「犯罪機械論」の立正大学・小宮信夫教授が半生をかけた犯罪学研究の集大成と自ら言われている本です。
人類の歴史は、戦争の歴史ともいえる。戦争という名の強盗殺人を防ぐ手立てが「犯罪機会論」の原点であり、それが万里長城や客家の福建土楼等の城壁都市になった。しかし日本では城壁都市をつくるまでもなかった。四方の海が城壁の役割を演じ、しかも台風などが日本への侵入を一層困難にしていた。
中庭を囲んで四方に部屋を配した漢族の伝統的住居は「四合院」だが、これこそ防犯に配慮した家の形式だ。外壁を壁で囲み、壁には窓を設けない。出入口も南面に設けられた一箇所のみ。壁をよじ登ったとしても降りる先は中庭なので、侵入者は四方から丸見えとなる。その住空間は、現代都市住宅のコートハウスに通ずるものがある。
学生時代に、坂倉建築研究所の西澤文隆さんの「コートハウス」論は、愛読書だった。1970年代に都市住宅の新しい可能性を感じたものだった。
現代は、グローバリゼーションの只中にある。
社会的あるいは経済的な関連が、旧来の国家や地域などの境界を越えて、地球規模に拡大して様々な変化を引き起こしている。感染症によるパンデミック、犯罪の増加、環境汚染等、今まさに時代の転換期にいるのだとつくづく思う。
古来より「名医は既病を治すのではなく未病を治す」と言われている。予防に勝る治療無し。
リスク・マネジメントで最も重要なことは「予測」である。
犯罪機会論では、景色を解読する事によって「予測」できると書かれている。領域性(入りにくさ)と監視性(見えやすさ)を物差しにして景色を測る事が必要だ。絶体絶命の窮地に追い込まれる前に、景色解読力を高めて未知の危険を予測し、被害の予防が可能になると言う。
全ての分野において現代社会に欠落しているものは「予測」だと思うのだが・・・。