検査体制はひとつも機能しなかった

友人からの情報によると 今、建設会社や大手の設計事務所では、「杭」に関する建築主からの照会とその対応に追われ通常業務が出来ずにいるらしい。あの耐震偽装事件の頃を思い起こして、現役の人達は大変だろうなと思った。

横浜市の「パークシティLaLa横浜」の傾きに端を発して次々と明らかになった旭化成建材の杭打工事のデーター偽装は、全国各地の公共施設にまで波及し、さらにジャパンパイル等の他の杭打ち業者にまで広がっており、地盤と杭の認定工法の問題、施工管理のありかた、重層構造、工事検査体制、確認中間検査など建設業界の構造的問題を幾つも露呈し、業界全体の信頼を揺さぶる問題に広がってきている。

あの耐震偽装事件とその後の建築基準法の改正を経て、建設業界への信頼も回復し少しは落ち着いていたように見えたが、今回の問題は、耐震偽装のときより大きな問題になっていく予感もある。これから原因究明・保障・行政処分・法改正と収束していくのに10年近い年月がかかるのだろうか。

今度の事件を知り残り少なってきた人生を、未だに建築業界に投じて糧を得ている事が、なんだか空しく感じている。そんな個人的思いを書いていても仕方ないので「検査体制」について書いておきたい。

元請け建設業者には、施工管理を行う監理技術者を置き安全を確保する責任がある。今回の問題では、建物の安全にとって最も重要な基礎杭が支持層(強固な地盤)に届いておらず、杭を固定するコンクリートのセメント量のデータも偽装していた。施工会社(元請け)の三井住友建設の監理責任が果たされていなかった。(そこには、工事現場の職員構成が一握りの正社員と工事期間に限定された契約社員・派遣によって成り立っているという工事管理体制のあり方も問われるだろう)

「パークシティLaLa横浜」は、三井住友建設の設計施工であり、三井住友建設一級建築士事務所の管理建築士には、建築法令や条例で定める基準に適合するよう設計、監理することが義務付けられているわけだから、設計上の工事監理者の検査は、まったく機能していなかったことを示している。(杭打ち工事の最初のみ立ち合い、後は、杭打ち業者まかせだったという報道もある。重点監理方式では結局施工業者任せとなる)

1998年の建築基準法改定で、それまで地方自治体の建築主事が行っていた建築確認検査を、民間の「指定確認検査機関」でも可能にするなどした建築行政の規制緩和はどうだったのかということを振り返り、問わなければならないのではないかと思う。

建築会社・設計事務所・指定確認検査機関と勤務した経験から、現在の建築に関わる「検査」は形式的になるばかりだ。(指定確認検査機関の検査員の一日あたりの検査件数を調べてみれば、驚愕すると思う。例えば特殊建築物だと膨大な施工実施報告書を見なければならないが、その時間は少なくなる一方だし、特殊建築物でも住宅でも相当な件数を一日に検査することが強要されている)

建築基準法に基づく中間完了検査も機能しなかった。報道では指定確認検査機関については個別名が出ていないが、いずれ明らかになることだろう。

2005年におきたマンション耐震強度偽装事件から10年。また大規模なデータ偽装が再びおこったことは、国・自治体が徹底解明とともに、再発防止にむけて安全性確保のための建築確認検査についての体制整備、中立・公正な第三者による検査体制の確立など抜本的改善を図る必要がある。

しかし道は遠い。