「土に贖う」河崎秋子著

 2020年第39回新田次郎文学賞を受賞した河崎秋子氏の「土に贖う」(つちにあがなう)を読んだ。今、河崎秋子氏の小説を続けて読んでいる。

この本を読んで、つくづく生まれ故郷の北海道の事を知らなかったなぁ~と思った。

 北海道の厳しい自然環境の下で近代に栄えた産業や職業。具体的には養蚕、ミンクの飼育と毛皮、海鳥の羽根、馬、ハッカ草、煉瓦等を題材に、それらの消長を通して、人が今日生存する意味を問いかける短編集となっている。

 表題作の「土に贖う」は、戦後急速に需要が伸びた煉瓦の生産現場を舞台にしている。便利さと効率を追求し続けた近代以降の社会は、人間を豊かにした反面、生産にノルマが課され、労働者は徹底的に管理されてゆく。本当に「豊かに」なったのかということは疑問に思っているが、それは又別の機会があれば書いておきたいと思う。

 「皆が皆、同じ動きを繰り返して綺麗な直方体になるよう」土から成型されるレンガを近代労働者のメタファーにして「少しの歪みや割れが生じれば、正規品からいとも簡単に外される。不要とされ、捨てられ、顧みられることはない」レンガ同様に、それを作る人間も容易に使いつぶされる。

 先日、集まりの中で、現代は職人技術が急速に失われて行っていると言う事が話題になった。建築、印刷、自動車等。異業種の集まりだったので盛り上がった。ちゃんと食べていけて家族を養っていける職種ならば、息子や娘に継がせることはできるだろうが、食べていけないと予測できるから、職人は自分たちとは違った将来を自分の子供達に望むのではないのかと・・・。

 それにしても河崎秋子氏のリアリティある描写は圧巻であり、現実の厳しさを再現しながら、それらに打ち勝つ力のようなものを読者に蘇(よみがえ)させる。