
ひと昔前までは ほとんど見向きもされなかった建築基準法の改正履歴。
昨今の既存建築物の再生・活用に伴い、既存不適格建築物の増改築・用途変更も増加し、建築基準法の改正履歴を熟知するのは、建築士として必須事項となっている。
しかし 他の会社のレポート等を見ると「現行法に適合していない既存不適格建築物だから改築する必要がある」とか、そもそも既存不適格ということを理解していない建築士に遭遇することは多々ある。また法曹界(弁護士や裁判官)でも既存不適格が理解できていない人に出会うこともある。そのぐらい「既存不適格」という概念は、建築基準法にある 特殊な概念でもある。
もっとも日本の「建築確認」という制度も、世界的にみれば特殊な規定で、世界の趨勢は「建築許可」であるが、それはまた別の機会に書いておこうと思う。
この本は、2025年4月に初版が発行された本だが、条文毎ではなく、項目ごとに「現行規制の内容」「主な改正履歴と改正の趣旨・内容」について、国土交通省が改正時に示した通達、技術的助言等を記載し、法令改正時のねらいや、その概要を記載しているので、とても分かりやすく、お薦めの本だ。
「既存不適格建築物」(法3条第2項、3項)は、「過去の法令に適合していたが、現行法には適合しない建築物」をいい、一部の法令に適合していない状態では違法建築物とは法的に区別されている。
でも、時々「既存不適格建築物の賞味期限」を設定した方が良いのではないかと思う事案に出会うことがある。
例えば昭和45年に竣工した商業ビルで、用途は店舗、延床面積は1万㎡を超えていて、常時不特定多数の人が出入りしている建物だが、排煙設備がない。排煙設備の規定の施行は、昭和46年1月1日だから、築54年の間 テナントは入れ替わったが、用途の変更もないので、ずっと排煙設備がないまま現在も稼働している。安全面から考えて既存不適格の賞味期限を設定しても良いのではないかと思った。
又別の事案だが、古い建物のエレベーターやエスカレーターも既存不適格となっていることが多い。これらも昨今は、法令改正により安全面が強化されているが、常時不特定多数の人が出入りしている建物に設置されている場合などは、安全面から考えて既存不適格の賞味期限を設定しても良いのではないかと思っている。