今年9月(2024年)に亡くなられた文芸評論家の福田和也氏のエッセイ集。まだ63歳だった。
眼光鋭い福田さんが表紙から我々を見ている。
サンデー毎日で連載していた「コロナ禍の名店を訪ねる」に加筆、再構成した単行本。
淡々とした文章で、さらっと読めるんだけど、読んでいると含蓄のある言葉が散りばめられている。確かに著者最後のメッセージなのだろう。
この本で最初に取り上げられている飲食店は、大井町のとんかつ屋「丸八」。私も品川市役所に出かけた時は、食べに行くとんかつ屋さんだ。巻頭でこの店の名前を見た途端。この人は信頼できると思った。味覚が信頼できる人が紹介してくれる飲食店は、外れない。
著者が書くように、私もネツトで話題の店に行くことは、ほとんどない。ネットでの他人の評価には懐疑的だから。だから新しい好みの店を発見し、行きつけの店として通うのには結構努力が必要だ。爺婆探偵団(白髪の青年)は、いつもお店の新規開拓にいそしんでいる。
さて著者は、「毎日、とは言わないまでも日常に通う店、つまり自分の生活スタイルを保持すること、そのために失われやすいものに対して、鋭敏に、かつ能動的に活動する精神を保守という。」と定義する。
そしてこの本の題名「保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである」は保守評論家の福田恆存(つねあり)から採ったことを明かし、それを信条としてきたと書く。
また著者は「治者」と言う言葉を紹介する。「自分が関わる地域なり、事業なりを差配し、それがうまく機能していくように配慮する者のことだ。」
そして最後に著者は「日本人よ、治者たれ。」と檄を飛ばす。
だとしたら 何とも日本には「エセ保守」の多い事か。
福田和也氏を再評価した一冊である。