子母裏木曽国有林で執り行われる。

「御杣始祭」は御神体を納める器の材料となる

神聖なヒノキ「御樋代木(みしろぎ)」を

「御杣山(みそまやま)」にて正式に刈りはじめる祭事。

説明を聞くツアー参加者たち

ヤマビル対策は、バッチリの服装

いざ二代目大ヒノキに向かって進む

てら小屋セミナー2025 加子母フィールドツアー ランプの宿 渡合温泉-2

 いつも通り朝3時頃 目が覚めて、

スマホもいじれないし、テレビもないので、

持ってきた馳星周の「月の王」を読んで

 1930年代の上海にタイムスリップしていた。

そうしたら

 夜が白々と明けてきて、

小鳥たちのさえずりと谷底を流れる川の音だけの世界に、身を委ねていた。

何もないということは、こんなにも心が満たされていくものなのか。

早朝の玄関ロビー

大人も子供も遊べる玩具・ゲームが一杯ある

沢の水で冷やされている飲み物

2歳と5歳の男の子と何を飲むか選んでいた。

子育てには参加しなかったが、

意外と自分も子供と戯れることができるんだなと思った。

朝食前の時間にロビーに集まってきて鉄砲撃ち等に興じる

朝食

天然イワナとアマゴの水槽

いざ神宮備林(加子母裏木曽国有林)に向け出発

てら小屋セミナー2025 加子母フィールドツアー ランプの宿 渡合温泉-1

宿泊地は、付知峡の山奥にある「ランプの宿 渡合温泉」

各自風呂に入り、夕食の時間を待つ

私自身は、3年ぶり2回目の宿泊

美味しくて量が多い、渡合温泉の夕食

岩魚の骨酒 美味し

2階への階段 

と言っても玄関から下に降りる2階

洗面所 水冷たし

宿の主人からランプの使い方、ひもの結び方を教わる人たち

他の人は食堂で 消灯の時間まで地酒を飲んで談笑

 

てら小屋セミナー2025 加子母フィールドツアー 木材の流通経路-3

(株)中島工務店のプレカット工場

工場長が案内をしてくれた。

最近の軒の出、ケラバの出が無い建物に対応した

屋根垂木をパネル的に工場加工したもの

集成材工場

フィンガージョイント加工

集成材

造作材加工

国立4大卒のうら若き女性が、宮大工棟梁を目指して

黙々とほぞを鑿で加工している姿が印象的だった

てら小屋セミナー2025 加子母フィールドツアー 木材の流通経路-2

次に向かったのは製材場で、

上の写真は丸太(原木)皮むき機械

皮を剥がされたばかりの木は水分が多い、手で触って確認した。

 伐採前の木で、細胞などが自由水(自由に移動できる水分)と結合水(たんぱく質などと結合して移動できない水分)によって満たされた状態で、含水率100〜200%。これを「生材(なまざい)状態」と言うとの事
 伐採されてまもない状態で自由水が乾燥し始めた木材。含水率50%以上。これを「繊維飽和点状態」
 自由水が全て乾燥し、結合水のみが残った状態の木材。ここから先は結合水は乾燥し始め、強度が上がっていく。含水率は30%程度。これを「気乾材状態」
 放置して結合水を乾燥させ、空気の湿度と平衡状態になった木材。含水率は季節や地域によって異なるものの、含水率は全国平均で15%程度。「全乾材状態」
 重量の変動がなくなるまで乾燥させた木材。ごく少量の結合水しか残っていないため、含水率は0%近く。(ただし、一度0%にしても放置すれば気乾材と同等の含水率まで戻る)
 このように、生材から全乾材まで段階があり、樹種や用途によって適した状態が異なることを詳しく知ることができた。

丸太(原木)を使用用途別に切断

乾燥機

 簡便な木材の含水率を調べる器具は所有しているが、最近は木構造に関わる機会が減ったせいか出番がない。

 学生時代は、木の魅力に取りつかれていた。先生に言われて木の世界に進む選択肢もあったが、設計に関わっていく夢が捨てきれず設計の道に進み、幾度か方針を変えて今がある。

 思い返せば 今度の「てら小屋セミナー2025・加子母フィールドツアー」は「原点に還る」旅だったかもしれないと、写真を整理しブログ投稿しながら考えている。

てら小屋セミナー2025 加子母フィールドツアー 木材の流通経路-1

JR中津川駅に集合し貸切バスに乗車して加子母地区に向かう

「ふれあいのやかた」で昼食(写真は借物)

昼食は朴葉寿司・白川茶・大福

加子母の山林(植林地)を視察

次に向かったのは、山から伐られた木が運ばれる原木市場

山林から切り倒して、余分な枝払いをして、

適切な長さに切断(玉切り)して、木材市場に搬出される。

写真は檜の原木だが、材種別・山林別に整理され競りにかけられる

栗の原木

 実は、原木市場で身近に原木を見るのは始めて、ここで丸太の材積計算には、末口2乗法という方法で計算されることを教えてもらった。

 丸太(原木)の値段は、材積(体積)と立米単価でつけられる。

 この材積の計算方法である末口2乗法はJAS規格で決まっていて、長さ6m未満の丸太ならば計算式は「末口の直径×末口の直径×長さ」で求めるとの事で、円周率はかけないのだという。末口とは細い方の小口(木の先端に近い方)

 例えば末口が直径30cm、長さ4mなら材積は0.3×0.3×4=0.36㎥となる。

 仮に立米単価が1万円だと3600円にしかならない。あまりの原木の値段の安さに驚いた。ウクライナ戦争によるウッドショックで それでも1.5倍ぐらいに値上がりしたというけど、何十年も育てて、この値段では そりゃ林業から離れていくはずだと思った。

てら小屋セミナー2025 加子母フィールドツアー 開催 

 5月20日、5月21日 弊社主催で「てら小屋セミナー2025」を開催し、岐阜県中津川市加子母地域にフィールド・ツアーに行ってきました。

 20日は、国産木材の原産地から加工までの流通経路について現地を視察してきました。21日は、神宮備林(木曾檜美林)に特別の許可をいただき入山してきました。

 両日ともに天気にめぐまれ、檜・杉の葉の色と広葉樹の葉の織りなす新緑の山並みに見惚れました。

 2歳から79歳までの16人が参加し、設計チームの皆さんやクライアントとの交流の場ともなりました。

 参加人数は付知峡 ランプの宿 渡合温泉の宿泊できる人数とバスの定員で決まってしまい、2024年12月に計画して1月に声掛けをしたら、すぐに満員になってしまいました。

ツアーの詳細は、順次投稿します。

「建築ストックの選択」JRMA2024.12

日本不動産経営協会(JRMA)2024年12月例会で「建築ストックの選択」というテーマで話をしてきました。JRMAは不動産経営者の団体で、月1回の例会の外部講師として招かれました。

所有する建築ストック(既存建築物)が改修等の岐路にあるとき、どのような選択肢があり、それぞれにどんな課題、留意事項があるかという整理をしました。

5つに分けた選択肢のそれぞれで特に留意する事をキーワードとして説明しました。赤字は弊社で特に留意、重視している事項です。

これから、高度経済成長期の建築ストックが築30年、40年の大規模改修時期を迎える一方、人口減少時代、マーケットが縮小していく社会のもとで、どういう事に留意する必要があるかということを、弊社で担当した実例の紹介を交えて説明しました。

不動産経営者ばかりなのか、実に質疑応答が多かったです。それとびっくりするほど多くの人と名刺交換をしました。

講演の後 近くの居酒屋で30名ほど参加の懇親会に。

爺さんは、喋りすぎて疲れました。

「てら小屋セミナー2024・建築ストック長寿命化の進め方」を開催しました

 2024年9月20日、弊社主催の「てら小屋セミナー2024・建築ストック長寿命化の進め方」を(一財)日本建築センター、既存建築物技術審査部長・元木周二氏をお招きして開催しました。

 弊社クライアント、業務上関わりのある方々にお声かけし会場の都合で参加人数を限定しての開催となりましたが、27名の方に参加していただきました。

 レジュメと資料をもとにパワーポイントで説明をいただき、建築ストックの長寿命化というのは現代の経済的社会的要請に沿うものだと再認識しました。

セミナーの後、同じ会場で懇親会を開催しました。普段あまり触れあうことがない人達同士で話が弾み、あっという間に時間が過ぎました。

「既存建築物の法適合調査ガイド」⁻円滑な改修のためのA to Z

 昨今の建設費高騰や部材の供給不足により既存建物を活用し、増改築や用途変更を検討する相談が、指定確認検査機関・ガイドライン調査機関に多く寄せられているそうです。

 勿論、弊社でも「既存建築物の再生と活用」に関する様々な相談が寄せられています。

 既存建築物は検査済証の取得をしていない建物も多数あり、増改築や用途変更の際に確認申請の提出が容易でないという相談や、既存建築物を建築基準法の性能規定を利用して改修したいというような等、多様な相談が寄せられています。

 一般財団法人 日本建築センターが2024年5月中旬に「既存建築物の法適合調査ガイドー円滑な改修のためのA to Z」を出版し、それに合わせて6月5日にハイブリッドセミナーを開催するようです。

新刊講習「既存建築物の法適合調査ガイド」-円滑な改修のためのA to Z | 講習会 | 日本建築センター (bcj.or.jp)

又、ビューローベリタスは、無料オンラインセミナーとして5月22日に「建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査)の解説と、成功・失敗事例のご紹介」というセミナーを開催するようです。
「セミナーでは、検査済証のない建築物の増改築や用途変更を円滑に進めるために活用いただける建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査)の解説と、成功・失敗事例のご紹介をします。」と書かれています。

開催日時:2024年5月22日(水)16:00~17:00|申込締切:5月17日(金)

https://service.bureauveritas.jp/Seminar-Training/course.php?type=1&cid=850&utm_source=willmail&utm_medium=email&utm_campaign=mail_6295

 相次ぐ指定確認検査機関・ガイドライン調査機関のアクション。既存建築物の技術審査部門のビジネスチャンスと見ているようです。

VBJ「事例から学ぶガイドライン調査~成功事例と失敗事例~」

 7月20日に開催されたビューロベリタスジャパン(VBJ)のオンラインセミナー「事例から学ぶガイドライン調査~成功事例と失敗事例~」を拝聴した。

 東京都建築士事務所協会で準備している書籍のなかで、ガイドライン調査すなわち「検査済証がない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」について執筆を担当していたので、機会があればこういうセミナーを受講している。

 VBJは以前から課題別のセミナーを多数開催しており、このガイドライン調査についてのセミナーも幾度か開催しているようでした。1時間のセミナーの中で説明事項もよくまとめられて手慣れた感じを受けました。

 国交省に届出をしたガイドライン調査をする指定確認検査機関は全国で38社(2022.4.1現在、但し実質業務をしていない会社が数社)あるが、ヒアリングをしてみると同じガイドライン調査でもアプローチの異なる会社も散見します。

 VBJは、国交省が2014年(平成26年)に発表した このガイドライン調査の内容を忠実に履行していると感じていました。

 セミナーで説明していた「Q&A」は、実例を通じて良くまとめられており、こういう「Q&A」も作成してみようかなと思いました。

 さて このガイドライン調査が発表されてから8年経過して、全国での実施事例も概略1,000件を超えているようです。(公表数字ではなく私のヒアリングによる概数)このあたりで日本建築行政会議あたりが音頭を取って事例研究をおこない、ガイドライン調査のバージョンアップを図ってはいかかがでしょうか。

 

 

日経アーキテクチュア 専門セミナー「改修で失敗しない素材&技術講義」

今日は、昼から日経アーキテクチュア 専門セミナー「改修で失敗しない素材&技術講義」と題した青木茂建築工房の話を聞いてきました。

青木茂さんといえば建築ストックの再生・活用である「リファイン建築」の生みの親であり再生・活用分野の先駆者でもあります。

青木茂建築工房の皆さんの講義で、調査からデザイン・工事監理までされ、ファイナンスも業務提携していると聞いて セット・メーカーだと感じました。

それに比べて弊社は調査と手続きを主として行うデバイス・メーカーです。何しろ2人だけの事務所ですから・・・。

段々 青木茂建築工房の扱うリファイン建築は規模が大きくなっていますね。

業務の進め方は、弊社とさほど変わらないようで安心しました。

「調査なくして設計なし」という事で調査業務を大事にしているところは、同じベクトルなのでとても共感を持てました。

また アイソメによるわかりやすいプレゼンテーションで大変参考になりました。これからは、弊社もアイソメで説明図を作成しようと思います。

平成29年度 国立研究開発法人 建築研究所講演会

今日は、朝から平成29年度 国立研究開発法人 建築研究所講演会に行ってきました。

と言っても、理事長挨拶と「既存住宅の躯体の生物劣化発生確率に関する分析~100棟超の既存木造住宅劣化状況データーベースの分析から」材料研究グループ 上席研究員 槌本敬大氏の研究成果報告を聞いただけで退席し、有楽町で知人と昼食をとりながら打合せをしてから帰宅しました。

万年寝不足のせいか、講演会場の居心地がよかったせいか、槌本氏の発表の途中で多少うたたねをしてしまいましたので、もう一度講習会のテキストを読み返していたところです。

この研究は、2011年~2014年にかけて全国103件の解体直前や大規模な改修を行う既存住宅の劣化状況等を調査したものですが、実は、私も数件この調査に参加させてもらいました。

1件当たり4人ぐらいが調査にあたり、木造躯体を現す前と、時期をあけて木造躯体が現れてからの二回調査をしました。木造住宅の規模(30~40坪)のフィールド調査に8人工をかける。しかも調査員は、ほとんど一級建築士という非常に綿密な学術調査でした。

その結果出来上がったデーターベースに含まれる劣化と変状に関する情報は多岐にわたります。この研究は、本邦の木造建築病理学の体系化に寄与する優れた業績だと思います。

是非、一次資料である一軒一軒の調査報告書を見たいものだと思いました。

 

「最近の裁判例で学ぶ建築物の設計・施工における瑕疵ををめぐる法的問題について」

今日は、BELCA(公的社団法人 ロングライフビル推進協会)の「最近の裁判例で学ぶ建築物の設計・施工における瑕疵ををめぐる法的問題について」という大森文彦弁護士のセミナーに行ってきた。

施工者、設計者、工事監理者に分けて法的ルールが説明されていてわかりやすかった。

大森弁護士は、設計者が設計業務を遂行する際、契約ルールとしてどの程度の注意を払うべきかと問われ「受託者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委託事務を処理する義務を負う」(民法第644条・善管注意義務)、「設計業務受託者として一般に要求されるだけの注意」が必要と言う。

また、設計者の善管注意義務違反が問われやすい場面として、「設計の契約的意味は、建築主の要求に基づいて合理的に設計条件を設定し、当該設計条件に基づいて合理的に設計解を出し、それを図書化する作業」とし、「設計受託者には、設計契約上、建築主の要求ができるだけ具体的になるよう(その程度は、内容によっても異なりますが)必要な説明をしたり、要求内容に不合理さがある場合にはそのことを指摘して、説明する義務がある」と言います。やはりインフォームドコンセントが重要なのかなと理解しました。

設計者や工事監理者が工事段階で設計変更をする権限があるのかという問いに、変更権限は原則としてなく、施工者が設計者に設計変更を指示された場合、設計者にその権限があるのかどうか確認する必要があると答えられていましたが、法的に考えるとそうなんだなと納得しました。慣例的に行われている設計行為や工事監理の内容が法的に考えるとどういう意味を持つのか、振り返って考えてみるいい機会となりました。

施工者が、設計図書の内容を審査する義務はないかとの問いに、審査義務はない。設計は建築士の独占業務であるためと答えられていました。たしかに設計は建築士に与えられた独占的業務ではありますが、昨今ではその質・図面があまりに稚拙なものが多く、法的にどうであれ現実的には施工者が内容を審査しないと危なくて工事に着手できないのではと思ったりしました。

昨今は、建築トラブルも多いと聞きます。正確な法的知識を身に着けておくことはとても大事になってきています。

「歴史的建築物活用ネットワーク」第4回会議

横浜で開かれた「歴史的建築物活用ネットワーク」第4回会議~歴史的建築物活用の新しいルールづくり~に参加してきました。

全国各地で建築基準法第3条第1項第3号に基づく条例制定化の動きが拡がってきていることが感じられる集まりでした。今回の集まりは、主催者によると全国各地の行政職員が参加している他、設計者等の参加も多くなった集まりだったようです。

「歴史的建築物の保存活用に関する最新動向」について報告する工学院大学の後藤治教授。

京都市、神戸市、横浜市、福岡市に次ぎ、歴史的建築物を次世代へ継承するための条例づくりが各地で拡がり、2016年度は川越市、鎌倉市が新たに条例を制定しました。各自治体ごとに歴史的建築物活用の課題を解決するための目的や運用の仕組みが異なり、多様な事例が生まれ始めてきていると感じました。

「歴史まちづくりに関する最新動向」について報告する東京大学の西村幸夫教授。

各地の事例報告は、京都市、横浜市、川越市、鎌倉市から報告がありました。とりわけ先駆的な取り組みを進めている京都市の「京町屋を建築基準法適用除外する際の包括同意基準の制定について」の報告は興味深かったです。建築審査会の包括同意基準は安全基準が3つのステージで構成されていて、ステージ1は「法及び条例への適合を求めるもの」、ステージ2は「既存不適格の継承を認めるもの」、ステージ3は「法又は代替基準への適合を求めるもの」で技術的基準はよく整理されており とても参考になります。

弊社は、歴史的建築物のうちの近代建築(比較的規模の大きい戦前のRCの特殊建築物)の保存・再生・活用に関わってますので、全国各地の動向は気になるところでした。

会場からの質問も多く、とても内容が充実した集まりでした。

「耐震改修事例に学ぶ実務者講習会」東京都建築士事務所協会主催

東京都建築士事務所協会主催の「耐震改修事例に学ぶ実務者講習会」に参加してきました。上の写真は本年度版のテキストです。

耐震改修事例の紹介は下記です。

  1. 都営住宅・青木あすなろ建設特許・摩擦ダンパーを用いた制震ブレース工法
  2. 集合住宅・矢作建設工業特許。ピタコラム工法フレームタイプ
  3. 事務所ビル・オイルダンパーブレースによる制震補強・耐震スリット
  4. 集合住宅・下階壁抜け柱のSRFシートによる耐震補強
  5. 市庁舎コンバージョン
  6. 集合住宅・PC外付けフレーム

事例1、2、3はガチガチの構造的説明で専門用語が多くてわからないところが多かったのですが、他の事例は、コンバージョンの一部としての耐震補強や耐震補強工事の施工上の問題点・苦労話でよく理解できました。

事務局によると参加者の4割が意匠関係者ということでしたので、内容も構造技術者しか分かり合えない内容だけでなくしたのかもしれません。耐震改修というと建築主や管理組合の人達に、専門的な判断をどう伝え、理解してもらえるか苦労しますね。

大規模な事例が多く、しかも一般的な工法が少なかったので もう少し中高層の建物の補強方法を知りたい思っていたら、過年度のテキストにそれが掲載されているということで事務局の方に頂戴しました。

これは過年度のテキストで「耐震診断と補強設計の要点」「補強設計マニュアル」という、知りたかった事が満載されていました。

これは平成27年のテキストで(実物は青い表紙)「耐震診断と補強設計における課題」は役立つ内容でした。

弊社は、ストック活用の一部として耐震診断・耐震補強に関わりますので、調査方法や耐震補強工法の選択に関心があります。こうした実務者向けの無料講習会に参加することができただけで事務所協会に加入してよかったなと思えました。

それにしても連日講習会にに参加していると毎回設計事務所時代の同僚や指定確認検査機関時代の同僚と顔を合わせます。中には、しばらく連絡が途絶えていた人もあり近況を伝え合えることができました。やっぱり、引きこもりは良くないなと思ったところです。

自由学園明日館公開講座「文化財建造物の修理について-明日館講堂」-2

自由学園明日館公開講座「文化財建造物の修理について-明日館講堂」に参加してきました。

現在、耐震対策工事が進められている重要文化財・自由学園明日館・講堂の修理現場の見学ということで以前から楽しみにしていました。

「講堂」は、1927年(昭和2年)に建てられ、昭和25年頃屋根葺替、昭和37年に部分修理、平成元年に屋根葺替・部分修理、平成13年に設備改修が行われ、平成26年11月から平成29年7月にかけて屋根葺替、耐震補強工事等が行われています。

築90年の建物が今まで比較的良好な状態で利用されてきたのは、この屋根の葺替を始めとした幾たびかの修繕工事がなされてきたからだと思います。

修理工事中の写真は撮影させていただきましたが、インターネットでは公表しないという約束になっていますので、工事看板だけ掲載しておきます。

設計監理は文建協、施工は大成建設東京支店で、見学では文建協の田村さん、大成建設の方から詳細な説明を受けました。

設計者の遠藤新は、自分が設計する講堂の構造の特徴・空間デザインの特徴を「三枚おろし」に例えて論じています。従来の講堂建築は、構造を梁行(輪切り)で設計されていたが、風や地震で倒壊することが多く椀木や控柱で補強するよう法規で決められていたそうです。

この明日館講堂は、市街地建築物法第14条による「特殊建築物」だった思われますが、その第14条は、「主務大臣ハ學校、集會場、劇場、旅館、工場、倉庫、病院、市場、屠場、火葬場 其ノ他命令ヲ以テ指定スル特殊建築物ノ位置、構造、設備又ハ敷地に關シ必要ナル規定ヲ設クルコトヲ得 」とあり「必要な規定を設けることができる」とありますが、勉強不足で まだその規定は探し出せていません。

明日館講堂は、平面を桁行方向に三分割し、さらに前後に空間を設けて合わせて九つのゾーンを連続的でありながら、それぞれのゾーンにふさわしい機能を持たせています。遠藤新の空間デザイン論は、中々優れてると思いました。

この講堂は、耐震診断の結果「大規模な地震の際には倒壊の危険がある建物」であること、解体調査の結果、講堂の外壁が外側に倒れ、屋根の棟は中央を最大に垂れ下がっている状態だったそうです。その事は、既存の構造体が屋根の重量を完全には支え切っていなかった事を表しています。

補強工事に際しては、遠藤新の思想を残しつつ「基礎と軸組の健全化」「内在骨格の強化」「壁面・床面・屋根面の補強」の三点を軸に行われたと説明を受けました。

すでに屋根の葺き替えは完了し、新しい銅板屋根が黄金色に輝いていました。

自由学園明日館公開講座「日本近代住宅史」-1

今日は、自由学園明日館公開講座「日本近代住宅史」の1回目の講義でした。

講師は、神奈川大学の内田青蔵教授。

題目は「同潤会の住宅 1 -アパートメント・ハウス事業を中心に-」

同潤会については断片的な知識しかなかったので、設立の事業目的や内容を系統的に知りえることができ、とても有意義でした。

とりわけ同潤会以前の東京市の公的集合住宅の存在や、普通住宅事業としての戸建て住宅分譲は、新たに知りえた知見でした。

建築法制という側面だけで近代日本の歴史を追いかけていると視界が狭くなるので、全体像を把握するために時々内田青蔵先生のような建築史家の講義を聴くと新鮮な知見を得ることができます。

講義は満員御礼。

一時間半の講義予定が、ほぼ二時間になり、それでも話が足りない熱のこもった講義でした。

今回は、特別に夕方4時から講義だったので帰る頃には真っ暗でした。

夜の明日館は、室内外とも見たことが無かったので、かえって遅くの講義時間で良かったです。とりわけ夜間の室内の照明は、雰囲気がありとてもよかったです。

今度、ナイトツアーが月に一回程度あるようなので来てみたいと思います。

第二回目の講義は、現存している同潤会の戸建て分譲住宅の見学会で、今から楽しみにしています。

写真は、受付

日本建築学会住宅系研究報告会・10th

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異質なものに触れると脳が活性化され認知症予防になるからという友人の誘いで日本建築学会の第10回住宅系研究報告会に行ってきた。

たまに電車に乗って出かけると、目で見るもの聴くもの全てが刺激的だ。

田町の建築会館に来たのは何年ぶりだっただろうか。

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この住宅系研究報告会は、建築計画委員会・建築社会システム委員会・都市計画委員会・農村計画委員会が共同で開催しているらしく、購入した論文集も豊かな内容だった。

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第一日目の午後の部である、セッション2「集落の地域性と空間構成」とセッション3「復興とすまいの諸相」、パネルディスカッションの「地域に『住ま・ふ』ためのストック考~住宅系研究の次の10年を見据えて」のみの参加となったが、それぞれ報告者との質疑回答も活発で楽しく聞かせてもらった。

通常、住宅系の仕事には触れていないので、友人の言うように異質のものに触れると確かに脳の活性化にはなるようだ。

建築確認申請のための改正建築基準法(H26.6)講習会@東京

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昨年6月4日に公布された改正建築基準法の大部分が今年の6月1日に施行される。

その約8年振りとなる建築基準法改正の説明会が、東京ビッグサイトで開催された。

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エレベーター昇降路部分の床面積の容積率不算入は、昨年7月1日に施行された。定期調査・検査の報告制度は2年以内に施行される予定で、従来の検査系資格「特殊建築物等調査資格者」「昇降機検査資格者」「建築設備検査資格者」が「建築物調査員」「昇降機検査員(仮称)」「建築設備検査員(仮称)」となり、新たに防火戸、防火シャッターなどの駆動装置の点検、感知器と連動させた動作確認を行う「防火設備検査員(仮称)」を創設するとの事。

さて今回の建築基準法の改正で建築主が構造計算適合性判定を直接申請できるようになる訳だが、構造計算適合判定機関の指定確認検査機関からの事業部化、分社化が進み営業活動も活発になるのではないだろうか。

又事実上ルート3物件だけが対象となるので、業務を続けれる構造適判機関は限られ、収斂されていくかもしれない。

構造適判機関が単独で収益力を保持し会社を維持できるのかわからないが、積極的な営業活動と適切な構造審査という両義性を内包し自己矛盾に一層苛まれるのかもしれない。

改正により構造適判機関の確認も「処分」となり、審査請求等の直接的対象となる。矢面に立たされる構造適判機関の行く末は、どうなるのであろうか。

会場から質問が出ていたが、現在は構造に係る軽微な変更は、指定確認検査機関から構造適判機関には送付されていない。実際には一つの物件で階ごとなど頻繁に軽微変更を繰り返しているようなものもあり、これらの軽微変更を適判機関がまったく知らないで良いものだろうか。完了検査をする建築主事、建築検査員が知っていれば良いと判断されるのだろうか。事務処理上どうなるのかQ&Aが待たれるところだ。

住宅医スクール2014(東京)修了

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1月22日に「住宅医スクール2014(東京)」の全講義を受講して修了書をいただいた。

2014年6月から、ほぼ毎月1回の全8回×3コマ=24講座と特別講義8講座という、今時珍しい長期間の講座を受講しなければならない。そして検定会で事例発表をして「資格あり」と認められないと「住宅医」という称号は与えられない「住宅医スクール」。

これは、半日講習で資格を授与するという粗製濫造の民間資格が多い中で異彩を放っているといえる。

修了会の後のパーティーで「骨のある講習会」と評してきた。

岐阜県立森林文化アカデミーと同様に、木造建築病理学を体系化して改修調査・設計の人材育成を図っている。

住宅医協会の皆さんの熱意には頭が下がる。

木造・住宅には、業務として関わりが薄いが、木造は中々奥が深い。

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「環境時代のビルディングエンベロープを考えるシンポジウム」IN 東大

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環境時代のビルディングエンベロープを考えるシンポジウム~省エネ・健康リフォームをいかにして普及させるか~in  東大に11月20日参加して来た。

ビルディングエンベロープすなわち外皮を多面的・複眼的に捉え環境時代の外皮に相応しいものを見つけ出すヒントを得るというのがシンポジウム開催の趣旨とのこと(坂本雄三・建築研究所理事長)

第三回目となる今回のシンポジウムでは「住宅の省エネリフォーム」について集中的に議論しようとした企画となっていた。

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【会場の伊藤謝恩ホール】

三人の講演と五人の異なる分野からのパネラーの参加によるパネルディスカッションでみっちり4時間

この分野で、現在どういう取り組みがなされているのか解った。

シロアリの生態@住宅医スクール2014

「防蟻対策の実務~シロアリ駆除と予防法の事例」と題する阪神ターマライトラボ代表の水谷隆明氏の話を聞いてきた。

住宅医スクール2014の一講座

シロアリの生態から始まり駆除や予防法について、まとまって専門家から話を聞くのは初めてだった。

ヤマトシロアリ、イエシロアリ、アメリカカンザイシロアリとそれぞれ生態が異なり、それぞれに応じた駆除方法や予防法があるとの事。

「シロアリは多数の個体によって集団(コロニー)を形成していますが、各々の個体が各々の役割担いながら高度な社会生活を営んでいます。
この各々の個体を階級(カースト)といいます。
シロアリは集団生活を行い、親が子を育て、成長しても共同生活を行い大きな集団となっていきます。
 生態学的にみると『真社会性』と言われる状態です。これは下記の3つの特徴を有しています。
 (1) 同じ種類の複数個体が協同して子供を育てています。
 (2) 生殖を行う個体と生殖を行わない個体がいます。
 (3) 親世代と子世代が共存しています。」(阪神ターマライトラボのサイトより)

 

駆除にしても予防法にしても、ただ薬剤を散布すればいいというものではなく、シロアリの家屋への浸入パターンを読み、適切な方法で対応するということをパワーポイント100枚ぐらいで丁寧に説明してもらい、シロアリに対する認識が変わった。

点検できる高さの床下を確保して定期的な点検ができるようにする等、薬剤に頼らないシロアリ対策・設計上の工夫が必要とのこと。

アカデミックな視点を持つ実務者の話しは面白い。阪神ターマライトラボでは、シロアリを飼育し生態や薬剤効果を今も実験中との事、詳細は、以下の阪神ターマライトラボのサイトに詳しく掲載されている。

http://homepage2.nifty.com/hanshin-termiteslabo/index.htm