「建築ストックの活用・再生テクニカルセミナー」講師

久しぶりに人前で喋ってきました。木造住宅のストック再生に取り組んでいる住宅医協会の関東住宅医ネットワーク・スキルアップ講習会のひとつとして企画されたセミナーです。私の題目は、非木造の建物の「建築ストックの活用・再生テクニカルセミナー」とあるように、建築ストックの活用・再生について建築法規・設備・構造等の建築技術面から語るといった内容です。

昨今のリノベーションブームでソフトからアプローチしたセミナーは多く開催されているようですが、ハード面から総合的にアプローチしたセミナーはあまりないと思います。

セミナーの内容は下記のようなものです。

*****

1. はじめに : 事務所紹介、お願い
2. 現状とこれから
3. 基礎調査編
3-1. 資料調査
3-2. 既存不適格建築の場合
3-3. 工事完了検査済証が無い場合
(建築基準適合性状況調査、国交省ガイドライン調査と法第12条第5項報告等)
4. 詳細調査編
5. 事例編
5-1. 増築
: 平面増築 / エレベーター増築 / 入れ子増築 / 減築 /
5-2. 用途変更
: 事務所→有床診療所 / 物販→飲食店 /事務所→簡易宿舎/ 工場→物販店 /
5-3. テクニカル調査
: 遵法性調査 / 変状(劣化)調査 / 有害物質調査
5-4. 耐震診断・補強設計
5-5. 実現しなったプロジェクト  : 違反是正/用途変更工事費/耐震性
6. 留意事項 : 幾つかの法的事項の再確認/内部階段設置/内部ELV設置/その他
7. 小規模建物のテクニカル・デュ-デリジェンス
7-1. 概要
7-2. 劣化度合による修繕費の算出(事例 : アパート)
8. まとめ

*****

参加者は35名ほどでした。休憩を入れて3時間。ちょつと内容が総論的だつたかも知れません。

現役時代は終わった仕事を振り返る余裕がありませんでしたが、今回のような機会をいただき概ね過去5年程の仕事について整理することができました。自分でも結構面白いことやってきたんだなと~と思っています。

実は今、現役時代よりはるかに労働時間が長いのですが、それでも過去の仕事を振り返れるのは、現役時代は中間管理職としての業務がとても多かったことを物語っています。

何時ぽっくりいくかわからないから、最初で最後のセミナーだと言っていますが、機会があれば 次世代に継承していける場をまた持ちたいものです。

懇親会・二次会と行き若い人達と色々と話す機会を得て楽しい一日でした。

 

シュミットハンマー

立て続けに調査や調査の下見が続いている。爺さんはちょつとお疲れモード。

焼肉や大蒜を食べたぐらいでは、すぐにエネルギーがチャージされない。

旧耐震のRC建築の簡易調査を依頼されたのだが、まだ購入前ということでコンクリートコアを採取して圧縮強度を調べることが許可されなかった。そこでシュミットハンマーで調査し圧縮強度を推定することにした。

レンタルしたのは、シュミットハンマー(NR型)。

若い設計者に聞いたら使ったことが無いどころか、名前も知らないと言う人がほとんどだった。

慣れないと調査結果にバラツキがでるのだが、私も使うのは5年以上経過している。今 テキストを読みなおしているところ。操作は、多分身体が覚えているだろうが、頭がついていかない。

シュミットハンマー調査の外注先はあるにはあるのだが、なんでも自分でやってしまうのはいいのか悪いのか。

「ターン」という音ともに身体に感じるコンクリートの硬さ。中々忘れがたい感触なのである。

段々身体を使った調査が出来なくなるのだな~と思うと ちょっと悲しいかな・・・。

 

調査なくして設計なし

昨日は、京都府京田辺市に日帰り出張

先週に引き続きの出張で腰が痛い・・・

町所管建物のコンバージョンにあたり京都府・町・設計事務所・私と打合せとなった。検査済み証の無い建物という触れ込みで彼此一か月前から相談に乗ったりあれこれと調べたりしていたが、町が建築確認の工事完了検査済証が無い建物と言っていたのですっかり信用し、それが大前提となって調査・手続き・見積りと進んでいた。

何しろ遠方なので行政から取得する「建築確認記載台帳証明」は、自分では取得に動きずらく、強く言って町に動いてもらえば良かったのだが、すっかり町の情報を信じてしまった。

この日土木事務所での打合せを終わり、町が「建築確認記載台帳」を閲覧したことがないと言うので、府に特別に閲覧させてもらうと、推定していた年のそれらしいものを発見。概要書を見せてもらうとビンゴ。おまけに工事完了検査済証も発行されていた。

多額の詳細調査が必要なくなり万々歳。

弊社の仕事は減ったが、無駄な税金が使われなくて良かった。

それにしても行政の言う事だからとすっかり信用してしまっていた。相談された時点で「建築確認記載台帳証明」を取得してもらうようにもっと強く依頼しておけばよかったと反省。

「調査なくして設計なし」

建築設計の道を歩み始めた頃 先輩に言われたこの言葉を思い返した。

「耐震改修事例に学ぶ実務者講習会」東京都建築士事務所協会主催

東京都建築士事務所協会主催の「耐震改修事例に学ぶ実務者講習会」に参加してきました。上の写真は本年度版のテキストです。

耐震改修事例の紹介は下記です。

  1. 都営住宅・青木あすなろ建設特許・摩擦ダンパーを用いた制震ブレース工法
  2. 集合住宅・矢作建設工業特許。ピタコラム工法フレームタイプ
  3. 事務所ビル・オイルダンパーブレースによる制震補強・耐震スリット
  4. 集合住宅・下階壁抜け柱のSRFシートによる耐震補強
  5. 市庁舎コンバージョン
  6. 集合住宅・PC外付けフレーム

事例1、2、3はガチガチの構造的説明で専門用語が多くてわからないところが多かったのですが、他の事例は、コンバージョンの一部としての耐震補強や耐震補強工事の施工上の問題点・苦労話でよく理解できました。

事務局によると参加者の4割が意匠関係者ということでしたので、内容も構造技術者しか分かり合えない内容だけでなくしたのかもしれません。耐震改修というと建築主や管理組合の人達に、専門的な判断をどう伝え、理解してもらえるか苦労しますね。

大規模な事例が多く、しかも一般的な工法が少なかったので もう少し中高層の建物の補強方法を知りたい思っていたら、過年度のテキストにそれが掲載されているということで事務局の方に頂戴しました。

これは過年度のテキストで「耐震診断と補強設計の要点」「補強設計マニュアル」という、知りたかった事が満載されていました。

これは平成27年のテキストで(実物は青い表紙)「耐震診断と補強設計における課題」は役立つ内容でした。

弊社は、ストック活用の一部として耐震診断・耐震補強に関わりますので、調査方法や耐震補強工法の選択に関心があります。こうした実務者向けの無料講習会に参加することができただけで事務所協会に加入してよかったなと思えました。

それにしても連日講習会にに参加していると毎回設計事務所時代の同僚や指定確認検査機関時代の同僚と顔を合わせます。中には、しばらく連絡が途絶えていた人もあり近況を伝え合えることができました。やっぱり、引きこもりは良くないなと思ったところです。

福岡市「用途変更の取扱い」(建築基準法第87条)

福岡市住宅都市局建築指導部建築審査課が平成28年8月に取りまとめた「用途変更の取扱い」(建築基準法第87条)は、下記の項目で用途変更のポイントが整理され、とてもわかりやすいものになっています。

  • ポイント1、確認申請の手続き
  • ポイント2、既存建築物の適法性
  • ポイント3、用途変更部分の適法性
  • ポイント4、既存不適格建築物への現行規定の適用

その他「用途変更の流れ」では、既存建物が検査済証を受けていない場合は、福岡市住宅都市局監察指導課で違反是正指導を受けることになっています。

それに代わって民間指定確認検査機関で国交省ガイドラインに基づき適合状況調査により確認申請を行うことができる場合があります。

先日 博多出張の際、福岡市監察指導課で計画案件の概要、適合状況調査の具体的で詳細な説明(事前電話では基本的に内諾を得ていた。)をしてきました。そして弊社の行う建築基準適合状況調査報告書に添付する図書として福岡市の様式である「建築物施工状況報告書」「委任状」「始末書」を受領してきました。

この「始末書」というのが福岡市独自で興味深かったですね。建築基準法に何らかの違反をし、それを放置してあった場合には当事者としての責任を明確にするために「始末書」を提出させるというのは必要だと思います。

だいたい検査済証のない建物は、何らかの違反箇所があるのが普通ですが、それをどの時点で是正するのが適切かというと、法12条5項報告なり国交省ガイドライン調査を提出し、是正工事を完了検査した後に建築確認申請の提出ということが通常だと思います。

指定確認検査機関に申請した場合は、違反是正後に確認申請提出となることが多いです。

ところが行政に法第12条5項報告を行い、行政に建築確認申請を提出する場合は、違反是正は、確認申請工事と一緒でも良いということになるケースが多いのです。こうすると本来のリノベーション工事と違反是正工事を連続して工事会社に発注することができタイムロスが少なくなります。

こうしたことが 弊社が指定確認検査機関を使わない理由のひとつでもあります。

福岡市・用途変更の取扱い

自由学園明日館公開講座「文化財建造物の修理について-明日館講堂」-2

自由学園明日館公開講座「文化財建造物の修理について-明日館講堂」に参加してきました。

現在、耐震対策工事が進められている重要文化財・自由学園明日館・講堂の修理現場の見学ということで以前から楽しみにしていました。

「講堂」は、1927年(昭和2年)に建てられ、昭和25年頃屋根葺替、昭和37年に部分修理、平成元年に屋根葺替・部分修理、平成13年に設備改修が行われ、平成26年11月から平成29年7月にかけて屋根葺替、耐震補強工事等が行われています。

築90年の建物が今まで比較的良好な状態で利用されてきたのは、この屋根の葺替を始めとした幾たびかの修繕工事がなされてきたからだと思います。

修理工事中の写真は撮影させていただきましたが、インターネットでは公表しないという約束になっていますので、工事看板だけ掲載しておきます。

設計監理は文建協、施工は大成建設東京支店で、見学では文建協の田村さん、大成建設の方から詳細な説明を受けました。

設計者の遠藤新は、自分が設計する講堂の構造の特徴・空間デザインの特徴を「三枚おろし」に例えて論じています。従来の講堂建築は、構造を梁行(輪切り)で設計されていたが、風や地震で倒壊することが多く椀木や控柱で補強するよう法規で決められていたそうです。

この明日館講堂は、市街地建築物法第14条による「特殊建築物」だった思われますが、その第14条は、「主務大臣ハ學校、集會場、劇場、旅館、工場、倉庫、病院、市場、屠場、火葬場 其ノ他命令ヲ以テ指定スル特殊建築物ノ位置、構造、設備又ハ敷地に關シ必要ナル規定ヲ設クルコトヲ得 」とあり「必要な規定を設けることができる」とありますが、勉強不足で まだその規定は探し出せていません。

明日館講堂は、平面を桁行方向に三分割し、さらに前後に空間を設けて合わせて九つのゾーンを連続的でありながら、それぞれのゾーンにふさわしい機能を持たせています。遠藤新の空間デザイン論は、中々優れてると思いました。

この講堂は、耐震診断の結果「大規模な地震の際には倒壊の危険がある建物」であること、解体調査の結果、講堂の外壁が外側に倒れ、屋根の棟は中央を最大に垂れ下がっている状態だったそうです。その事は、既存の構造体が屋根の重量を完全には支え切っていなかった事を表しています。

補強工事に際しては、遠藤新の思想を残しつつ「基礎と軸組の健全化」「内在骨格の強化」「壁面・床面・屋根面の補強」の三点を軸に行われたと説明を受けました。

すでに屋根の葺き替えは完了し、新しい銅板屋根が黄金色に輝いていました。

1/26 テレビ東京・カンブリア宮殿 村上龍×やまと診療所 安井佑

1月26日にテレビ東京「カンブリア宮殿 村上龍×経済人」に、弊社が昨年 新規診療所プロジェクトに携わった医療法人社団 焔 やまと診療所の安井佑院長が出演されます。

1月26日(木)
「自宅で安心して最期を…板橋発!若き在宅医の挑戦」
村上龍×やまと診療所 安井佑院長
夜9時54分~10時54分
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『「あなたは、人生の”最期”をどこで迎えたいですか?」。国の調査では、自宅で亡くなることを希望する人は7割。しかし、実際に自宅で最期を迎える人はわずか1割。その理由は、在宅医の不足、また在宅医療に対する認知度が低いことによる。その課題に取り組み、注目を集めている診療所がある。東京・板橋区に拠点を置く「やまと診療所」だ。医師で院長の安井は、在宅医療PA(医療アシスタント)という独自のシステムを構築し、多くの患者に安心して自宅で死を迎えられる医療サービスを提供している。「自宅で自分らしく死ねる。そういう世の中をつくる!」。そのミッションの下、多死時代を迎えた日本の医療、その変革に挑む若きドクターの奮闘に密着する。 』
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やまと診療所(板橋区東新町)は鉄骨造3階建て、延べ面積336㎡の事務所ビルを訪問医療センター(有床診療所)に用途変更しました。
事務所から有床診療所(特殊建築物)に用途変更する場合、病室の採光、階段寸法、法114条区画、都安全条例8条区画等の法的制限が出てきます。
既存建物の調査、建築法のプロデュースと申請業務は弊社で行い、設計はデザイン事務所という建築主からの分離発注、設計関係者のコラボレーションで業務にあたりました。
【調査+法的プロデュース+申請】㈱寺田建築事務所
【デザイン+工事監理】MTMデザイン

自由学園明日館公開講座「文化財建造物の修理について-考え方と方法-」-1

【写真は、明日館の2階食堂】

1/7(土)、今日は自由学園明日館公開講座「文化財建造物の修理について-考え方と方法-」に出席してきました。講師は文建協の田村匠氏。

「文建協」正式名称は「公益財団法人文化財建造物保存技術協会」という名前で、文化財建造物である社寺仏閣、民家、近代建築、近代化遺産の維持修理、根本修理、構造補強(耐震補強)の為に設計監理及び技術指導を行っています。

講師は現在、自由学園明日館講堂の屋根葺替、耐震補強等の部分修理を担当されています。

今日は、講師が担当された近世の社寺仏閣から民家までの事例紹介と修理の考え方について概括的な講義でした。2月には現在修理工事中の明日館講堂の見学が組み込まれているそうですが、実はそれが楽しみで講座に申し込みました。

【写真は、2階食堂(ミニミュージアム)から1階ホール(喫茶室)】

「文建協」の場合、文化財建造物が対象ですから近世から近代の建物、歴史的に古いものから新しいものに対象が移っているんですね。確か私の学生時代には、近世民家の調査など断られていたように記憶しています。

私が調査に関わっているのは現代建築から近代建築という、新しいものから古いものへのアプローチですから「文建協」さんとは、真逆のアプローチになります。

ミシェル・フーコーの「系譜学的な思考」では、歴史を「過去から未来に向かって、原因と結果の連鎖として、一方的に進むもの」としてとらえるのではなくて、現在から過去に向かって遡行するかたちで理解する思考訓練と書かれています。

上の文は、内田樹さんの本からの引用なんですけど、歴史ものを扱っていると実際様々な出来事には、その前に幾つもの分岐点があったことがわかります。幾つもの分岐点の中の一つの分岐点が選択されたから、現在の結果が生じているわけです。どうしてあの時この道が選ばれ、それ以外の道は選ばれなかったのか。なぜこの出来事が起きて、あの出来事は起きなかったのかという問いに沢山直面します。

どんなことがあっても存在し続けるものと、わずかの手違いで消え去ってしまうものを識別する能力は、「系譜学的な思考」で歴史を学ぶことから養われますが、この能力=想像力は現代を生きる上で、歴史的建造物を扱うものとして、とても大事だと私は考えています。

そういったことを思い出しながら公開講座を聞いていました。

【写真は、旧帝国ホテルで使用されていたタイル】

病理医という仕事に学ぶ

病理医は、病理診断をする医師で基本的な仕事として「病理解剖(部検)」「組織診断(生研及び手術材料)」「細胞診断」があるそうです。

以下「日本病理学会」サイトからの引用です。

病理解剖は病院で不幸にして亡くなられた患者さんの死因、病態解析、治療効果などを検証し、今後の医療に生かすことを目的に行います。
組織診断は内視鏡医がみつけた病変部から採取(生検といいます)した、小さい組織片を顕微鏡でみて診断したり、手術して切除された検体から臨床診断を確認したり、どの程度病気が進展しているかなどを検証する作業を行うことです。手術中の短時間に病理診断を下して、手術方針を決めるのに役立つ「術中迅速診断」も病理医の重要な業務です。
細胞診断は婦人科医が子宮粘膜表面から細胞を採取したり、外科医が乳腺など体表に近い病変部から注射器で針を刺して細胞を採取して検査することです。細胞診断は細胞検査士という日本臨床細胞学会が認定した資格をもつ専門技師と共同で診断します。病理医は病理診断に迷うこともあります。その時はこれが自分や自分の家族だったらどう診断するかと思いをめぐらせることで、答えが自ずと見えてくることがあります。もちろん、難解で自分の手に負えないと思えば臓器別専門の病理医に標本を送ってアドバイスを請うことも少なくありません。これをコンサルテーションシステムとよび、日本病理学会の重要な業務の一つとなっています。
この3大業務以外にも臨床各科と合同で解剖例や手術例についてカンファレンスを行ったり、院内医療安全検討会のメンバーとなって病理の立場から意見を述べたりすることもあります。最近は主治医の立ち会いのもとで、病理医が患者さんに写真や図を示しながら病理診断の説明を行う病理外来を実施する施設も見られるようになってきました。また、蓄積された病理データを使って臨床研究も積極的に行っています。」
「病理医のつよみは、何と言っても、『病気の総合的判断が可能な医師である』点です。その理由として、全科の検体を扱っていること、剖検による全身の病態診断に慣れていること、病理総論的見方を訓練されているために全身の臓器に共通した病変の概念を理解していることなどがあげられます。言い換えれば、病気を正常からの逸脱の度合いという見方からとらえ、病気の本質的な部分を深く考えている医師が病理医と言えるでしょう。」
しかしその病理医も、まだ全国に2,232名(平成26年9 月現在)しか病理専門医がおらず、決して十分とは言えないそうです。
病理医は患者と直接対面する機会が少ないからでしょうか、以前はそういう専門医がいることを知りませんでした。私が大学病院で2回の整形外科の手術を受けたときも、徹底的な入院前検査、手術前検査を受けました。しかし教授回診、担当医師のみならず多くの整形外科チームの医師や内科医などの他、麻酔医師とは直接面談しましたが、病理医と接する機会はありませんでした。
病理医という専門医がいることを知ったのは、2006年に出版された海堂尊の「チームバチスタの栄光」という小説・映画からでした。
その中に鳴海涼基礎病理学教室助教授という病理医が出場します。桐生の義弟で考えも桐生と似通る部分もあり、かつて桐生とアメリカで外科医をしていたが、病理に興味を移し病理医に転進した人です。「ダブル・ステイン法」という術中診断法を確立させ、「診断と治療は分けるべき」という考えから、会議には参加しないが病理医ながらも桐生と切除範囲を決める形で手術に参加している人物として描かれています。
日本の建築界にも「建築病理学」の確立が必要だと固く信じている私としては病理学の手法は勉強になります。

12条5項報告の現地調査立ち合い

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豊島区に提出していた法12条5報告の豊島区建築課職員による現地調査の立ち合いをしました。

築26年の鉄骨造3階建ての建物です。1・2階がアパートで3階がオーナー住居ですが、3階住居専用のエレベーターを設置したいということでした。増築申請が必要ですが工事完了検査済証が無いということで、巡り巡って弊社に相談がありました。

確認申請の副本が保存されていた事、違反部分がなかった事、色々な書類が残っていたため豊島区と打合せさせていただいて構造関係の調査はせずに建築基準適合性状況調査を行い、法12条5項報告書を提出しました。

道路幅員の確認、隣地境界からの建物の離隔距離の確認、内外観の目視・計測等で現地確認をしてもらいました。私の目からみても問題のない建物でしたのでスムーズに現地調査は終了。弊社の提出した12条5項報告書は見本にしたいような体裁とお褒めの言葉をいただき、年甲斐もなくちょつとうれしかったです。

この案件は、調査だけでなく増築申請のための設計もお受けしましたので、珍しく図面も書いています。現地調査が終わり12条5項報告が決済になったら建築確認申請を豊島区に提出できるので、少しピッチをあげなくてはなりません。

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ヘッドライトランプ

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最近は電気の供給がされていない既存建物の調査が多いので、ヘルメットに装着するLEDヘッドライトランプを新調した。

ヘッドライトとリアライトからなり、単三電池3本の白色LEDのもの。

LEDは、lm・ルーメン(光束)で表記されていて、今回は210lmのものにした。以前は100lmだったのだが屋内作業用としては少し暗かった。今回は屋内用としては丁度良いようにも思う。ルーメンは数値が高いほど良いかというとそうでもなく、要はヘッドライトを使う用途によると思う。

重量が軽い事も選択項目だと思う。

市街地で調査をすることが多いので、入手が容易な乾電池機種を使用することが多い。

ヘルメットに装着するクリップは別売り。

「建築再生学~考え方・進め方・実践例」編著:松村秀一

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2016年1月に市ヶ谷出版から発行された本です。

「これからは既存の建物に手をかけることが主役」という時代認識のもと、建築再生という新分野の課題や実務上の展開の方法を体系的に捉えることを全面的に支えようという意図で編まれたものと書かれています。

大学等の教育機関での「建築再生」の教育方法は、未だ手探りであり、全国的みても「建築再生」の講座がある大学はないのではないかと思います。

個人的には大学等を卒業して一定の実務経験を経た人を対象として「建築再生学」を学ぶ場所を提供した方が良いのではないかと考えています。建築再生のカリキュラムを考えたとき、各個別の項目である建物診断、構造、劣化、設備、外装、内装、法的知識等は何れも基礎的知識がありその上で個別の対応が必要になります。すなわち応用が必要となります。

私の場合は、建築基準法等の法的アプローチで「建築再生」に関わってきましたが、例えばコンバージョンの場合、現在の用途と変更後の用途の、独自の法チェックリストを作成して計画段階から問題点を整理したり、検査済み証が無い場合の手続きを担当し、そこから建物診断や耐震診断・耐震補強業務に関わってきました。

ついこないだまでは、黒子の業務が多く「図面を書かない設計事務所」と言っていたのですが、最近はデザイナーとのコラボレーションのケースや実施図面まで全て依頼されるケースも増えてきました。又歴史的建築物の業務比重も増えてきています。

「建築再生学」を進めていくうえで「建築病理学」も体系的に整理していく必要があると思います。

いずれにしても この本は「建築再生学」を体系的にまとめてあり、「建築再生学」の教科書として利用できる わかりやすい本になっています。

超高層マンションの外壁タイルが落下

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先月中旬、豊島区東池袋の超高層マンション・エアライズタワーのタイルが地上に落下していたのが発見された。その後の調査で24階の外壁タイル2枚が剥がれ落下したものと判明した。

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1ヶ月以上経つ現在も地上部分は、立ち入り禁止部分を設けている。

エアライズタワーは、池袋四丁目市街地再開発組合事業でデベロッパーは住友商事、東京建物、伊藤忠都市開発。設計は日本設計。施工は大成・フジタ建設工事共同企業体で2007年(平成19年)1月31日 に竣工した。

地上42階地下2階で、住戸数555戸(計画時)、メトロ東池袋駅に直結し豊島区新庁舎に近接しているうえに、業務棟には豊島区図書館等が入居している。

築9年が経過しているので瑕疵補修期間外なのだろうが、他にも付着力が低い個所がないかどうか、果たして自然経年劣化と言えるかどうかは全面的に調査をしてみないと詳しくはわからないだろう。

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なにしろ42階建ての超高層マンション、どこまで調査するか、足場はどうするのか興味津々である。風聞によると調査点検費用は5億円と聞く。通常の修繕積立金では賄いきれないだろうし、大規模修繕費用が足りなくだろう。仮に住民側が全て負担すると一世帯あたり約10万円となる。

入居者住民・管理会社・設計監理者・施工会社で責任の所在を巡って議論沸騰していることであろうと推測される。

2011年7月の最高裁判決では、欠陥マンションをめぐる損害賠償訴訟で、設計者や施工者が負うべき不法行為の責任範囲を具体的に示している。判決文では、「建物の構造耐力に関係しない瑕疵であっても、外壁が落下して通行人に危害を与える恐れがあるような場合には、基本的な安全性を損なう瑕疵に当たると明示した」

マンションの瑕疵が見つかった場合、住民は売り主の瑕疵担保責任を問うことが多かったが、この最高裁判決以後は原則20年間、設計者や施工者の不法行為責任を直接問うことができる。

外壁タイルの落下は、しばしばあるだけに設計監理・施工は悩ましい問題だ。

久しぶりに都内で調査

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雨の中、久しぶりに都内で既存建物の調査だった。

以前の所有者から新しい所有者に所有権が移行したばかりで、通電してないかと思っていたが、電気も水も開通済みだった。

鉄骨造3階建ての建物で、建築確認済証・検査済証のある事務所ビルを用途変更してフルリノベーションするプロジェクト。

デザイン事務所が設計・図面作成を行い、弊社が許認可・申請業務を全て行うという建築主も了解したコラボレーション。

既存不適格調書・現況調査書等を作成するために調査を行った。

3階に少し奥行きのあるバルコニーがあり、テーブルと椅子が置いてあった。執務の合間の息抜きやコミュニケーションの場として、こんな空間が少しでもあると仕事のクオリティーが高まるような気がする。

調査は、いつもながら階段を計測し、非常用照明を確認し、図面と現況との整合性を確認し、天井裏を各階覗いてきた。

都内だと車に調査道具一式が入ったハードキャリーと脚立を持って、気軽に二人で出かけられる。

現場調査のスタイルと装備

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最近整理した特殊建築物を現地調査するときの弊社のスタイルと各自が持つ装備のイラスト。

特殊建築物では、木造住宅等の調査とはまた少し異なる条件が加わる。

まず第一に調査面積が広いし、階数も多い。通電してない、エレベーター使えない、換気悪い等の条件も加わる。

実は、イラストも弊社の裏メニュー。わかりやすいでしょ。

ということで、来週一週間は調査の旅に出かけてきます。

既存建築物と放射能汚染

3.11の福島第一原子力発電所のメルトダウン以前は、既存建築物や都市における放射能汚染は西日本が高い数値を示していると言われていた。

その一つは、広島原爆によって発生した放射能に汚染された膨大なコンクリート瓦礫が、戦後の都市開発において再生骨材としてコンクリートに混入され西日本各地の建築物や土木構築物に使用されたからとされている。

しかしどのぐらいの量の瓦礫が再利用されたかは、詳しくわかっていない。

もう一つは、岡山県の人形峠で採掘されたウラン鉱採掘の際に発生した岩石や砂利と「ウラン煉瓦」によるものと言われている。ウラン煉瓦は約145万個製造され、約93万個が一般に売却され、各地の花壇や歩道の舗装材として使用されている。

この「ウラン煉瓦」は平均0.02msv/hと言われ、実際に計測した人の報告によると中には0.03msv/hを超えるものもあると報告されている。

今、福一の瓦礫の処理で再生利用をということが言われている。

これは東京電力㈱から発表されている「福島第一原子力発電所の固体廃棄物保管に関する中長期計画(案)について」(平成26年4月7日)で放射能汚染された金属くずは、溶融されリサイクル鋳造品として遮蔽体や貯蔵容器にリサイクルされることが検討されており、コンクリートくずはも再破砕され再生コンクリートに混入されたり路盤材としてリサイクルするということが検討されている。

また、日本建築学会でも2013年に材料施工委員会から「都市・建築・材料に関わる放射能汚染の現状とその対応に関する報告書」が出されているが、建築部材の線量測定手法や安全性の評価手法は、明確に定まったものはない。

さらに放射能汚染された木材の建築材料としての再利用も出てくるであろう。

建築物や都市空間のストック活用の評価基準のひとつとして、「放射能汚染度」も加わるのは、そんなに遠くはないように思う。

既存建物の調査は勿論、新築建物の建築現場でも、放射能対応マスクと作業着、そしてガイガーカウンターは必須になるかも知れない。

インバウンドは増え続けるのだろうか

2015年のインバウンド(訪日外客数)が過去最高の1973万人を超えたという日本政府観光局(JNTO)の発表があった。

東京の街には外国人(アジア系)が溢れ、ホテル建設ラッシュが続いている。とりわけ品川周辺のホテル用地の価格が高騰しているらしい。さらに規制緩和で「民泊」が話題に上がっている。

JNTOの資料を見ると2015年の年計では、中国・韓国・台湾・香港の東アジアからが72%。東南アジア+インドからが11%で全体の83%がアジア系の観光客のようだ。

元々、池袋はリトルチャイナタウン(北池袋)があるぐらいだから中国人は多いのだが、それに加えて日本語学校が増えているらしく街を歩いていても聞いたこともない言語が飛び交っている。

昨年年末まで業務が押しており、年明けてそれらの修正・補足に追われていた。そうはいっても年賀状も年末に間に合わせて、毎年恒例のTAF通信(PDF)も発行できた。そして2016年の事業計画書を作成して社内協議をした。もっとも二人だけ・(笑)

近頃、ようやく時間があいてきたので色々なことを考える。

その中で考えたのが、これからの日本社会・経済の動向。

インバウンドが増えたのは2015年の円安、原油安=燃油サーチャージの値下げによる航空運賃の低下、ビザの大幅緩和等々に起因している。

さて、これからどうなっていくのだろうかと思うと2016年は円高になりそうだし、右肩あがりでインバウンドは増加していくだろうか。

今はやりの「民泊」という怪しいビジネスモデルに手を出して資金回収を図るころには、東アジアの観光客が大幅減ということにならないとも限らない。

消費税10%になると、また国内消費者の需要は低下するのだろう。一定の駆け込み需要の後は反動があるし、死んだ親父が東京オリンピック(私は小学生)の後の数年は不景気だったと言っていたのを思い出すと202×年まで・・・

そんなことを考えると暗澹とした気持ちになる。

以前買って読み半端な「下流老人」という本を読んだ時のような気分。

硫酸ナトリウムの結晶成長によるコンクリート劣化現象

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とある鉄筋コンクリートのビルの地下室スラブで見付けた 硫酸ナトリウムの結晶とおもわれるもの。

硫酸ナトリウムは、火山国の日本列島の土壌に基本的に含まれているもので、その結晶成長は全国どこでもある現象なのだが、住宅医協会によると既存木造住宅の調査をした時に住宅の基礎でたまに見られると言う。

私が特殊建築物・鉄筋コンクリートの建物で硫酸ナトリウムの結晶成長を見たのは始めてだった。

硫酸ナトリウムは、一定の温湿度条件になると結晶化し、コンクリートをボロボロにするものだが、この建物ではスラブ表面が荒れている他に顕著な傷みは見られなかった。

どういう条件で硫酸塩が発生したのかということだが、私は、地下水位-1.8mでしかも海に近いという土壌・立地により室内の環境が整い発生したのではないかと考えている。

現地調査の為 建物に入ったとき とても湿度が高いと感じていたが、湿度も関係するのだろうか。

川口の古民家調査

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シルバーウィークの前、三日間の北九州出張から夜中に帰ってきて、翌日朝からの埼玉県川口市の古民家調査に参加した。

疲れていたが関東では古民家調査の機会が少ないので少し無理して調査に参加した。

(一社)住宅医協会の主催で、参加者14名の調査。

築約175年というから江戸時代後期・天保年代の建物と思われる。

上の写真は土間部分の豪壮な梁組。

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調査の担当は、矩形図の作成だったのだが、GLラインから天井までは自分で実測できるのだが、床下チームから基礎伏図、小屋裏チームから小屋伏図や高さ関係の野帳を見せてもらっての作図となる。

しかし この建物の小屋裏は中々複雑で、小屋梁と小屋束では芯ずれがあり調査・伏図の作成が難航していた。すべての作業が同時並行では矩形図の作成も中々まとまらず、夕方までにフリーハンドの矩形図が出来たのは梁間方向一断面だけだった。

日本の建築法制史を振り返る中で、近世民家のフィールドワークに参加して見聞きするのは欠かせない。というか文献読んでいるだけではわからないことが多い。

江戸時代には「三間梁規制」といって上屋の梁間は三間(約19.5尺)に制限されていた。寛永20年(1643年)「武家住宅法令」が定められ、明暦3年(1657年)に大名屋敷だけでなく町民屋敷へと規制は拡大されている。

しかし古民家を調べていくと実に色々な架構形式があり、三間梁規制を守りながらもあの手この手の工夫で架構方法を変えてながら大きな梁間の家を実現しようとしているのが見られて面白い。

約一か月後ぐらいには調査結果をまとめた検討会が開催されるらしいから、成果小屋伏図、架構図を見せてもらうのが楽しみだ。

コンクリート中性化試験

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現場でコンクリートの中性化試験をしなければならないので、1%フェノールフタレイン液とスプレー容器を買ってきた。

たまにしか使わないので100ml

通常コア採取した場合は、第三者の試験機関で圧縮試験とセットで依頼するのだが、今回は鉄筋の腐食状況と中性化だけ調べる必要があったので、自分で中性化試験をすることにした。

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RC壁を斫って鉄筋を露出させ、かぶり厚さ等を計測した後に、コンクリート粉末等を完全に除去し、スプレーで1%フェノールフタレイン液を噴霧する。

PH8.2~PH10.0のアルカリ側で紅色に変色する。

表面から紅色に変色した部分までの距離を測定し、写真撮影。

今度の調査では、自分で中性化試験をしなけりゃならないところがあると知人に話したら「大田区の町工場の親父みたいだ」と言われた。

まことに光榮なことだ。

「同潤会上野下アパート材料調査報告」(日本建築学会)

2013年に解体された最後の同潤会アパートの解体前の耐久性調査の報告書「同潤会上野下アパート材料調査報告」(2015年3月、日本建築学会・材料施工本委員会)を読んだ。

この同潤会上野下アパートは、竣工が1929年(昭和4年)である。

ここは建替事業でザ・パークハウス上野(三菱地所レジデンス)として生まれ変わるのだが、もう完成して入居開始が始まっただろうか。まあ 新しい建物にはあまり関心が無いので、この報告書についてだけ書いておこう。

今、戦前の鉄筋コンクリート建築物のコンバージョン・プロジェクトに参加しているので、どうしてもその頃の建築物や法令に触れることが多い。

この調査報告書では、コンクリート採取数が1号館で38本、2号館で31本 合計69本と4階建て延べ床面積2,093.99㎡(1号館556.80㎡、2号館1,537.19㎡)と約30㎡/1本となり採取コアが多い。現在の耐震診断の基準である3本/階から見ると約3倍の数となっている。

このコンクリートコアの圧縮強度試験は、柱・梁・壁・床と部位別と全体が示されていて全体で平均圧縮強度21N/m㎡という結果が報告されている。ただし床データを除外した場合には平均が19.5N/m㎡、標準偏差6.1N/m㎡となっている。

戦前の建物の構造部位別の調査報告というのが少ない。「同潤会アパートの施工技術に関する調査研究」(古賀一八他、2004年)で同潤会大塚女子(1930年)、同潤会青山(1927年)、同潤会江戸川(1934年)では、平均圧縮強度の部位別の内訳が不明なため強度や標準偏差の単純比較ができない。

今、関わっているプロジェクトでも数年前に耐震診断調査が終わって構造評定を取得している建物なのだが、コア採取が内部壁だけなので良くわからないことが多い。

ともあれ、学術調査でこれだけ念入りな調査を行い、調査報告書が世にでてくることは大変ありがたいことだ。

「高山市伝統構法木造建築物耐震化マニュアル」

飛騨高山市内の伝統構法建築物を耐震改修する場合は、このマニュアルに沿ってという事で、高山市役所でもらってきた。高山市のサイトでもPDFで公開している。

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労作である。長年にわたる調査研究に基づき限界耐力計算に近い計算方法である近似応答計算で耐震計算を行っている。

高山市から耐震診断・耐震改修費の補助金をもらう場合は、このマニュアルの講習修了者に耐震診断を頼まないとならないらしい。受講者は、ほとんど高山市内の人達。ちょつとクローズ気味の制度。

補助金を貰うかどうかわからないが、高山市内で伝統構法の耐震改修をする場合は、このマニュアルに沿って実施してみたいと読み始めた。

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気がつけば、最近は構造関係の文書ばかり読んでいる。どうも関心事が広がりすぎて自分でも制御しきれない。

爺さん婆さんが二人で営む「拉麺専門店」を指向していたのだが、だんだん「食堂」になりつつある。

ともあれ、木造に関心がある人には読んでもらいたい一冊。

「建物等の適正な維持管理を促進する条例」@豊島区

東京都豊島区は、竣工時に完了検査済み証を取得していなかった戸建て住宅を救済する「建物等の適正な維持管理を促進する条例」をH26年3月に制定した。所有者から申し出があった場合、工事着手時の建築関連法規に適合しているかを調査し適合していた場合は適合通知を発行する。検査済み証がないことから売却や賃貸が進まず、空き家化することを防ぐのが目的と当時報道がなされた。

この1年前に出来た条令について豊島区の新庁舎に出かけて建築指導課で資料を貰って来た。

(建築基準法令に関する調査)

第12条 区長は、建物等の所有者等が、建物等の現況を把握し今後の適正な維持管理に役立てるために、建築基準法(昭和25年法律第201号)第6条第1項第4号に掲げる建築物で、平成11年4月30日以前に同法第6条第4項に規定する建築確認済証が交付されており、同法第7条第1項の規定による完了検査の届出又は同条第5項に規定する検査済証の交付がなされていないもの(適正な維持管理が行われていない状態の建物等を除く。)について所有者からの申し出に応じて、現状の建築物が工事の着手時の建築基準法令の規定(同法第6条の3に相当する従前の規定にある建築物の建築に関する確認の特例に関わる建築基準法令の規定は除く。)に適合しているかを調査し、その結果を所有者に通知するものとする。

2 所有者は、前項の規定に基づく申し出を行うときは、規則に定める図書、書類等を添えて区長に申し出るものとする

3 区長は、現状の建築物が工事の着手時の建築基準法令の規定に適合するかどうかの結果を通知することができない正当な理由があるときは、その理由を記載し所有者に通知しなければならない。

要点をまとめると

  • 建築基準法の四号建築物(木造1、2階住宅)に限定している
  • 平成11年4月30日以前に建築確認を取得しているもの
  • 規則に定める図書・書類等を添えて申し出る→調査→結果通知

この条令の施行規則で定められている図書は、現況調査書/付近見取り図/配置図/各階平面図/床面積求積図/建築面積求積図/二面以上の立面図/地盤面積算定表/敷地面積求積図/採光計算書/室内仕上表/換気設備の仕様書/有効換気量計算書とあり、建築確認申請を新規に提出する場合とほぼ同様の設計図書が必要となる。建築確認申請書の副本が無い場合は、調査復元しないとならない。また現況調査書は、既存不適格建築物調書の場合の現況調査書とほぼ同じ調査をを行わないとならない。

これらの図書を添付し豊島区に調査を依頼して通知まで約2~3か月の期間が必要との事だった。実質的調査は豊島区から建築士事務所協会に依頼するらしい。また建築士に知り合いがいない場合は、専門家派遣制度があり初回のみ無料とのこと。

これだけの経費のかかる調査をし図書を作成し申請して適合通知が出たところで、この通知をもって「工事完了検査済証」に代わるものではなく「増築」等の確認申請には使えない。条令制定の際、国交省に相談して駄目と言われたらしい。

あくまでもこの条令の第12条に定める申請は、不動産の流通化の為であって増築等の確認申請の為のものではない。ということで条令ができて1年で第12条による申出は一件もないそうだ。

これだけの調査と図書を作成するなら建築基準法第12条第5項報告するのが賢明な方法だろう。それより問題は、建築主が増築申請の為に費用を捻出できるかどうかにある。

私も欲しい ドローン・ファントム

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首相官邸を偵察したり襲うわけではありませんが、以前からアマゾンのほしいものリストに入れていたドローン・ファントム。

純粋に既存建物の調査=外壁の劣化調査に使えそうだなあと思い、調べてました。住宅だと屋根の現況調査なんかにも使えそうです。このファントムは17万円程度なので手の届きそうな金額かつ業務にも使えそうな機種です。勿論 もっと本格的な高性能のドローンもあります。

ラジコンヘリで遊んでいる知人にドローン・ファントムはどうよと聞いてみたら、操作のなれないうちは1台や2台は壊すので、3台分は予算を組む必要がある。

飛行時間が短いから予備バッテリーや予備羽根まで購入する必要がある。あと墜落して人や車に損害を与える事もあるから損害保険も加入した方が良い。と何だかんだと諸費用を合わせると個人事務所の設備投資としては結構な金額に。

投資対効果がわからず購入は躊躇してました。

でも、誰かどこかの会社では採用するのでしょうね建物調査にドローン。

ところで首相官邸のドローンの目的は何だと思うと聞いてみたら、「あんなの遊び」「その気だったら昔からラジコンに武器を装備して襲撃できる」とのこと。それもそうだ・・・

文化住宅と建築法令

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3月8日の旧高田邸の詳細調査に参加して、築85年(1930年頃)の木造住宅としては、中々構造体はしっかりしていたのではないだろうかという感想を持った。

外部立面の採寸と立面図の作図が主要な担当だったので、他の調査者を時々覗く程度だったし、早計なことは言えない。詳しくは全体の調査資料が調査参加者に後で配布されるようだから、その調査資料をみてから再度検討してみたい。

この構造体の部材寸法、施工方法などは、大工さんの個別の経験的な裏付けに基づく技量によるものだろうか。あるいは 何らかの現在の建築基準法・施行令に規定されるような社会的な規定(定義・構造規定)があったものだろうか。

よく知られている事だが、現在の建築基準法(昭和25年法律第201号)の前は、市街地建築物法(大正8年・1919年公布)があった。それは建築基準法が定められる前に存在した「市街地における建築を規定する法律」であった。当時、国立市は東京府下なので、直接的にはこの建築法令の適用外となる。

木造の法的な規定(案)は、市街地建築物法(大正8年・1919年公布)ができる以前の、明治27年(1894年)の東京市建築條例案(東京市区改正委員会・妻木案)や、大正2年(1913年)東京市建築條例案(建築學會)に見ることができる。

明治39年に東京市長・尾崎行雄が建築學會に建築條例の作成を依頼して、6年半の歳月をかけて大正2年(1913年)に238条からなる東京市建築條例案(建築學會)と途中案4編、諸外国条令資料16種を東京市に提出した。

それが先に書いた大正2年(1913年)東京市建築條例案(建築學會)である。

そこには大正・戦前昭和の文化住宅と建築法令(構造規定等)についてのみならず、現在の建築基準法につながる規定が網羅されている。

例えば木造の構造関係の規定は、下記のような事が記載されている。

  • 土台は柱と同寸以上の角材で
  • 上下横架材距離に対する柱の小径の割合は、階を下るごとに増加
  • 柱の欠き取りは1/3まで、やむ得ない場合は鐵具を附加
  • 筋違を壁体に配布する
  • 小屋裏、天井上、床下が木造の時は換気孔を設ける
  • 柱は上下に大きな枘を有してはならない。
  • 等々

これらの規定は、「木造耐震家屋構造要領」(明治28年)、「家屋耐震構造要便」(大正4年・佐野利器)と類似しているものが多いと言われているので、大正2年(1913年)東京市建築條例案(建築學會)に規定されている木造の構造規定は、ある程度、業界内に普及していたのではないだろうか。というのは私の推論。