「つながる美術館」宮崎浩+プランツアソシエイツ編著

2021年4月にリニューアルオープンし館名を信濃美術館から長野県立美術館に変更した。

その長野県立美術館の設計から完成までのメイキング・ドキュメント。ほとんどが関係者へのインタビューでまとめられている。

この建物は、善光寺本堂への主軸線と隣の東山魁夷館との軸線という二つの軸線を持つ。そして周辺との高低差10mを読み切っている。もともと「ランドスケープ・ミュージアム」というのが このプロポーザルの発注者側のテーマであるが「つながる」美術館というコンセプトで見事に解決している。

この美術館のプロポーザルで、宮崎さんは屋上から善光寺本堂への軸線のパースを書いた。普通は外観イメージを書いてしまうものだが、そうでないもので勝負している。

プロポーザルで限られた図面に何を表現するのかというのは、誰しも悩むところ。

谷口さんの東山魁夷館とカスケード(水庭)を介して独立しているので、それぞれの建物が魅力的に見える。この配置上の距離感は絶妙。

しかもこのカスケードは落差があり、霧の彫刻を展開する中谷美二子氏の「霧」が不定期に現れる。

山肌を覆う霧や雲のごとく。

とても楽しい空間に包まれる。

街路を歩くように美術館の中をめぐることができるので外部空間や内部のカフェ、アートスペース、ミュージアムショップと「つながる」ことができる。

とにかく見どころ満載の美術館。

「日本最古の災害文学 漫画方丈記」鴨長明 漫画:信吉

「ゆく河の流れは絶えずして しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのこどし」

 その昔、国語の教科書に書かれていたように記憶するこの一節。爺(jiJii)になって読み返すと中々味わい深いものがある。

 大学時代、確か先生から「方丈の庵」の事を聞いた。方丈とは一丈四方のことで約3m四方・四畳半から六畳ぐらいの広さで高さは7尺たらず。土台を組み簡単に屋根を葺き、桁・柱の継ぎ目は掛け金で留めただけ。別の場所に建て直そうと思っても移動は簡単。庵の建材を全て積んでも荷車二輌で足りる。究極のシングルルーム。モバイルハウスだと教わった記憶が蘇ってきた。

 しかもこの方丈の内部空間を「生活の間」「仏道修行の間」「芸術の間」に分割して利用しており、必要最低限のものがあれば快適な暮らしができると。

「どんな家が欲しいか」ではなく「どんな暮らしがしたいのか」と時折考えるようになったのは、今思えば鴨長明の「方丈記」に依るところが大きいのかも知れない。

「方丈記」が時代を超えて読み続けられるのは、日本という災害の多い国で生き続けていくために必要な精神性。鴨長明の「自足の思想」に共感するからではないかと思う。

「人生に本当に必要なものは何か」

「台湾旅人地図帳」片倉佳史・片倉真理著

何時になったら台湾に行けるようになるのだろう。

五度にわたる緊急事態宣言にうんざり気味

ある占い師によると日本の運勢は、しばらく凶だとか

今宵も地図を見ながら異空間に誘われる

この本は、通常のガイドブックとはちょっと異なる

厳選された台湾の魅力的な街、地方都市や田舎町が紹介されている。

普通のガイドブックには取り上げられないような建造物や歴史的遺構、

日台の結びつき、交流の現場等が地図の上に落とし込まれている。

著者は「台湾体験」と言う言葉を用いる

「台湾という土地に触れると、自分の中に新しい何が見つかり、新しい自分に出会い、そして新しい感性が呼び起こされる。台湾はそんな力を秘めた土地である」

「軍艦防波堤へ・駆逐艦涼月と僕の昭和20年4月」澤章著

戦艦大和の最期は、映画もあるし出版物も多いので結構知っていたが、大和とともに出撃した駆逐艦の戦闘状況は知らなった。

この本の駆逐艦涼月(すずつき)は、戦艦大和とともに沖縄方面に出撃した軽巡洋艦1隻と駆逐艦8隻の中の1隻。そのうち帰還したのは冬月、涼月、雪風、初霜の4隻のみ。

涼月は、大破、艦首 – 前部主砲付近に直撃弾を受け大火災となり、後進で佐世保に帰還

その時の艦長・平山敏夫中佐が澤さんの曽祖父にあたるという。

澤さんが小学校6年生の時に父親と北九州の軍艦防波堤(正式名称:響灘沈艦護岸)を訪れた思い出から、戦闘中の駆逐艦涼月にタイムスリップし、戦闘状況を記している。

大和とともに出撃した艦についても知らなかったし、軍艦防波堤も知らなった。

涼月(すずつき)

「さわやかに澄みきった秋の月」美しいが物悲しい名

8月は、鎮魂の月。

引き継いでいかなければならない。

「建築断熱リノベーション」柿沼整三編著

世の中には、木造・鉄骨造・RC造・混構造といった多種多様な構造の建物があり、又共同住宅や一戸建てなどの形式も多様。実際既存建物の下見や調査に行くと、事前に目視できる範囲も限定され、尚且つ図面どうりににはなっていない事も多い。全ての現場が個別解を求めており、省エネ関係の教科書どおりにはいかない時も多い。

この本は2部構成となっていて、1部では断熱の基礎知識の解説。2部は実践編でRC集合住宅の「内断熱」、木造戸建ての「ゾーニング断熱」、RC戸建ての「外断熱」という三つの既存建築の断熱改修の事例を紹介している。

とにかく図面や施工手順の写真が豊富でわかりやすく、断熱リノベに対する思考プロセスや現場の施工手順には多くのヒントが詰まっている。

既存建築物の潜在力(ポテンシャル)をどう評価し、活用の道筋を描くか。省エネ・断熱だけに限らず、まだまだ課題は多い。

2025年から新築住宅と延べ面積300㎡未満の非住宅も省エネ基準適合化するというスケジュールが7/20発表され、省エネ・断熱等の建築の性能とデザインの双立は避けられなくなっている。

「ZEBのデザインメソッド」空気調和・衛生工学会編

ZEB(ゼブ) ネット・ゼロ・エネルギービル

「先進的な建築設計によるエネルギー負荷の抑制やパッシブ技術の採用による自然エネルギーの積極的な活用、高効率な設備システムの導入等により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギー化を実現した上で再生可能エネルギーを導入することにより、エネルギー自立度を極力高め、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物」

2019年に公益社団法人 空気調和・衛生工学会編で技法堂出版から出されたZEBの基本的な解説書。

以前は、大規模な建物、先進的なプロジェクトの話と思っていたら、中小規模の建物でもZEBが話題になってきた。そこで再学習のつもりで基本を確認。

御存知のようにZEBには4つの評価基準があるが、投資対効果を考えたら無理せず Nealy ZEBあたりを目標にした方が良いのかなと思ったりしている。

オフイスビルにせよ、全ての建築物に言えることだが、「雨風を凌ぐ」「単なる箱」から「性能とデザイン」の両立が求められる時代を迎えているのだと思う。

 

「三流のすすめ」安田登著

以前読んだ「あわいの力」の著者、能楽師・安田登さんの最新刊。

三流=多流(いろいろなことができる人)という、中国の古典から「三流」の「本来の意味」を紐解いて、むしろ「三流(多流)〝が〟いい」という。

「一流がひとつのことを究めた人だとしたら、「三流」はそれより劣っている人
ではなく三流とはいろいろなことをする人=多流の人」

安田さん自身が能楽師であり、古代文字や古典に精通し、身体技能のワークショップを開催したり、風水や3DCGについての本も執筆する多流の人。

関西大学で教壇にも立ち「情報空間と身体表現」という講義資料が公開されているが、作品課題が「情報空間の土地」をテーマにしたVR ・AR等のXR作品(AR(拡張現実)/VR(仮想現実)/MR(複合現実)などの総称)の提出とういうからぶったまげる。

「転がる石に苔つかず」(A rolling stone gathers no moss.)

このことわざイギリスでは、「転がる石のように仕事や住まいをころころ変えるような奴は成功できない」という意味らしいが、アメリカでは「いろいろ動き回って変化している人は能力を錆びつかせることがない」というような意味でつかわれるとの事。三流人はローリングストーン。「螺旋的な生き方」ゆるゆる、ぐるぐる回っていて、何に出会うかわからない。

「本当は一流をめざすことができないのに、周囲の期待に流されてめざしちゃったりする人もいます。本当は人生を楽しむことが一番得意な人なのに、毎日がとてもつらくなる。そういう人は一流をめざすことはきっぱりやめて、三流にシフトしたほうがいいと私は思います。本書は、そういう方のための本です。」

読後、気がとつても楽になる本です。

「書庫を建てる」松原隆一郎・堀部安嗣著

この建物を雑誌で見たのは随分と前だったように記憶していた。本には2013年2月竣工とあったから、随分時間が経過してからこの書庫が建てられた経過や建築主や設計者の意図を詳しく知ったことになる。

この書庫がどこにあるかは知っていた。早稲田通り沿いに面して小さいけど存在感がある小豆色の建物。知る人ぞ知る建物だったから。

竣工まもなく雑誌に紹介された時、えらく施工が難しい建物だなと思ったのが第一印象だつた。多角形の平面の中を大小3つの円がくり抜かれている。しかもRC造で階段は鉄骨造。敷地は狭く、早稲田通りは交通量も多い。今回この本を読んでみて、更に納得した。

自分より年齢が若い建築家の中では、堀部安嗣さんの作品に惹かれる。堀部さんの建築の特徴を端的に文字にすると「静謐」という言葉が使われる。空間に緊張感はあるが近寄りがたいものではない。とても印象にのこるシーンが連続している。

この書庫は、本を読むことと文字を書くことと先祖を祀ることが共存している不思議な空間。書庫の中に仏壇が鎮座することで精神性の軸が出来上がったのかも知れない。

だが堀部さんの作品は主に住宅が多いので、部外者は中々空間を体験することはできない。

昨年から堀部安嗣建築設計事務所のユーチューブチャンネルを見て、部外者でも見れそうな建物をチェックしていた。多くはないが全国各地に点在している。それらを見に行くことが目標となり楽しみになった。

「建築物の防火避難規定の解説2016(第2版)」日本建築行政会議編

「建築物の防火避難規定の解説2016」の発行以降に行われた建築基準法令・国交省告示の改正内容及びQ&Aを追加更新した第2版。

新旧対照がないので、ぶっちゃけ どこが修正追加されたのか よくわからん。

表13の平成18年~令和元年までの質問と回答は参考になるが、これまでサイト上に掲載されていたQ&Aを本に挿入しただけ。と言ってしまうと身も蓋もない。

最近は、現在の建築基準法が明文化していない事項について色々と考える機会に出くわすことが多い。取扱い事例や明文化した図書の提示を求められることが多いが、そうじやなくて「設計者が判断しなければならないんだよ」と言いたくなる。

個々の法文の解釈だけでなく、建築法は本来どうあるべきかと言う視点・「国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」(建築基準法第1条)を常に念頭に入れ、構造上安全側、避難上容易、周辺環境に留意する等の視点で個々の問題を解決したい。

「私権」と「公共」のバランスを取らないと社会的共通資本の「環境」を守れない。

「法の解釈だけではなく、建築法はどうあるべきか」という視点を忘れてはならない。

そんなことを考える今日この頃。

「絶景本棚1・2」

妻が書店で見つけてきた本をちょつと拝借。

「本の雑誌」の巻頭連戦が書籍化。

本好きにとって他人の本棚は、とても気になる。どんな本を読めば、あんな発想が浮かぶのか、あの文章力は、どんな本を読んで生み出されていったのか。どんな服を着ているか、どんな時計をしているかなどより何よりも本棚に関心がある。

又、本棚の有り様も気になるところである。すっきり整然としているか、床積みか、野放しか、この本では趣味も職業・専門も異なる1巻、2巻あわせて67人の本棚が登場している。

高校生の時にその詩集を読み漁った渡辺武信さんの本棚も紹介されていた。詩人・建築家・映画評論家であるだけに本も多彩で、それらが同居している。まだお元気なんだと一安心。

我が家の本棚整理は背表紙整列で、基本的に前後二列にはしないようにしているが、増え続ける本とか雑誌類で中々理想通りにはいかない。建築、歴史、漫画、文学、化学、食品、科学等と五目畑状態。以前は多くの本を段ボールにしまい込んでいたのだが、昨年開架式の本棚に展開したので、少しは本に囲まれてる感がする。

「人の魂、本棚に宿る」とある。本棚を公開することは、自分の頭の中を覗かれているような気がしないのかな、もうそういった次元は超えているんだろうなと思うけど。

「大地の家」アンサンブル・スタジオ

スペインとアメリカを拠点に活動するアントン・ガルシア=アブリルとデボラ・メサが率いる職能横断型建築チーム「アンサンブル・スタジオ」の初期作品集。

ensamble studio news

TOTOギャラリー・間(東京都港区)でアンサンブル・スタジオの日本で初めての個展「Architecture of The Earth」が2021年6月8日(火)~9月12日(日)の会期で開催されている。個展は見に行けるかどうかわからないので、先に本だけ読んでみた。

アンサンブル・スタジオの作品からは、「大地の気」を感じる。それほど力強い。

日常的な世界にどっぷりつかっていると「建築とは何か?」と自問することを忘れてしまう。というか避けるようになる。時々 アンサンブル・スタジオのような「建築とは何か」考えさせてくれるような作品を眺めないと商業化の中で埋没してしまいそうだ。

サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路の終着地にある「音楽高等学校」と「スペイン著作権協会本部」の建物は、実際見に行きたかったのだが、聖地巡礼の旅路につくことが出来ずに歳を重ねてしまっている。

「くそじじい と くそばばあの日本史」大塚ひかり著

もう かなりのjijii(爺)になってきたので「終活」などと言っていたら、70代、80代のお兄様お姉様方に「まだまだ。これから」と叱咤激励された。

最近、読む本は女性が書いた本が多い。

この本の著者である大塚ひかりさんも、この本の他に「本当はエロかつた昔の日本」とか「うん古典・うんこで読み解く日本の歴史」「エロスでよみとく万葉集」など きわどい切り口の著作が多数あるが、総じて女性の方が男よりも視点が柔軟のような気がする

筆者によると「くそ」とは「パワフル・ワード」なのだそうだ。「くそ」とは異臭をはなつもの、腐ったものなどのマイナスの意味と肥しのように物を生みだすパワーというプラスの意味もあるそうだ。

そういえば、歳をとって記憶力は衰えたようには思うが、判断力や問題解決能力は益々冴えわたってきたように思う。これは歳を重ね経験が蓄積されると伸びていくものなのかもしれない。まあ口は悪い方だから「あのくそ爺」と影では言われているのだろうが。

今、映画が上映されている葛飾北斎が「富嶽百景」(1834年)を出したのが75歳。

私が小学生の時に夢中になった「南総里見八犬伝」(1841年)は、滝沢馬琴が75歳の時に完成させている。

四世鶴屋南北が「東海道四谷怪談」を発表したのが71歳。

貝原益軒が「養生訓」(1713年)を書いたのは84歳のとき。

杉田玄白が「蘭学事始」(1815年)を書いたのが83歳のとき。

後世に残る本を書けるのは、やっぱり爺になってからかも知れない。

「自治体係長のきほん 係長スイッチ」澤章著

6月10日に発行された澤さんのほやほやの新刊。出版社は公職研なので完全に自治体職員向けなのだろうが、自分が中間管理職のときにこんな本があったなら色々な指針になっただろうと思う。まさに新任中間管理職の「心のバイブル」のような本の中身になっている。中間管理職経験者ならうなづく事ばかりで、若い時にタイムスリップしてしまいそうな気がした。

役所の人達を外部から見てきたが、「窓口は行政サービスの最前線」というのはわかる。とりわけ建築関係の窓口で日々様々な市民が来訪し、職員とコミュニケーションをとっているのを傍らで聞いていると、この人は専門的な事を上手に市民に説明していると思う人もいる。声を張り上げたり、誰それの議員と友達とか、市長に直談判するとかクレーマーと言うかパワハラ系の市民も相手にしなければならないし相当に大変な業務だ。指定確認検査機関等のように建築関係の人達だけを相手にしているわけではない。なにしろ建築の専門用語が通じない人達にも理解できるように説明しなければならないのだから。

自治体職員は、窓口対応で鍛えられていくのではないかと思っていた。とりわけ「係長はしんどい存在」だが「実務をバリバリこなせるのは係長時代」「係長あっての自治体」「係長が意欲的に仕事をしてる自治体は自ずと活性化され、地域も元気になります」は、そのとおりだと思った。 


「ハダカの東京都庁」澤章著

澤章さんは、東京都庁に30年以上勤め、都知事のスピーチライター、広報担当トップを務めた元幹部。退職後、都の外郭団体・(公財)東京都環境公社理事長の時に『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社・2020年3月)を著し、その4ヶ月後の7月に解任された。

小池都知事の暗部をえぐり出したと言うこの本は、今でも都庁内では発禁書扱いと噂されているが、発禁書と言われれば余計読んでみたくなるのが世の常人の常。

昨年解職されてから、いつの間にかユーチューバーになったと思ったら、今年立て続けに本を出された。その一冊がこの「ハダカの東京都庁」もう一冊がまもなく手元に届くであろう「自治体係長のきほん 係長スイッチ: 押せば仕事がうまくいく!一歩先行く係長の仕事の秘けつ」

実際に見て聞いた、その内幕が明かされる「ハダカの東京都庁」。

結構ざっくばらんな文章なのだが、石原知事時代の2期目4年間(2003年~2007年)に都知事のスピーチライターをしていただけあり、博識で教養を感じる。

都に勤めていた私の同級生や知人達も既に退職したが、居酒屋談義では垣間見ることが出来た通称「都商事」の実態も、澤章さんのように本にして語る都庁OBは希少。

役所の仕組みや役人の習性をしらないと中々交渉事は難しいが、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」(「孫子・謀攻」)というから、都商事の内幕を知れたことは貴重だ。 

ワークマン式「しない経営」土屋哲雄著

最近は建築関係の法令にどつぷり漬かっていたので、専門的な本以外を中々読み進められなかった。

この本は、昨年秋に出版された4000億円の国内空白市場を切り拓いたと言われている(株)ワークマン専務取締役の土屋哲雄氏の本です。

JIjiiが今更経営の本なんて思うかも知れませんが、最近読んでいるのは経済学と経営学の本が主流。宇沢弘文さんの生涯をたどりながら20世紀の経済学を論じた「資本主義と闘った男・宇沢弘文と経済学の世界」佐々木実著は、とても面白く、ここ数十年の経済理論を牽引しながらも今や凋落の理論・新自由主義の経済学の生い立ちを詳しく知ることが出来た。また早稲田大学の入山教授の「世界標準の経営理論」も、約30の経営の標準理論が展開されていて楽しく読めた。

そうした中で、脇道的にではあるが遭遇したのがこの本で、気楽に読めるかなと思っていたら、とても共感できる部分があり、自分たちに置き換えて色々と思いめぐらせることができた。

自分達もJiJiiとbabaaしかできない事をやろうと常日頃話し合っている。たとえ零細家族経営の会社でも経営を持続していくためには いろいろと工夫も必要だし、ましてやこのコロナ禍で世の中が、どんな風に変化するか予測すら難しい。

社員がExcelを活用していることやアンバサダー・マーケッティング等 とても参考になった。

この本の中でペンシルベニア大学のアンジェラ・デックワークス教授の「やりぬく力」(GRIT)紹介していた。「やり抜く力の要素」

1,Guts (ガッツ) 困難に立ち向かう「闘志」

2,Resilience(レジリエンス) 失敗してもあきらめずに続ける「粘り強さ」

3,Initiative(イニシアチブ) 自らが目標を定め取り組む力「自発」

4,Tenacity(テナシテイ) 最後までやりとげる「執念」

これらはトップダウンで体育会的に強用されても成功しない。自発性が必要だ。振り返つて見渡せば勉強のできた人・高学歴の人が仕事ができるわけではない。意外と高卒で頑張ってきた人が財をなし、社会的地位もある場合が多い。専門とは異なる分野の本は刺激が強い。

「予防事務審査・検査基準」東京消防庁

「予防事務審査・検査基準」(令和2年9月改訂)・交益財団法人 東京防災救急協会発行、東京消防庁監修。三分冊セツトの書籍なのだが、主に見るのは「Ⅰ」の中の「消防同意事務審査要領」「用途別審査要領」「形態別審査要領」

東京で特殊建築物に関わる人なら必携ともいえる図書なのだが、昔は会社・事務所に1セットあれば足りた。現在は個人事務所なので、たまにしか見なくても用意しておかなければならない。この本、昨今は毎年のように改訂版が出される。

所轄消防署の予防課に事前相談・打合せに行く前には、該当部分を再読しておかなければならず、このところ予習をしていた。

大規模で複合的な用途の建物になると、従来の単一用途のものの考え方だけでは処理できない事も多い。そういう場合は、在館者の安全・円滑な初動避難ができるか、火災時に消防隊の安全・円滑な消防活動の確保ができているかという原点に立ち戻って考え、設計者としての判断を示さなければならない。

一方、エビデンスは大事なのだが、文書化した取扱い事例を過度に求める傾向もあり、些細な事でも所轄消防署に念を押しに行き、打合せ議事録で残すことを要求される場合もある。

大規模・複合的な建物になると関連する法令・条例は広範囲になり、事前チェックを落とすことはできないので、消防法関係だけに限らず、多様な関連書籍が増えるばかり。

「星をつける女」原宏一著

出張が多いと良い事が幾つかある。

普段読めないような本が沢山読める。日中沢山歩くので夜よく寝れる。汗を書くので必ず毎日1回ないしは2回入浴又はシャワーを浴びるので清潔。朝は7時、夜は18時と規則正しく食事がとれる事。しかし出張から帰ると報告書の整理、他の仕事の連絡等に追われまくる。

4月の関西出張で「星をつける女」原宏一著・角川文庫の二巻がとても楽しく読めた。

もう15年程前になるが、飲食店を経営するクライアントがラーメンチェーン店を展開するということで、内装設計や試作品のモニターとして商品開発に関わったことがある。若いころはラーメンを食べ歩いていた事がクライアントに伝わり試作品の感想を言う機会を与えられたにすぎないが、その時飲食業界・ラーメン業界の仕組みを教えてもらった。

開発スタッフやクライアントが、これぞと思うラーメン店を食べ歩き、麺はどこそこの、スープはどこそこのというと製麺会社が幾つかの試作麺・醤油ダレ・味噌ダレを持つてくる。それにスープを合わせて何処かの店に似通っているがオリジナルな拉麺に仕上げていく。スープのレシピも製麺会社から提供されていたように記憶している。

この本に登場する「麺屋勝秀」の麺やスープ・タレのアウトソーシングは とっくの昔から展開されているのが飲食業界の実情だ。

よく考えれば建築業界もアウトソーシングは当たり前になっている。弊社で行っているような建物の調査の類も、自前で調査チームを編成しているようなところは少数派で、調査専門会社に一括又は部分外注し、自らは現場にいかず出来上がってきた報告書類を整理して提出するところが主流になりつつあるようだ。弊社にも調査専門会社からの営業が多くなった。

飲食業界や食と言った他の業界の問題だと思ったら建築業界にも そのまま当てはまるような問題が散りばめられていて、とても楽しかった。

「国の機関の建築物の点検・確認ガイドライン」

国の機関の建築物については、官公法第11条に基づき、その所管する建築物等を適正に保全することが求められていて、同法第12条には、政令で定める敷地、構造及び昇降機以外の建築設備について劣化の状況を点検させる必要がある。

又、建築物の所有者、管理者または占有者は、建築基準法第8条によりその建築物の敷地、構造及び建築設備について常時適法な状態に維持することが努力義務となっている。そして建築基準法第12条第2項及び第4項による定期報告が必要となる。

官公法の「点検」と建築基準法の「点検」という二つの「点検」に加えて、官公法第13条第1項に基づく「保全の基準」(安全性・耐久性・機能性)に基づく「確認」がある。

つまり建築物の定期報告よりももう少し広い範囲の調査による点検・確認が必要となる。その為の「ガイドライン」だが、地方公共団体の施設もこの国のガイドラインに従った調査が必要となる。

この調査は「劣化調査」+「法的調査」というようなものだが、法的確認も、建築基準法はもとより、消防法、バリアフリー法、省エネ法、労働安全衛生法、電気事業法、水道法、その他と幅広い分野の調査が必要となる。

例えば省エネ法の現行法への適合状態となると、厳密に考えると既存建築物の省エネ計算をして現行基準との比較をしないとならないことになる。まあ計算までしなくていい場合もあるだろうが。

こうした国のガイドラインを見ていると既存建築物はシングルイシューで解決できるものは少なく問題解決には総合的なアプローチが必要となってきている。

「台湾路地裏名建築さんぽ」鄭開翔著

毎日寝る頃少しずつ読んでいた。

帯びに「読んで旅するノスタルジックな台湾ガイド」とあるように、鄭さんの絵をながめ文を読んでいると、台湾の街なかを歩いているような気がしてくる。

鄭さんは台湾の画家・スケッチ画家とあるが、30歳代の若き芸術家。台湾の中にある建物「街屋」文化を記録している。台湾の「生活感」から生まれる「個性」は実に多様だ。それが台湾の魅力の一つにつながっている。

その個性の主体は、人であり、多くは個人経営・家族経営から成り立っている。言い換えれば小規模零細企業が活き活きとしているから街が賑わうのではないだろうか。

現代日本とは真逆だからこそ、余計台湾に魅力を感じるのかもしれない。

著者はロダンの言葉を引用している。

「この世界には美しいものが足りないわけではない。足りないのは発見だ」

今夜も この本を片手に旅に出よう。



「いま、台湾で隠居しています」大原扁理著

最近、ファミリーが集まると必ず語られるのは、「どこか旅行行きたい」「コロナが納まったら温泉行きたい」「いつになったら海外行けるかなぁ~」という事。大夫自粛に疲れてきました。

私は、解禁後の最初の海外渡航先は台湾とひそかに決めているので、本やユーチューブで事前調査という名の現実逃避を夜な夜なしております。台湾華語の練習も始めました。

そうした中で見つけた本がこれ「いま、台湾で隠居しています」大原扁理著・k&Bパブリッシャーズ発行。

てっきり高齢者・私と同じような爺さんが書いた本だとばかり思っていたら、なんとまあ著者は35歳。「ゆるゆるマイノリティライフ」と副題にあるように、この若者は今の日本では生きづらかっただろうな、台湾という居場所を見つけられて良かった。

一般的な観光ガイドブックとは異なり、著者が自分の足で歩き回り、探して、出会った「素の台湾」が書かれています。

台湾は「どんな人も居ていい存在」「人間がまだちゃんと人間である」ところ。

マイノリティには息苦しい国・日本。マイノリティやオタクが歴史を作り変えてきたのに そうした人は日本に見切りをつけていく。

爺も台湾に移住したい。

台湾・蔡総統、「最近買った一冊」投稿呼び掛け

台湾の蔡総統が、「最近買った一冊」を投稿呼び掛け 台湾の出版業界を応援している

https://japan.cna.com.tw/news/asoc/202101270005.aspx

蔡総統は1月26日「最近購入した一冊」を投稿する企画を立ち上げ「台湾の出版業界を応援しよう」と呼び掛けた。同日、台北国際ブックフェア開幕が予定されていたがコロナの感染拡大を受けて対面型イベントが中止された事をうけての呼びかけ。

そこで、私が最近買った一冊。実は、まだ読んでいないが・・

日本の出版界と本屋さんを応援したい。

「移民・難民・避難民、コロナ禍による世界喪失の世紀に、
古代と20世紀の経験から光を当てる「ノスタルジー」と「故郷」の哲学

帰郷の後すぐ再び旅に出たギリシアの英雄オデュッセウス、ギリシア語を捨ててラテン語を話しローマの元になる都市を建立したアエネアス、アメリカ亡命後も母語ドイツ語に拘り続けたユダヤ人哲学者アーレント。
自分の故郷を離れ、自分の言葉を忘れざるを得なかった人々の抱く「ノスタルジー」とは。

人はいつ、「我が家」にいると感じるのか?
アカデミー・フランセーズ新会員、現代フランスを代表する女性哲学者の傑作、待望の日本語訳!」花伝社サイトより。

「オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る」オードリー・タン著

2021年 最初に読み終わったのは、「オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る」世界初のオードリー・タン自著。

実は購入したのは妻(パートナー)で、年末に買ったものらしい。我が家には買った人が読み終わる前に、その本を他のものが読まないと言う不文律があるのだが、つい目にして何頁か読み始めたら止まらなくなり、結局最後まで読み切ってしまったのだが、途中で先に読んでいるのがバレてしまい。同じ本をアマゾンで注文した。

私は、読んだ本には付箋紙だらけにするし、気になるところは赤鉛筆で線を引いたり、丸で囲ったりと結構本を汚すので、妻には嫌われている。

ところで この本 刺激的な内容に満ちている。

驚いたのは、台湾はなんとも民主的で、デジタル技術が社会や政治について考えるツールとして活用されている事。帯にもあるように「テクノロジーを活用した新しい政治、経済、ライフスタイルの時代が始まっている」というのが理解できた。

それにしても2020年は、自分の子供達の世代=30歳代の人達の本に、強く共感し刺激をうけた。このオードリー・タン氏は今年40歳。『人新世の「資本論」』の斎藤幸平氏は、今年34歳。

台湾では「青銀共創」(せいぎんきょうそう)という試みが盛んだそうで、青年(青)と年配者(銀)が共同でクリエイトしてイノベーションをおこなう。若者と年配者はそれぞれ異なる角度からの見方を持っているが、それらを結合させていくと新しいイノベーションが生まれるのだと書かれている。

【オードリー・タンが伝えたいメッセージ】

・人間がAIに使われるという心配は杞憂にすぎない

・AIと人間の関係は、ドラえもんとのび太のようなもの

・デジタルが高齢者に使いにくいものであれば、改良すればいい

・デジタル技術は「誰でも使える」ことが重要

・デジタルは多くの人々が一緒に社会や政治のことを考えるツール

・インクルージョンや寛容の精神は、イノベーションの基礎となる。

・様々な学習ツールを利用して学ぶ生涯学習が重要になる

・テクノロジーで解決できない問題に対処するために美意識を養う。

「日本植民地建築論」西澤泰彦著

2020年最後に読み終えたのが「日本植民地建築論」西澤泰彦著。帯あるように、2009年、日本建築学会賞論文賞を受賞した研究書。

日本近代建築史の空白部分と言われていた日本帝国の植民地支配により生まれた近代建築を体系的に展望し、各地域における建築史的位置づけの基礎データが提供されている。また建築が植民地支配に果たした役割を余す所なく描き出しており日本近代建築史の巨大な欠落を埋め、初めて本格的な歴史的評価を示した労作。

西澤さんの研究視点は、建築活動や建築物の特徴を明確にするために、少なくとも建築計画・用途・機能、建築構造・材料・技術、建築様式・意匠という建築の基本的要素である「用・強・美」に依拠した複数の視点を立てている。それが他の建築史研究者とは異なり建築史に重層的な深みを与えてくれる。

日本の近代建築法制の研究分野でも欠落していた、あるいは意図的に無視されていた植民地の建築規制、台湾・朝鮮・満洲等の建築法制について植民地の建築活動の中で詳細に記載されている。

以前、西澤さんの「日本の植民地建築~帝国に築かれたネットワーク」を読んだが、この「日本植民地建築論」は、それより1年ほど前に出版された論文賞対象となった本で、より詳細なデーターが記載されている。

https://taf2012.sakura.ne.jp/wp/?p=6436

2020年新型コロナウイルス感染により晴耕雨読の日々が増え、「建築法制と衛生」という視点で本を読むことが多かった。最近は台湾の建築法制を主に勉強していた。台湾では1900年(明治33年)の「台湾家屋建築規則」、「台湾家屋建築規則施行規則」が本土と比べても早く法制化されている。建築物の耐火・不燃化と建築の衛生水準の確保という二つの命題を統一した総合的な法令で、日本国内の各種法令に先んじて格段に整備された法令だった。

台湾に防疫や衛生管理を根付かせて伝染病の撲滅に貢献したのは、日本統治時代の1898年に台湾総督府で民生長官を務めた医師出身の後藤新平だ。それから120年以上がたち日本は感染症の流行対策について台湾に学ばなければならない立場に逆転している。

「社会的共通資本」宇沢弘文著

Looking back on 2020

「2020年を振り返る」今年は、英語を使う事が多かった。喋ることは不得意だが、英文メールのやり取りで頭が活性化した。一般社団法人や特定非営利法人等の私企業ではないところとの仕事が多かったのも今年の特徴だ。複数の非営利的事業所が集まって一つの建物を建築するような仕事にも関わりを持つた。

2020年は新型コロナウイルスとの闘いに始まり、今まだ感染拡大の只中で2021年を迎えようとしている。「私・共・公」について考え、コモンを強く意識した一年だった。

そうした中で思い出したのが、宇沢弘文さんの「社会的共通資本」という20年以上前の岩波新書。宇沢さんの晩年・72歳のときの啓蒙書を再読した。

宇沢さんは「社会的共通資本」を次のように定義している。

「社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する」

宇沢さんは社会的共通資本の重要な構成要素として

(1)自然環境(大気、森林、河川、土壌等)

(2)社会的インフラストラクチャー(道路、交通機関、上下水道、電力・ガス等ど)

(3)制度資本(教育、医療、司法、金融等)-を挙げている。

市場経済(資本主義社会)は「市場」の領域と「非市場」の領域で成り立っている。ところが、主流派経済学(新古典派経済学)はもっぱら「市場」領域のみを分析の対象とし、市場システムの正当性ばかりを強調しがちだ。主流派経済学が新自由主義、市場原理主義の色彩を強めたのも、分析対象が市場の領域に偏りすぎていたことと無関係ではない。

宇沢さんによれば、市場経済制度がうまく機能するかどうかは、どのような社会的共通資本のネットワークのうえで市場が営まれているのかに左右される。市場経済は「市場」だけで成り立っているのではなく、「非市場」という土台を必要とする。そして、「非市場」領域の実態こそ、「社会的共通資本のネットワーク」なのであるとする。

この本を再読して色々と考えが拡がっている。

建築トラブルを避けるための本 -4

「四会連合協定 建築設計・監理等業務委託契約約款の解説」

2020年11月に出版された改正版

設計・監理契約に添付する約款の解説書。この契約約款、他の定型約款と同じように、契約締結時、受託者が詳しく説明すると聞いたことがないし、委託者も説明を聞いたことがないし内容もあまり見ていないと聞くことが多い。約款そのものが契約書に添付されていない事もある。

しかしトラブルが起きた時、この契約約款は威力を発揮する。とりわけ法律家は約款が好きだ。

誤解を恐れず書くと、約款とは両刃の刃みたいな文書。

この約款、改正民法を反映して今回改正された項目も多いので、実務者は一読しておく必要がある本だと思う。