「よくわかる コンクリートの基本と仕組み」岩瀬泰己・岩瀬文夫著

鉄筋コンクリート造の既存建築物の調査をしていると疑問に思うことが沢山あった。

例えば「コンクリートコア採取」。JIS規格では「一般に粗骨材の3倍以内としてはならない」としており、粗骨材の最大寸法は2cmが一般的だから コアの直径は7cm~10cmとされている。しかし行政の担当者によっては直径10cmにこだわる人もいる。コア採取の技術者や試験所に聞くと3.5cmや5cmでも問題ないと聞いていた。既存の構造体の事を考えたら小さい直径が良い。この本の著者も直径3.5cmでも品質推定できると書く。

またコア採取の位置は、高さ方向のどの位置が適切なのかとか、コンクリートについて知りたかったことが沢山書かれていた。実務経験者が書いた本は、経験に裏付けられていて知恵が溢れている。

以前、両面コンクリート打放しの建物で外壁が孕んだり、垂直方向に壁が傾斜したり、外壁から雨漏りや結露するというので弁護士に依頼され現場を見に行ったことがあった。両面全面コンクリート打放しなのに施工計画書も作らないで施工しており、設計・工事監理者も何一つコミットメントしていない状態だった。協力業者という名の下請けに全面的に依存した施工だった。

遠目にはインスタ映えする建物だが、近くでみるとがっかりするような施工状態だった。

両面コンクリート打放しが難しい施工という認識は工事施工者も設計・工事監理者にも欠落しているような現場だった。もっと関係者は。コンクリートについて勉強して欲しいなと思ったものだ。

この本には、初学者にも読みやすいが学術書にはない楽しみが溢れている。コンクリートが好きになるような本。実務に役立つ本です。

「NICHE mook02 台湾建築探訪!」

台湾建築の情報収集をかねて読んだ本

特集1の「台湾のフジモリ建築」では藤森照信が台湾と日本に作った茶室を網羅して紹介している。宣蘭の「羅東文化工場」にも藤森さんの茶室があるのを知り、行く楽しみが増えた。

特集2の「知られざる梅澤捨次郎の仕事」では、工手学校(工学院大学の前身)を1911年に卒業し台湾に渡り日本統治時代の警察や病院、百貨店を建てた建築家の生涯に迫っている。

彼の仕事の足跡を追うなかで台湾の現代建築も紹介している。丹下健三の聖心女子高級中学や、伊東豊雄のオペラハウスなども掲載されている。ただし2015年3月に出版された本なので最新の現代建築というわけではない。

また特別企画の「アントニン&ノエミ・レーモンドのトータルデザイン」では、1961年に北澤興一が譲りうけた「軽井沢新スタジオ」を題材に、日本のモダニズムに迫っている。

「予約一名、角野卓造でございます。【京都編】」

「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり」若山牧水

(しらたまの はにしみとおる あきのよの さけはしずかに のむべかりけり)

昔から酒飲みには詩人が多い。

実は、私は酒はあんまり飲めない。体格から酒豪だと思われることも多いが、最初の一杯程度で あとは飲んでいるふりをしているだけ。

そんな私でも秋になると日本酒を飲みに行きたくなる時がある。

東京では、大塚の「串駒」という十四代が常備されている居酒屋に行く。

この俳優の角野卓造さんの「予約一名、角野卓造でございます【京都編】」を読んでいたら魅力的な店ばかりで京都に酒を飲みに行きたくなってしまった。

歴史と現代が交差する京都の田の字地区をブラブラと歩き、酒を飲み歩くのは大人の散歩。

「台湾レトロ建築案内」老屋顔

台湾のレトロ建築の魅力をフェイスブックで紹介している「老屋顔」をまとめた本。

「老屋顔」とは「レトロ建築のもつ顔」と言ったニュアンスの造語との事。

台湾各地には日本統治時代に建てられた建物が多く残り、近年はそれらをリノベーションして甦らせ、魅力あるまちづくりに寄与している。

それらは「鉄窓花」「人造石」「赤レンガ」「装飾ブロック」「セラミックタイル」といった材料により作り出されたディティールの集積によって多彩で魅力的な空間づくりに貢献してきた。

日本でも近年は、特別残さなくてもいいんじゃねぇと思えるような建物がリノベーションされ残されたり。新築よりリノベーションの方が安く提供できるし利益を載せて売れるといった商業主義的なリノベーションも多々見受けられる。さながら「猫も杓子も」リノベ―ションというような時代の傾向といえるだろうか。

こういう本を見ていると純粋にレトロ建築が好きだと言う著者たちの気持ちが伝わってくるし、建築に表出された時代の精神や価値観にまで思いをはせることができる。

老屋顔

「LIVING IN PLACE」フィールドオフィス・アーキテクツ+ホアン・シェン・ユェン著


2015年にギャラリー間で開催された

フィールドオフィス・アーキテクツの個展の際に出版された作品集。

最近は、夜な夜な仕事の合間にこの作品集を眺めている。

深夜、心は宣蘭(イーラン)に飛ぶ。

【2015年7月講演会】

幸せとは

「日々の暮らしが充実していること、

そして好きな人たちとずっと一緒に暮らすこと。」

この言葉を大切に生きていきたいと思った。

「地元経済を創りなおす-分析・診断・対策」枝廣淳子著

「地方創生」「地域経済の活性化を」という掛け声は多いが、そのために必要な考え方や具体的な方法・ツール・事例が紹介された本はあまり見られなかった。

建築の世界で言えば1億円の地方創生予算の範囲内で既存建物の再生・活用を図ると言う散発的な取り組みが目立った。勿論 それが駄目というわけではないが地域単位で見たとき やはり経済学的視点でその地域経済の分析・診断・対策を考えていかないと散発的で継続性に欠けるのではないかと思っていた。弊社が建築ストックの再生・活用に取り組む場合も調査・分析・診断・対策を立てるように、地域経済の再構築の分野でも、調査・分析・診断・対策を立てられるドクター・ゼネラルが求められているのではないかと思っていた。

著者は下記のように書く『地位経済の現状観光や投資で地域にお金が入っても、その大部分が地域から離れた場所への支払いに使われ、お金はあっという間に地域から出て行ってしまっている』
『本当の地方創生と幸せのために大切なこといくらお金を地域に「引っ張ってくるか」「落とすか」でなく、「一度地域に入ったお金をどれだけ地域内で循環し、滞留させるか」』

この本では、そのための考え方の枠組み、実践のためのツール、内外の事例を解説し、地域の人々が「地域経済を自分たちの手に取り戻す」ことを通して、真の地域創生と人々の持続可能な幸せを支援するのが目的と書かれています。

「漏れバケツモデル」や産業連関表の活用、地域内乗数効果の見える化ツールなど、お金や雇用を外部に依存している割合をまず知り【分析】、どこに力を入れるべきかを考え【診断】、そのうえで、効果的な取り組みを進める【対策】ことができます。

そして、好循環に転換した地域経済の事例の数々を紹介しています。

国内の事例のみならず海外の事例もいろいろ紹介されています。そういった事例には、「応用・転用可能な学びやコツ」がいっぱいあり、それらを知ることで、さらに効果的に取り組みを進めることができると著者は言います。

日本の未来は、地域経済を取り戻すことから始まるという予感がします。

「数字が語る旅行業2018」日本旅行業協会

日本旅行業協会が発行している「数字が語る旅行業2018」にリアルな日本の観光に関する数字が表されていて興味深かった。

ここに記載されている数字をどう読むかは、個人の力なので詳しい解説は控えておく。

建築ストックの再生と活用の法的調査という分野でホテル・旅館に関わっていたのは数年前。オリンピックに向けてオープンするホテル・旅館・簡易宿所もそろそろ終わったかなと思っていた。あちらこちらでオープンのニュースを見ていると供給過剰ではないかとも感じている。旅館施設とともに東京湾岸地域のタワーマンション。オフィスビル等も供給過剰になるのではないだろうか。

新築の供給が過剰なせいなのか、どうにかしたいと思うのか、ここにきて既存の宿泊施設の調査が増えてきた。また民泊の営業日数の規制のせいか、弊社に来るのは検査済証が無い物件なのだが用途変更して簡易宿所(旅館業法)の許可を取りたいという相談も増えている。

最近になって弊社のクライアントも中国の方が増えている。

彼らは30代後半だが、物の見方考えかたがシビアで、話していると感心する事ばかりだ。ついつい長時間お喋りをしてしまう。

中国の若い経営者は皆 インバウンドが未来永劫に続く等とは考えていない。私もそう思う。何らかの政治的転換があれば一挙に萎んでしまう危うさを内包している。

それにしても日本の観光地は元気がない。最近廻った小田原・箱根はインバウンドでかろうじて生きながらえているという印象を持った。

「都市と野生の思考」鷲田清一×山極寿一

哲学者にして京都市立芸大学長の鷲田清一氏と、ゴリラ研究の世界的権威にして京都大学総長の山極寿一氏による対談。

リーダーシップのあり方、老い、家族、衣食住の起源と進化、教養の本質など、多岐にわたるテーマを熱く論じている。

京都を舞台に、都市の思考と野生の思考がぶつかり合った対話は、人間のあり方を問い直している。

しかし ようやく読み終えた。仕事で目が疲れているせいか本を避けがちになる。しかも移動の電車では少ない睡眠時間を補うために爆睡の日々。

面白いと思ったのは、ゴリラと人間に共通するリーダーシップの話。

松下幸之助さんが社員にリーダーの条件を三つあげたそうです。

まずは「愛嬌」、二つめは「運が強そうなこと」、三つめが「後ろ姿」だそうです。
愛嬌とは、まわりをハラハラさせるけどなぜか憎めない、まわりにいる人に、私が見てあげないと、と言う気持ちにさせる。
運の強そうな人と言うのは、その人のそばいると、なんだかすべてがうまくいきそうな気になる人。
後ろ姿のかっこいい人は、背中だけで見ている人の想像力を掻き立て、まわりの人をアクティブにさせる、ものすごくかっこいいリーダーだと言うのです。
それが全部、ゴリラのリーダーに当てはまるそうです。
オスのゴリラは巨体で200キロを超えるんだけど、その力を抑制できるんで、みんなが安心して寄ってくる。本当は強いんだけどそれを抑えていることができる、それが愛嬌なんだそうです。
ゴリラの運が強そうというのは、そばにいると大丈夫だということ。胸をどんどん叩いてドラミングして、まわりを威圧すると、彼のそばにいれば安心ということになる。
そして、ゴリラのリーダーは群れの先頭を歩いて絶対に振り返らない。背中で語ってるんだそうです。

ゴリラから学ぶこと多いですね。

「家と家族の進化を考える」という第三章も今日的テーマで面白かったです。

<目次>
第1章 大学はジャングル
第2章 老いと成熟を京都に学ぶ
第3章 家と家族の進化を考える
第4章 アートと言葉の起源を探る
第5章 自由の根源とテリトリー
第6章 ファッションに秘められた意味
第7章 食の変化から社会の変化を読む
第8章 教養の本質とは何か
第9章 AI時代の身体性

「リファイン建築が社会を変える」青木茂著

青木茂さんが首都大学東京を退官するに際して、青木さんの仕事を支えてくれた10人の方々と対談し、10年間を振り返るという内容の対談集。

中々示唆に富む指摘が散りばめられていた。

私が、建築法規の分野から建築ストックの再生と活用に関わりだし始めたのは、随分と前からなのだが、本格的にはリタイアしてからの この5年。

今でも、建築ストック活用プロジェクトの建築法規の領域だけに関わることが多いが、最近では直接 建築主から依頼され調査・申請・設計監理まですることも多くなった。

久しぶりに設計に直接かかわりだすと、やはり設計というのは法規や施工、構造・設備に目を配らないとうまくできないことを実感する。設計こそが鍛錬の近道なのではないかと 今更ながら思う。

建築ストックの再生と活用には法的調査が必須だが、新築と異なり現代法のみ勉強していれば良いというわけではなく、それに加えて現代法の改正履歴を学ぶこと、さらに明治から昭和25年建築基準法成立までの近代建築法制史(市街地建築物法だけでも)を学んでおく必要があると思っている。

いつまで経っても勉強することは山ほどある。

「ご先祖様、ただいま捜査中!」丸山学著

毎日コンピューターと向き合って仕事をして目が疲れるので、最近は本を読まなくなった。というか文字を追うのが苦痛になっていた。目薬は以前から必需品だが、最近はついにハズキルーペを買ってしまった。

自分の先祖たちがどんな人だったのか、年齢を重ねるごとに調べておきたいという気持ちが膨らんでいたが、自分の戸籍を追っていくことは結構手間もかかる事なので中々手をつけることが出来ないでいる。

仕事で都内のあるお寺の「家歴書」を作った。建築確認申請の手続きの中で本堂の新築時期を特定する必要があったからなのだが、来歴や郷土史を調べて新築は江戸時代だとわかった。お寺は関東大震災で損傷を受けたが地域の被災者を受け入れ、かの大戦の空襲でも被災せず、家を焼かれた人々を受け入れ、被災者のために庫裡の増築までしていることが判った。創建時の木造の本堂は、昭和42年に鉄筋コンクリートに建て替わったのだが、建築確認申請上は「増築」となっている。

つくづくすごい お寺だなあ~と思った。

途中幾度か大修理がなされてはいるが、創建から約270年木造のまま地域の被災者を受け入れてきている。このお寺は、宗派の中では有名なお寺なのだが、色々な物語が建物にはあるのだと思った。

***

なんだか あっというまに老人になってしまったようにも思う。

歳を重ねると色々なことを振り返る事がある。

今は 自分の御先祖様に思いを寄せている。

社会的には無名であっても、その時代を必死に生き抜いてきた先祖様があるからこそ自分の存在があるのだと思う。

命をつないでくれた御先祖様に感謝したい。

さて、この本は 自分で先祖探しをしたいという人のために、プロの調査のコツが散りばめられた本で、著者の豊富な体験がベースに書かれているので とても面白かった。

神田神保町「春の古本祭り・さくらみちフェスティバル」2018

打合せの帰り道、神保町へ寄ってみた

折から春の古本祭り

路上の両脇に並べられたワゴンセールの古本を見て回った

買ったのは、この4冊

持っていてどこかの段ボールの中に入っているか、

もしかしたら売ったような記憶がある本

レーモンドとオットー・ワグナーと光の教会それに山本学治さんの本

山本学治さんは元芸大教授で、私の学生時代の理論的支柱になった人

「素材と造形の歴史」を再読してみよう

4冊で1700円だった

「建築設備パーフェクトマニュアル2018-2019」山田浩幸著

「建築設備パーフェクトマニュアル2013」を最新情報に更新し、集合住宅・オフィスビルの解説を付け加えた増補版です。

意匠設計者が最低限押さえておくべき建築設備の基礎知識をまとめていますが、中々実務に役立つ本になっていてこれ一冊で概略は把握できます。

最新の「設備機器導入ガイド」を収録していますから現在の設備機器の傾向もわかるようになっています。結構知らなかった設備機器もあり、勉強になりました。

■目次
STEP1 設備設計を始める前に
STEP2 給排水衛生設備の設計
STEP3 空調換気設備の設計
STEP4 電気・通信設備の設計
STEP5 省エネ機器の導入計画
STEP6 設備図面の読み方・描き方
STEP7 防災・防犯設備の設計
コラム
先分岐工法とヘッダー工法/注意したいガス機器の給排気
加湿・除湿と結露/スマートハウス/オフィス配線
蓄電池の仕組み/ZEHの基礎知識/地中熱の可能性
改正省エネ法の要点
最新 建築設備導入ガイド
エコ関連の設備/設備機器全般

「ヤマベの耐震改修」山辺豊彦著

今時の本はビジュアルで図が多く、しかもカラーで説明がほどかされていて、とてもわかりやすい。

昨今では、ほとんど構造設計者任せの傾向がある意匠設計者や経験の少ない構造設計者が読んでもらいたい読者層なのかなと思いますが、実際に改修設計に直面した時にとても参考になる事が散りばめられています。

「改修は新築とは異なり、既に存在している建物の状況を読み解必要があります」「多種多様な構法・工法への対応」「主要な構造要素の役割や種類とその特徴を、まずしっかりと理解していなければなりません」「建物全体の構造計画を考える」と著者の指摘が頭に残りました。

住宅関係の仕事は、ほとんど依頼がないが木構造には関心がある。だからと言って木造だけをこよなく愛するわけにはいかない。

軽量鉄骨造、重量鉄骨造、鉄筋コンクリート造(ラーメン・壁式)、鉄骨鉄筋コンクリート造と現代には様々な構法による建物があり、それらが皆 改修上の固有の問題を抱えている。

山辺先生には、是非木造以外の本を書いてもらいたい。

「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例」2017年度版

全国の特定行政庁及び指定確認検査機関等で構成されいる日本建築行政会議(JCBA)が、建築確認審査・検査の適正な運用を図るため、全国的な審査・検査の統一化に向けて検討を進め、2009年(平成21年)に「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例」を出版。その後2013年度版と続き、本書は3冊目となる。

この「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例 2017年度版」は、法令等の改正、利用者等からの質疑に対する回答及びその後の部会での検討結果を踏まえ、改訂がなされている。

2013年度版から加筆された項目や変更された文章をマーキングしたのだが、新旧対照表をサイトにでもアップしておいてくれると助かる。

「空洞化と属国化・日本経済グローバル化の顛末」坂本雅子著

建築事務所のブログに経済学の本の読書感想を書くのは場違いのようにも思われるかもしれないが、個人的には若い時から折々につれ経済学の本を読んできた。

今でも新聞の中では、日本経済新聞を一番熱心に読んでいるかな。

思い返せば、経済の影響で人生が左右されてきたようにも思う。高校生時代のオイルショック。バブル経済と収束。リーマンショック等と建築の仕事にも大きな影響を受けてきた。

知人に薦められて、この774頁の大著を年末年始の約2週間をかけて読み通した。

2017年は、日本の電機産業(パソコン、半導体、液晶テレビ・液晶バネル)の総崩れ・敗北が確定した年だった。

知人と「一体どうしちゃったのか東芝は? シャープは? 日本のグローバル企業は、経済はどうなっているのか、これからどうなるのか」そんなことを話していたら この本が面白いからと薦められた。

電機産業も総崩れだが、国内自動車生産も崖っぷちと聞く。日本経済は20年も停滞して来た。世界的に見ても先進国の中で日本だけが停滞している。政府の成長戦略は効果的な対策となっているのかという疑問に、著者は産業の空洞化と対米属国化(従属)によるものと指摘しているのだが、個々の企業活動や日本経済の実態のみならず経済政策や外交・軍事戦略までと総合的に学問の枠を超えた分析をされている。提示された個々の数値に、ここまで日本の企業活動・経済が追い込まれていたのかと呆然としてしまった。

経済学の中では一世を風靡した。今でもかなり浸透している「スマイルカーブ」。縦軸に「付加価値」、横軸に製品の開発・製造・販売の工程をとって図式化すると両端が上がって人が笑った口のように見えることから名づけられたと聞く。台湾のEMS企業・エイサー創始者スタン・シーが最初に言い出した。これが米国の製造業の空洞化に拍車をかけたが、今は技術革新(イノベーション)を生み出すには製造業・生産現場と一体で不可欠という指摘が増えてきている。

この「スマイルカーブ」論は、少なからず日本の建設業や設計業界に影響を与えている。ゼネコンも大手設計事務所も実施設計という図面を作成する工程は、外注事務所や非正規の設計者・ドラフトマンを集めた子会社が担っている。図面の書かない書けない一級建築士は多い。住宅業界は、生産図や申請図は海外で作成しているのは随分と前から。

日本は、いつのまにか「ものづくり」により成長するのではなく、互いにサービスを提供しあうことに依存する経済になりつつある。

 

  • 序章  日本経済と産業空洞化
  • 第1章   日本電機産業の敗北-生産の海外移転が行きつくところ
  • 第2章     自動車産業は空洞化するか
  • 第3章  成長戦略と日本経済-インフラ輸出戦略で空洞化は止められない
  • 第4章  安倍成長戦略と・「日本再興戦略」の本質
  • 第5章     インフラ輸出と「安全保障」の一体化-安倍内閣期のインフラ輸出
  • 第6章 空洞化、属国化の協定・TPPと米国のアジア回帰戦略

とあるように 日本経済の幅広いテーマを取り扱っていて、とても感想を書ききれないが、この本を読み終わって今後の自分のビジネスをどうするべきかはっきりした。

この本は、売れているそうだ。出版3ヶ月で3刷目。

岡倉天心記念学術奨励賞を受賞したとは言え、専門書で6千円もする本なのに。それだけ日本の産業や経済が今どうなっているのか皆 関心があるのだろう。

 

「世界のリノベーション」日経アーキテクチュア編

昨年の暮れに発売された「世界のリノベーション」日経アーキテクチュア編です。

日経アーキテクチュア誌が、近年リポートしてきた国内外のリノベーション事例の中から厳選し、未掲載の写真や資料を加えて紹介しています。

ザハ・ハディド氏の遺作となるベルギーのポートハウスのほか、フランク・O・ゲーリー氏、安藤忠雄氏など、世界の著名建築家による「新築を超える増改築」を多数掲載しています。国内のモダニズム建築の保存再生事例や、技術・法規面を押さえつつ実現過程が詳細に書かれています。

作品紹介にあたり、リノベーションの特徴を示す6つのアイコン「包む」「載せる」「はめ込む」「くり抜く」「つなぐ」「掘る」を付けていますが、良い整理方法だと思いました。

今、小さいプロジェクトだが鉄骨造3階建ての建物に1層増築して4階建てにする「上増築」(しかも工事完了検査済証が無い)の仕事を手掛けています。この本によると「載せる」という範疇になるのですが、幾つか建築基準法の構造規定の既存遡及の壁にぶち当たっていました。現在も知恵を絞り中。

ザハ・ハディド氏の遺作となるベルギーのポートハウス「海に浮かぶダイヤ」が「載せる」の事例となっているが、既存建物とは構造的には切り離しているようです。

五十嵐太郎氏の「リノベ建築史」の視点も重要です。

建築史を俯瞰すれば、「リノベ」は昨日今日流行ったものではなく古来より「再開発」「修景/保存」「再利用」は同じような建築的創造行為であったことが理解できます。

ヨーロッパに行ってきたい・・・。

「設備設計スタンダード図集」ZO設計室

毎年、年末年始に読もうと大量の本を購入するのだが、今年最初に読み終えたのが、この本「設備設計スタンダード図集」ZO設計室・柿沼斉三・伊藤教子共著。

本来は設備設計者を対象としているのだろう、その極意を伝授する内容となっている。

建築ストックの活用・再生を業務にしていると、既存の建物の設備図面を読みこなす力が必要になってくる。名ばかり設備一級建築士なので、専門とする設備設計者に協力を仰がなければならないのだが、自分でもある程度は理解する必要があるので最新の知識は勉強しておきたい。

設備関係の更新が中心のリフォームも多くなってきているが、だからと言って設備設計者だけに業務を任せていれば良いというものでもなく総合的に判断する力量が必要となってくる。

この本の良いところは、オフィスからマンション、公共建築、戸建て住宅と規模と用途の異なる9タイプの事例を掲載していて、それぞれの図面に対して設計の決め方や留意点を記載するなど、きめ細かく解説している点だろう。

とても勉強になった。

「RENOVATION CASE STUDY BOOK 2」

リノベーションは建物単体の再生にとどまらず、街の活性化、コミュニティーの再生にも大きな役割を担っている。

「リノベーション ケーススタディブック 2」は、全国各地の店舗、文化施設、オフィス、宿泊施設、住宅の38の事例を紹介している。

巻頭特集は、リノベーションによる街の活性化に取り組む北九州市小倉、尾道市旧市街地、長野市善光寺門前を取り上げコミュニティ再生におけるリノベーションの役割、成功の秘訣を探っている。

既に見に行ったものも多く紹介されているが、遠方の為 中々行く機会がない兵庫県の豊岡・城崎温泉・出石に出向きたいと思った。

「キズカイのケンチク」

木造建築にこだわってきた東海大学・杉本祥文教授の活動の集大成ともいえる本。氏の生い立ちから木材を巡る諸問題についてふれ木造建築復権にかける熱い思いが語られてる。杉本先生とは年に数回会う機会があるのだが、生い立ちは始めて知った。祖父が伊豆修善寺で製材業を営まれていたということから木との関わりは幼少時代にあったものらしい。

「木」という一つの材料にこだわりを持って設計をしている人をうらやましく思うことがある。私などのように実現したい空間を構成するストラクチャは何でもいいと思っている輩からは なんでそんなに「木」にこだわるのか理解しがたいところである。

杉本先生が前社長・現会長職にある㈱計画・環境建築は、かって日本の建築界をリードした鬼才・木島安史さんと橋本文隆さんが設立した事務所である。

若い時に木島安史さんの作品が新建築に発表されるたびに、そのデザイン力・ダイナミックな構想力には圧倒され脱帽した。

木島安史さんの日本建築学会建築会館コンペ案が実施に採用されていたら、どんな空間を我々に提供してくれたのだろうかと建築会館を訪れるたびに思ったものだ。

この本の中には、杉本先生が関わった私の好きな建物が幾つかある。周辺環境に共鳴するかのごとく柔らかな稜線をもつ「道の駅 みかも」。木質ハイブリッドな構造の「道の駅安達・智恵子の里」等だ。

以前の作品には木島安史・橋本文隆のDNAを色濃く継承したデザイン・構想力に秀でていた作品が多かったのだが、最近はおとなしいというか拙い作品も散見する。

今時の大学で子供達と戯れているのも良いけど、デザインの現場に復帰して指導力を発揮してもらいたいものだと影ながら思っている。

「老いる家 崩れる街~住宅過剰社会の末路」野澤千絵著

著者である野澤千絵・東洋大学教授によると「住宅過剰社会」とは、「世帯数を大幅に超えた住宅がすでにあり、空き家が右肩上がりに増えているにもかかわらず、将来世代への深刻な影響を見過ごし、居住地を焼畑的に広げながら、住宅を大量につくり続ける社会」のことと書いています。

2060年の日本の将来人口(合計特殊出生率1.35の場合)は、約8700万人と予想されていて、減少が始まった2010年の人口・1億2806万人の約7割にまで減少するとの国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2012年1月推計)が指摘しています。

国は、経済対策や住宅政策の一環として従来通り新築住宅への金融・税制等の優遇を行い、住宅建設の後押しを続けていて、住宅過剰社会を食い止めようという兆しがほとんど見られないと著者は指摘しています。

不動産は、その住宅の質や立地によっては、売りたくても買い手がつかない、貸したくても借り手が見つからないケースが続出しています。財産ではなく、固定資産税や管理費・修繕積立金を払うだけの「負動産」になりつつあるものも増加しています。

東京近郊における賃貸アパートの供給過剰による空き家の増加。越後湯沢のようなリゾートマンションの廃墟化。限界集落。

最近、弁護士や司法書士に話を聞いたところ「相続関係」の業務が増えているそうです。「相続問題」というと以前は、家族や親族間のトラブルによるものだったのが、最近は相続放棄、認知症の老人の成年後見人になったり、不動産の信託であったりと少子高齢化の波が、建設・住宅業界より一足早く押し寄せているなと感じたものでした。

私が死んだ後の日本の将来を思うと暗澹たる気持ちになってしまいますが、「住宅過剰社会から脱却するための7つの方策」も提案されており まだ方針転換すれば間に合うかもしれないという かすかな期待を抱くことができます。

「伝統的民家における温熱特性と現代住宅への応用に関する研究」金田正夫著

本書は現在、無垢里一級建築士事務所を主宰されている金田正夫氏の学位論文です。金田氏は 設計実務を続けながら法政大学に学び2011年3月に博士号を取得され、現在も実務と研究を続けられている「在野の研究者」です。

本書では、民家の温熱特性については茅葺屋根の日射遮熱効果や民家の通風特性についての既往研究は調査事例があり解明されつつあるとし、夏季における置き屋根による日射遮熱、土壁による西日遮熱、民家構成材による調湿、冬季における放射熱源と土壁の採熱・蓄熱については調査事例が少なかったので それらを補完するのが本研究の第一目的としています。

また、民家の温熱特性を現代住宅の諸条件の中で応用し、その効果を対比検証していますが、それが第二の目的としています。

とりわけ面白いと思ったのは「置き屋根(二重屋根)」による遮熱効果。夏の良好な温熱環境をつくるうえで無視できない西日遮熱の問題。民家の調湿効果を類似の新建材に特化した調湿実験の結果。約10年間にわたる実測に裏打ちされた研究成果が満載されています。

「自費出版」ですが、住宅の温熱環境に関心がある人には読んでほしい一冊です。

申込は 下記「無垢里」サイトへ

無垢里

 

新「そらまどの家」 丸谷博男著

「地球の恵みの素は、太陽の熱 その熱は、1億5千万㎞を駆け抜けてきた輻射熱です。 「そらどま」は その輻射熱を 住まいに採り入れ その輻射熱で 採暖採涼をします。 太陽の恵み「そら」の熱と 地球の恵み「どま」の熱を 両手両足を背一杯広げて 受取る仕組みです。 そして、人と住まいの健康の素「呼吸する家」をつくります。」

エコハウス研究会

エコハウス研究会のホームページ巻頭に書かれていた この言葉にほれぼれとしました。

「そらどまの家」はフランチャイズではなくオープンシステムです。

「その土地の微気候、それぞれの工務店の工法や技術力にふさわしい、きめの細かいパッシブな家づくりを創案し、皆様のものにしていただこうというものです。このような考えこそがパッシブデザインの本質と考えています」

高断熱・高気密住宅には違和感をずっと感じています。ビーニール袋にアルミの蓋住宅の傾向は、今も昔も何ら変わっていません。省エネと言いながら石油製品の断熱材を多用する矛盾。

日本の風土と共に息づいてきた伝統工法の知恵を生かした家づくりは憧れですが、庶民には高嶺の花であるという現実も存在しています。

「週刊 東洋経済8/12-19合併号・親の住まい 子の住まい」

2019年には世帯数が5307万でピークを迎える

2033年には空き家が2167万戸を超え3戸に1戸は人が住まなくなる。

2050年・現在の居住地の約20%が「誰も住まない土地」になる。団塊ジュニア世代がすべて75歳以上に

今後の日本を展望すると、確かに住環境は激変していくのだろう。

今でもその兆候は見られるし、爺が心配しても仕方ないのかも知れないが、何だか暗澹たる気分になってしまう。

子育て世代の住まいは一戸建てかマンションか。はたまた購入か賃貸か

老後の住まいはどうするのか。

そう言えば 他人ごとではなかった。

NICHE 04

母校の校友会にわずかばかりの寄付をしたところ、出版されたばかりの「NICHE 04・ドイツ建築探訪!」が送られ来た。

いずれ購入しょうと思っていたので丁度良かった。

仕事に追われていてパラパラめくっただけで紹介記事を書くのはおこがましいが、こういう大学の知的資源やネットワークを生かした本を世の中に出し、社会に貢献していくのは大学の使命である。

大学はまだ死んでいなかった。

教育界の品位を下げた「もり・かけ」ばかりではないのだ。

日本語とドイツ語のバイリンガルになっているのだが、かってドイツ語を専攻していたのに今やさっぱり読めなくなっている。

「ブルーノ・タウト再考」を始め、ドイツ建築を特集している。仕事で煮詰まっている時に気分転換で、しっかり読むことにしよう。

「NICHE 04」出版

 

「ひつじの京都銭湯図鑑」大武千明著

京都の街中を歩いていると意外と銭湯に出くわします。レトロなものやモダンな外装のものあり、ひとつひとつの銭湯が個性的です。

仕事に追われている時は、活字の本を読む余力がありませんが、この本のようなイラストが多い本は、ちょつとの合間の息抜きにピッタリです。

銭湯の営業中は、カメラ撮影が不可なので記憶にとどめておいてイラストにされていたそうですが、結構可愛らしいイラストが散りばめられています。

京都銭湯巡りの小トリップ。

何だかワクワクしてきます。