2018年に韓国で放送されたテレビドラマ「マイ・ディア ミスター~私のおじさん」。
今回は、映画の中の建築ではなく構造技術と構造技術者の事について書いてみる。主演はイ・ソンジュンと歌手のIU。イ・ソンジュンの役どころが大手建築エンジニアリング会社(建設会社と解説している人もいるが、耐震性能評価をしているので私は違うように思う)に勤める構造技術者。新築建物の設計をする構造技術者のエースだったのが、後輩が社長になり安全診断チームの部長に左遷されたという設定。この安全診断チーム3は、どうも建物の耐震診断を行う部署らしく、他の2チームに比較して大規模な物件を担当しているが技術者は4人だけ。耐震診断の現場調査にも出向き、クラックスケールをあたる場面やドローンで塔のクラックを測定するところなど現場調査の場面も随所に展開されていて、とても親近感を覚えた。またセリフに建築や構造に関する専門用語が散りばめられているので興味深く見てしまった。
さて「大韓民国(以下韓国と略す)では、過去2世紀の問、地震活動度は大変低かった。そのため、20世紀後半まで地震荷重は、建築物や橋の設計において無視されていた。1978年にSeoulの南約200kmに位置するHong-Sungで、起こった地震は韓国国民に地震被害の恐ろしさを改めて思い起こさせる契機となった。1985年にメキシコ地震が起こるに及んで、緊急に耐震設計を導入することとなった。すなわち、20階建て以上のすべてのマンションは、アメリカのUBCに規定されているZone2の耐震設計にしたがって設計されることとなった。1995年兵庫県南部地震は、その人的および物的被害の甚大さにより、韓国での建築物の耐震性を見直そうとする気運を盛り上げた。また、1999年9月に起こった台湾での地震はこの気運をさらに加速することとなった。
韓国は、地震国ではないように考えられがちであるが、実際にはそうではない。1400年から1800年の間に、改正メリカリ震度階で7よりも大きな地震の回数は、152回を数える。1801年から現在までは、その数は大きく減少しているが、計測機器の発達もあり、今世紀に入札増加する傾向を見せている。このような状況のもと、1988年には最初の耐震設計基準が施行された。その後、10年以上が過ぎ、現在基準の見直し作業が行われている」(出典:「大韓民国における建築物の地震被害低減に関する国際共同研究」京都大学2002-03)
そうした中、2016年に慶州地震(M5.8)、2017年に浦頂地震(M5.4)と立て続けに内陸部に被害を及ぼす地震が発生している。
韓国では、2005年以前に建設された3階建て以上の民間建造物のほとんどに、耐震設計がなされていないようで、このドラマの背景には韓国の既存建物の耐震化という差し迫った社会的要求があるようだ。
このドラマを見て、韓国の耐震性の問題、RC建物の構造特性やソウルの住宅事情を知ることができた。
ドラマは、会社組織の派閥争いの中での中間管理職の苦悩やシニア世代の様々な苦悩が描かれていて、余韻が残るドラマに仕上がっている。私は全体として秀作だと思つた。歌手のIUは現代子のチャラいねーちゃんかと思っていたが、セリフが少ない表情のない役柄は彼女のミステリアスな面を引き出している。
「構造技術者は利害関係に左右されず、まず第一に構造技術の観点で判断・評価すべし」パク・ドンフン部長の言葉にしびれる。