「アホウドリを追った日本人・一攫千金の夢と南洋進出」平岡昭利著

尖閣諸島や鳥島、南鳥島、南大東島等の太平洋の島々に日本人の暮らした痕跡があるというのが不思議だった。漁業が目的と聞いても、あんな断崖絶壁で船着き場さえないところでと釈然としなかったが、この本を読んで長年の疑問が払拭された。

アホウドリから羽毛とり、横浜や神戸の商人を通じて欧州諸国に高値で売り、巨万の富を得た人がいたのだった。アホウドリの捕獲方法は撲殺(棍棒で殴り殺す)。例えば鳥島などは島を埋め尽くすほど生息していたらしいが略奪的な捕獲をするので数年で激減してしまう。そこで新たな無人島(アホウドリの生息地)を探したようだ。「バード・ラッシュ」に駆り立てられたことが、日本の海洋進出の引き金になった。

明治期、日本はアホウドリを含め鳥類の輸出大国で、国内の様々な鳥類も捕獲され、羽毛やはく製として輸出された。柳田国男は、武蔵野の森から小鳥たちがいなくなり、鳥の声が聞こえなくなったと書いているぐらいだ。

鳥資源が枯渇し羽毛やはく製が取れなくなった次は、鳥糞石すなわちグアノ鉱石(リン鉱石)に気づき、肥料やマッチ、火薬の原材料の採取へと変化する。行為の主体者もリン鉱石の採取の場合には、重機や汽船等を持つ商業資本にとってかわった。やがて軍需物資であるリン鉱石を求めて国家による武力進出を誘引することになった。

そういえば、戦時中でもワインの増産が求められたと聞いたことがある。ワインの醸造で得られる酒石酸(酒石酸カリウムナトリウム=ロッシェル塩)が、イヤホンやマイクなどの圧電素子として利用できたからだ。当時、通信機や聴音機の原材料として不可欠な軍需物資だった。

学問的には歴史地理学の本だけど、目から鱗のような本だった。