『「しあわせな空間」をつくろう。-乃村工藝社の一所懸命な人たち』能勢剛著

 人々の「しあわせ」を呼び起こす空間とは、本当にできるのだろうか。

「働く、遊ぶ、食べる、買う、学ぶ、旅する、泊まる、観る、集まる。暮らしのあらゆるシーンにある「しあわせ」な空間。このうえなく、しあわせな体験ができる空間は、いかにして生まれたのか。」と本書は書く。

 この本は、乃村工藝社を取材対象に、そうした空間を訪れ、関係者へのインタビューを重ねて空間を解き明かそうとしている。

 どんな背景、どんな問題意識から発想されたのか。つくり手である乃村工藝社の担当者達は、その発想をどう受け止め、どんなアイデアと工夫とで、具体的なカタチにしていったのか。その経緯は良くわかる本。

 空間価値と、それを創造する仕事の進め方を、関係者の話を聞きながら、詳細かつ具体的なストーリーとして元日経トレンディ編集長の能勢剛さんが追いかけている。

 実際に見ていない建物も幾つかある。例えば、福井県の若狭にある福井県年縞博物館は、行ってみたいと思ったが、建築的魅力というより7万年前の時空を感じてみたいと思ったから。

 京都清水の「ザ・ホテル青龍」は、昭和8年に作られた清水小学校というヘリテージ建築をホテルにリノベーションしたもので、元の小学校は、映画のロケにも使われた有名な建物だけど、「地域の思い出をつなぐ」建築となっているのだろうか。

 「しあわせな空間」とは、そもそも何か。自分への問いかけが残った。