このところ仕事の合間に読んでいたのは「藤原氏」に関する本。「大化改新」から律令国家、摂関時代、そして中世以降と。日本史の「真の主役」は「藤原氏」という人もいる。そのくらい日本の権力中枢に位置していた一族だ。
この「比ぶ者なき」は、皇極4年(645年)の乙巳の変(いつしのへん)で功業をなしたと言われている中臣鎌子(後の藤原鎌足)の次子である史(ふみひと)・(後の藤原不比等)が主人公である。
馳星周は、この「比ぶ者なき」で藤原不比等を主人公に据え、「四神の旗」で藤原不比等の4人の息子である武智麻呂、房前、宇合、麻呂を、「北辰の門」で藤原仲麻呂(恵美押勝)を取り上げている。
さて藤原不比等。日本史上、最強のフィクサーとも言われている。何しろ天皇を神にし、律令国家を完成させた男と称される。
不比等は、百済系渡来人のフミヒトである田辺氏の許で幼少期を過ごしたといわれており、官人となってからも渡来人を配下に置くことによって最新統治技術を独占した。又斉明朝から天智朝初年にかけての大臣(オホマヘツキミ)蘇我連子(むらじこ)の女である娼子(しょうこ)と結婚した。
八世紀の天皇家は藤原氏と幾重もの婚姻関係を築いたが、それは藤原氏の基本的攻略として受け継がれることとなった。
馳星周さん、小説とは言え、時代的背景・感情を良くとらえていると思う。馳星周がこんな古代歴史小説を書くとは思っていなかった。
まあ皇国史観に凝り固まった連中からしたら焚書ものの小説だが、歴史を学んだものからすれば至極まっとうな小説である。