「台北・歴史建築探訪 日本が遺した建築遺産を歩く 1895~1945(増補版)」片倉佳史 文・写真

2019年にこの本が出版された時は171件の歴史建築を紹介していたが、この増補版は約40件ほど新規追加され結構分厚い本になった。

台湾は、産業遺産のリノベーションと再利用の宝庫で、日本統治時代や終戦直後に建てれた老家屋は、次々に修復・復元され、個性的なショップやレストラン、カフェ等に生まれ変わっている。それらが今や重要な観光資源となっている。

新規追加された建物も、コロナ禍の中でリノベーションされたものが多く含まれている。

この建築ストックの構造も多彩で、木造・鉄筋コンクリート造・組積造とある。日本統治時代からのものだと築100年を超える建物も多くあり、それらの耐用年数はどうなっているのか、補修方法はどうしているのか、建築病理学的・工学的関心は尽きない。

台湾の一般市民が暮らしている建物は、伝統的な建物は壁を組積造、現代的な建物は鉄筋コンクリート造で、屋根構造は木造の架構というのが多い様で、その建築ストックは膨大だと聞きました。

観光で数日行くのではなく、台湾にじっくり腰を落ち着けて、この本の建物を訪れたいと思う。ネット環境さえあれば1ヶ月ぐらいは行っていても仕事に差し支えないかな・・・。

「世界のリノベーション建築・創造的リュースをめざして」ゲシュタルテン編

建築ストックのリユース(再利用)というと、制約が多くて自由な発想が妨げられるように思うかもしれないけれど、制約があるからこそ豊かさや想像力が高まることもあり、建物の質が下がるわけではない。

「新築は創造的だが、再利用は妥協だ」という考え方もあるが、イノベーションの意味は、必ずしも新しいものを創造する事ではなく、既存のリソースに新しいやり方で取り組むことでもあるはずだ。

この本では、世界の35の事例が紹介されている。こうした事例は、現実に取り組んでいるリュース・プロジェクトのヒントを探すときに参考になる。

今 現実のプロジェクトで試行錯誤しているのは壁面と屋上の「被膜」。

被膜とは、裸の躯体に「衣服を着せる」「覆う」事。もろい砂岩・石灰岩・レンガなどの躯体を花崗岩で覆って強度・対候性を高め、白大理石で覆ってより美化し、表現の幅を広げ丹精さ・壮麗さをだすことは古代から実践されてきた。それを19世紀前半にゴットフリート・ゼムバーが言語化・理論化した。

被膜は内と外との空間境界でもある。

たしか川向正人さんがゼムバーの研究書を出してたはずだなと思い。回り道だが「被膜」について勉強してみたいと思った。

「大名倒産」浅田次郎著

最近は、土日にみっちりディスクワークをする自営業者ならではの「働き方改革」をしている他、夜8時過ぎには寝て深夜に起き出し、朝6時に散歩して6時半にラジオ体操。シャワーを浴びて朝食という生活パータン。このところ平日の日中に打合せや現場と外出が続いたり出張や夜遅くまで用事が続き、暑さもあり少しお疲れだった。

そこで1日、本を読んでゴロゴロする休暇を取った。

本屋で選んだのは、現在映画封切り中の浅田次郎さんの「大名倒産」

幕末の3万石の小藩が、歳入を超える歳出を続け、累積赤字は返済不能。負債を作った親の世代は逃げ切りを図り、ロスジェネ世代が苦労するという物語。時代小説でありながら企業小説としても読め為になった。

「領地経営の骨は、まずは節倹。次に四公六民の収税の正確な実行。加うるに殖産興業」要するに無駄遣いをせず、年貢はきちんと取り、特産物を増やすという基本につきる。これは現代の企業経営に通じており、固定経費を減らし、売掛金はきちんと回収し、新しい事業分野を拡大すると言ったことになるのだろうか。

巻末で浅田次郎さんと磯田道史さんの対談が掲載されている。その中で磯田さんが

「労働力の質では世界最高なのに、労働生産性は先進国中でかなり低い」「おそらくは江戸時代の参勤交代と同じように、高い質の労働力を生産的でない活動に向けているに違いない」。サラリーマン時代、仕事のための仕事がいかに多いか、その為の時間消費にうんざりしていた。

モンゴル帝国に使えた官僚・邪律楚材(やりつそざい)の言葉が紹介されている。

「一事を生ずるは一事を省くにしかず」新しい仕事を加えるより、無駄になっている仕事を省け。

「後進国となりかけている この国をどうやって立ち直させるか」そんなことまで考えてしまう本だった。

「はじめてのヘリテージ建築」宮沢洋著

最近は「古さ」を楽しむ人が増えたのか、自分が関心があるから目につくのか「ヘリテージ建築(歴史遺産建築)」に関わる出版が多い。この本は2023年6月初版だから、出たばかりの本。

このヘリテージ建築には、建築設計者の手で保存再生され、魅力的な場に生まれ変わったものもあります。元日経アーキテクチュア編集長の宮沢洋さんが現地を巡り、分かりやすいイラストを交えながらその面白さを「変化を楽しむ」「物語に出会う」「グルメを楽しむ」という構成で伝えています。

この本はヘリテージビジネスの分野で、組織設計事務所の中では何歩も先を行く日建設計が全面協力という。日建設計のヘリテージビジネス分野のリーダーである西澤氏が案内役をしているが、西澤氏は構造設計や耐震工学の専門家であると聞くと既存建築物を扱っている人間としては合点がいく。既存建築物の法的課題、技術的課題の7割から8割が構造的な問題だからだ。エンジニアリングでありながら文化的センスのある人がこの分野のリーダーに相応しい。

今まではヘリテージというと伝統木造や文化財といった歴史的建造物を想起しがちだが、いま鉄骨造や鉄筋コークリートなどの近現代の建造物が、解体の岐路に立たされており急速に文化財的保存、動的保存の対象となりつつある。また官民建築物の長寿命化も最近の重要課題の一つとして浮上している。

本書とは関係ないが、上記の写真は沖縄の名護市庁舎。鉄骨鉄筋コンクリート造りの3階建てで1981年4月に完成した。全国的な設計コンペで最優秀だった象設計集団の斬新なデザインで日本建築学会賞(作品)を受賞した。庁舎には56体のシーサーが設置されていたが、老朽化で2019年に全て撤去された。いま、この昭和の名建築が築42年で老朽化という理由で解体されようとしている。なんとまあ歴史を大事にしないことか。

近現代建築物には耐震改修や安全性の確保、設備の更新が強く求められるが、経済的付加価値を適切に加えていくことが大切。保存改修設計とか耐震補強とかのシングルイシューだけでなく総合的な視点とそれに対応できる技術力を早急に構築することが必要と思う。

縄文人のSDGs

東京都北区に中里貝塚という大きな貝塚がある。住所で言うと東京都北区上中里2丁目。京浜東北線中里駅近くの東北新幹線と宇都宮線・高崎線との間にある地域。

この中里貝塚の存在は、かなり以前から知っていた。マンションなどを開発をする場合、埋蔵文化財の包蔵地を避ける傾向にあり、このエリアに貝塚があるのは、建築業界では有名だった。

貝塚というと通常ゴミ捨て場のイメージだが、この中里貝塚は違うと知ったのは、随分と後の事で、北区飛鳥山博物館の貝層の展示をみてからだった。

上記の写真は発掘時の調査写真で、白く見えるのは全て貝。層厚が4.5mもあるそうだ。それもマガキとハマグリの貝だけで800年間もの間、何世代にもわたって貝殻廃棄を繰り返した跡。ここにはその他の貝殻や獣骨、土器片などは一切見つからず、生活のにおいがしない貝塚なのだという。

そんな中里貝塚の全貌が判る本が2023年1月出版されたと知り読んでみた「東京に眠る巨大貝塚の謎・中里貝塚」安武由利子著

山手線や京浜東北線に乗って車窓をみればわかるように、この地域は武蔵野台地の端部であり、その下は東京低地で相当の落差がある。縄文時代では奥東京湾と呼ばれている地域。

学際的な調査研究の結果わかってきたことは、ここは縄文時代の水産加工場で、貝のむきみを取り出していた形跡(木枠付土杭や焚火跡)が見られるという。取り出された貝肉は干し貝に加工処理され武蔵野台地の集落に運ばれ消費された。

感心するべきことは、30mm以下の小型の個体は、ほとんど含まれておらず縄文人の選択的漁獲を裏付けている。800年もの長きにわたって漁場を失うことなく採貝を続けれたのは、豊かな海があっことは確かだが、採取季節を限定し若齢個体を除外したことから、限られた資源を枯渇させない資源管理の徹底を垣間見ることが出来る。

まさに「SDGs(持続可能な開発目標)」の「海の豊かさを守ろう」が実践されていた。

遺跡には感動がある。

「名建築で昼食を」オフィシャルブック

テレビドラマ「名建築で昼食を」のオフィシャルブックが本屋で目に入った

「都会に佇む、ノスタルジックでかわいらしい乙女建築」

業界ではヘリテージと言われている歴史的建築物が「乙女建築」ときたか

取り上げられている建物は、ほとんど行った事があるが、その意匠の細部まで目を凝らしてみたことが無いものもあった。

建築って難しそうだけど、ランチがある場所なら行ってみたい。そんな人達と歴史的建築物を近づけた功績がある原作とドラマ。まあ敷居を低くしてぐっと距離を縮めて売れる本、見られるドラマになってると思う。

でも建築が主なのかなぁ~。ランチはあくまでも脇役なのかなぁ~と思ったりする。

例えばお茶の水の山の上ホテルなら泊まってほしいし、天麩羅食べて、建築を含めまるごと味わってほしいものだ。その建築は、ホテルなのだから。

学生時代、研究室の周りの人達が民家だ、歴史的建築物保存だと言っているなかで、私は数寄屋建築に憧れていた。

数寄屋建築を学ぶなら料亭に行くしかないよ、個人の住宅は余程の関係が無いと見せてもらえないのだし、食うもの食わずとも懐石料理を食べて数寄屋建築やその庭園を見るしかないと言われた。

それから半世紀余り経過して、妻が和食が好きだという事もあり、時たま本格的な和食を食べに行くことがあるし、そこで建築も味わう事ができた。そうした事を整理してみたら面白いかも知れないと思う今日この頃。

とっても敷居の高い建築と日本料理の紹介本になってしまい、売れないだろうと笑ってしまう。

「建築基準法 (特別法コンメンタール)」

この本は、ずっと買おうか買うまいか迷っている本。

「建築基準法 (特別法コンメンタール) 単行本 – 1990 平成2年改訂版
荒 秀 (著), 矢吹 茂郎 (著), 関 哲夫 (著)」と「建築基準法 (特別法コンメンタール) 単行本 – 1984 昭和59年初版」の二冊、初版本と改訂版本が古本市場には出回っている。

どちらも一冊約6万円ぐらいが市場価格。

何故こんな古い本が約6万円もするのか、単なる法令解説本ではないかと思われるかもしれないが、この本は「詳解 建築基準法」(既に中古購入済み)と並ぶ、隠れた法令解説本のバイブルのような存在。単なる逐条解説ではなく法の理念にまで掘り下げられており、取扱いに迷った時に この本等に立ち戻ると正しい方向に導いてくれる。

出版当時は、会社に一冊あれば事足りた本だったので個人所有はしなかった。

今日、出版社の編集の人と電話で話をしていて、また欲しくなった。

妻が推しのコンサートチケットが転売屋で3万とか5万円とかするけど、行きたい、もったいないと躊躇しているような気持ちに似ているかもしれない。

「シネドラ建築探訪」文・イラスト 宮沢洋

元日経アーキテクチュア編集長の宮沢洋さんが綴る映画やテレビドラマという映像の中で描かれた建築家や建築。

建築家に焦点をあてているのは興味深い。さらっと読めた。

これまで観た映画やドラマも沢山紹介されていて新鮮味は少なかったけど、この映画の主人公の建築家をこういう視点でみるのかとか、切り口が面白かった。

NHKの土曜ドラマになった横山秀夫氏の小説「ノースライト」。このドラマで「Y邸」がリアルに映し出されるのだが、こんな住宅が物語の中とは言え「平成すまいの200選」に選ばれ、作品と呼べる住宅なわけないだろうと思っていたが、宮沢氏もそのことを思っていたらしく「ノースライトでコンペをやろう!」と書いていた。

見たことが無かつた映画では「ホテルローヤル」というラブホテルの社会性を描いた作品に興味を持った。U-NEXTで見れるらしいのでカードを買ってこよう。

この本では取り上げられていないが、Netflixで観た漫画家の小山愛子さんの原作ドラマ「舞妓さんちのまかないさん」にも、師匠格の建築家と若い建築家が登場し、舞妓さんと織りなす心模様が挿入されていた。下世話だけど京都で仕事をしていると祇園で接待されることもあるのかなと・・・まあ ちょつと羨ましかった。是枝さんが総合演出したという、このドラマはちょっと消化不良かなとも思ったけど。

映画の中で描かれた建築といえば、私は第一にゴダールの「軽蔑」の舞台となった、イタリア・カプリ島に建つVilla Malaparteを思い出す。

この事は、本ブログでも取り上げた事がある。

ヴィラ・マラパルテ -1 / Adalberto Libera

最近、又 ゴダールの映画を観直している。若い時以来だから半世紀ぶりくらいにゴダールの世界に触れている。最近は古い作品なのでDVDも一本1000円ぐらいで買えるので、少しコレクションしようかなと思う。

「よくわかる!公共建築の長寿命化vol.1,vol.2,vol.3」企画・執筆 天神良久

東洋大学客員教授の天神良久先生の三部作

天神先生は、工学部とか建築学部で教えているのではなく東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻とのこと。

2013年に国が「インフラ長寿命化基本計画」を策定し、総務省が自治体に「公共施設等総額管理計画」の策定を発令した。各自治体での対策の主要な柱は、「延床面積の総量圧縮」「長寿命化」「財源確保」「広域連携」を揚げている。

本書では建物の「長寿命化」とは、60年の建て替え周期を80年~100年間利用する施策だと記載してある。それには個別具体的に耐用年数を評価することが必要で、それともうひとつは遵法性調査であり、計画のファーストステップは、この二つを同時並行的に進めるべきだと私は思っている。

最近都内の地方自治体が策定した学校施設の「長寿命化計画」を見ていたところ、老朽化対策の検討に当たって「日本建築学会が示す鉄筋コンクリート造の物理的耐用年数60年を参考とし、おおむね築60年から築65年を目安に学校施設の老朽化対策を実施する」と記載してあり、結局のところ60年から65年程度で改築するという方向性に持っていっている。なんとも教科書的な方針だと思った。こりゃ施設参謀が頭でっかちではないかと・・・

さて この三冊の本には、主として公共施設の長寿命化例が豊富に紹介されている。既に旧知の事例も多いのだが、VFM分析の視点からのアプローチなので参考になる。

なんといっても建物の長寿命化の利点は経済合理性だ。

既存建物を解体し新築する(改築)するときの再建築価格(設計監理費、工事費、解体処分費等)と長寿命計画による大規模改修コストを比較して何割程度で出来るのかどうかが問題で、その割合が小さいほどVFMが高いと判断できる。

リノベーションとかリフォームとか部分的なものではない総合的視点に立つ「長寿命化計画」が、これからは求められているのだろう。

「鉄筋コンクリート造建物の耐久設計と診断・改修」依田彰彦著

2008年に出版された足利工業大学名誉教授の依田彰彦先生の本。

A5・100頁程の薄い本だが、実験に基づく研究に裏打ちされた中身の濃い本。

RC造の耐久性について調べていて古本屋ネットで400円で購入したが「儲かった」という感じがした。状態はほとんど新品だった。

 この本の中に「既存RC造躯体コンクリートの残存耐用年数等の予測」という章があり、別章に記載のある「中性化速度式」を用いた残存耐用年数の計算式が記載されている。「躯体コンクリートの屋外側、および屋内側水廻り部分(浴室、厨房、洗面所等)の半数が、鉄筋表面の位置までコンクリートが中性化した時点を耐用年数とする。」「また、屋内水廻り部分以外は半数が鉄筋裏面の位置までコンクリートが中性化した時点とする」と記載されている。耐用年数を把握した上で的確な補修・改修の必要性を強調し、その方法が例示されている。

 こうした先人達の地道な基礎研究が時代を超えて役立つのだと、改めて思った。

 最近知ったRC造の中性化を改善する方法として、1970年代にノルウェーで開発され、主として北米や欧州で使われ始め、日本では1992年に導入された、アルカリ性を再付与する電気化学的補修工法があると知った。

 コンクリート表面に陽極となるアルカリ性電解質を含む外部電極を仮設し、コンクリート中の鉄筋を陰極として直流電流を一定期間流すことで再生する方法。

 日本でも土木を始めたとした社会的インフラで実績があり効果は抜群だと聞いたが、工事費はとても高いらしい。

 人間の病気の治療と同じで、設計者は臨床医だから診断と治療はセットで考えないといけない。保険適用外の高額な医薬品や治療法を使えるかどうかは、クライアントの懐しだい。

「工務店の日報」福田雄一著

工務店の日常を綴った「現場あるある本」(漫画)

妻が書店で見つけて、読んでから私に回ってきた

妻は、比較的大きな本屋さんを隅々まで回って本を買ってくる。

好奇心の固まりのような人だから、色々なジャンルの本を読んでいる。

他方、私は最近は書店歩きはしない。

読んだ本で参照・引用された本や、各種書評欄等で紹介された本を

もっぱらアマゾンで買ってしまい、

これから読む本がいつも積みあがっている。

読書家だけど本屋さんの敵

さて この漫画のこと

建築現場を多少なりとも知っている人ならくすっと笑ってしまう

もともとツイッターやインスタグラムで評判になっていたそうだ

工務店の日報(@KOBA_co_osaka)さん / Twitter

「キツチン革命」第一夜

3月25日放映の「キツチン革命」第一夜を観た。

と言っても深夜TVerで観たのだが

とても面白く、元気をもらつた。

第一夜は、計量カップ・計量スプーン、四群点数法を考案し、日本の栄養学の発展と普及に尽くした、香川栄養学園(女子栄養大学・短期大学・香川栄養専門学校)の創設者である故 香川綾がモデル。

香川綾先生は、まさしくイノベーターだと思った。

我が家の本箱にある妻の蔵書「香川綾の歩んだ道・現代に生きる実践栄養学」を以前読んだことがある。

我が家の主食は、女子栄養大学から買っている「胚芽米」だ。

第二夜は、建築家・浜口ミホがモデル。

楽しみだ

「朽ちるマンション老いる住民」朝日新聞取材班

ここで書かれているのは分譲マンションの「老い」の問題である。現実を突きつけられると、何だか廃墟マンションが林立する荒涼たる都市のイメージしか思い浮かばなくなる。

分譲マンションの世界から足を洗って15年以上経過するが、経済合理性だけの新築重視は相変わらず続けられている。持ち家・持ち家と幻想をふりまく市場。

住宅が余っている一方で、住宅に困っている人達がいる。高齢者、独居老人、シングルマザー、障害者等の所得が低い人や入居差別を受ける人を公的に支援する仕組みは未だない。

日本には、アメリカのアフォーダブル住宅のような家賃補助制度もない。市場任せではない住宅政策の転換点にあるのだと思った。

そういえば若い時に秀和レジデンスに住むことに憧れた時期があった。青い屋根と白いうろこの外観にホテルライクな贅沢なエントランス。今では所謂ヴィンテージマンションなのだが、たしか秀和レジデンスの初期のものは、築60年近くになっているのではないだろうか。リノベーションするにも制約が多い、お風呂は追い焚き機能付きとかユニットバスに出来ない、銀行融資が難しく投資向きではないと聞いたことがある。

鉄筋コンクリート造の法定耐用年数は47年なのだが、デューデリのエンジニアリングレポートで使う推定耐用年数は、比較的状態が良いもので60年。実際は詳細に調査をすれば実質耐用年数を工学的に評価することはできる。最近は中古物件の売買に関係して耐用年数を聞いてくる人が増えている。多分金融機関が借入期間に見合った耐用年数のエビデンスを求めるからだろう。

器も大事なのだが設備の更新性とか管理体制、修繕記録が大事なのだが・・・

まあ日本の住宅を巡る問題は、糸がねじれて絡み合って複雑すぎて容易ではない課題を残している。

「徳川家康 弱者の戦略」磯田道史著

昨年来からの9ヶ月にわたるプロジェクトがようやく終わり、少しリフレクションに充てる時間が出来そうだ。

「リフレクション」とは省察・内省という意味でビジネス界や教育現場で注目されている。即ち実践を振り返り教訓を導き出すこと。これまでに、このリフレクションをきちんとやっていれば自分の人生も少し変わったかもしれない。

さてNHK大河ドラマ「どうする家康」が放映されている関係で書店には家康・徳川の本がたくさん並んでいる。その中から磯田さんの「徳川家康 弱者の戦略」を読んでみた。

徳川家康は、最初から天下を目指していたわけではない。戦国一の激戦地と言われている三河の弱小大名の子として生まれ、頼みの今川義元はまさかの戦死。織田信長とは同盟関係だけど酷使され、最強信玄軍団に攻められ、秀吉には関東に追いやられと、本当に厳しい選択の連続だったということがわかった。それが何故、どうやって天下を手に入れることが出来たのか。その「弱者の戦略」を学ぶことが出来る本になっている。

磯田さんは「パブリック・ヒストリー」(生きるみんなのための歴史)・人生の参考書としての歴史書を目指していると書いているけれど、この本は経営書でもあり戦略論でもあり多いに示唆に富む内容だった。

この本の中で書かれいるキーワード「弱者の自覚」「力の支配とその限界」「共進化」「ライバル達から何を学ぶか」に注目した。

本の腰巻に「大河より面白い!」とあるけど、そのことに偽りなし

「世界で一番美しい・名作住宅の解剖図鑑」増補改訂版 中山繁信他著

もともとは2014年に出版されていた本だが、増補改訂版が2022年12月に出版された。

写真ではなくイラストで近代住宅の遺産を解剖して見せ、中山繁信さんしか出来ない本に仕上がっている。本屋の店頭にあったので、懐かしくも楽しみながら読むことが出来た。

ライト、コルビュジエ、ミース、イームズ、アアルト、カーン、バラガン、ムーア、フラー、アスプルンドほか巨匠たちが残した住宅遺産を厳選して集録している。

イラストで解説することで写真では写すことができない屋根をはがした状態で上から覗いてみたり、建物を輪切りにして上下階のつながりを確認したりできることで深く理解できる。

日本や世界中にある巨匠建築家による名作住宅はもちろんのこと古代から現代までの日本住宅の潮流、世界中にある地域に根ざした環境共生建築の仕組までもわかるようになっている。

住宅建築の入門書のようにも思うが、巨匠たちの作品を通じて近代住宅の歴史振り返ってみると中々味わい深い。

「澤野工房物語」

昨年からsawanoのジャズに嵌まっている

大阪新世界の下駄屋の4代目が始めたジャズレーベル

その「hand-made JAZZ 澤野工房」の物語

澤野工房との出会いは、YouTubeで聞いた一曲から

ロベルト・オルサー・トリオのCELESTE(チェレステ)の中の最初の曲

Deliverance

なんて美しく清らかな音なんだろう。こんなジャズがあったのか

それから澤野のJAZZを買い求め聞いている

今や朝のまどろみの中で聞く音楽も仕事のBGMも「澤野」だ。

澤野工房のビジネスモデルには、共感できることが多い

「これからの時代、最大公約数的な商品ってあり得ないと思うんです。みんながみんな同じ方向を向くことは絶対ないのだから、こちらを向いてくれる人だけはきっちり届けなければいけない。うちにしかない商品を提供し続けなければいけない」これは同感。うちにしかできない事、他の設計者が苦手の事を仕事としている。

会社の規模は「2018年現在の澤野工房は僕と嫁さんと長女という最小限の人数」「できるだけ小さくありたい」。これも基本的な構成はうちと同じ。社員雇って大規模にやれば良いではないかと言われる。結構スケジュールが合わなくて仕事を断ることが多いからだと思うけど、スタッフを多くすると給料を稼ぐために働くようになり、自分達の好きなことが出来なくなる。小さい方がフットワークが軽いし時々チャレンジができる。部署が分かれていないので意思疎通が楽。こうしたところもかなり同じで共感できる。

そんな澤野工房物語を手引きにして、今日も新しいミュージシャンのCDを注文する。

「近畿建築行政会議 建築基準法 共通取扱い集2022(第2版)」近畿建築行政会議

2023年正月に注文し最初に読んだ本。

昨年2022年12月15日に発行された「近畿建築行政会議 建築基準法 共通取扱い集」2022(第2版)。

2014年(平成26年)5月に、この本の意匠分野が発行され、2016年(平成28年)に構造・設備分野の取扱いが発表された。そして今回、近畿建築行政会議が主体となり近畿建築確認検査協会と連携し編集委員として参画してもらい発刊に至ったと記載されている。

近畿圏内では府県市単位で発行している取扱い集等があるが、内容が重複する場合又は差がある場合等は原則としてこの本が優先する。

この取扱い集は「改訂項目一覧表」が記載されていて、第1版からの改訂がないもの、内容が改訂された項目、条項ずれや文書等を整理した項目、新規の項目、削除した項目が判るのが読者目線だと思うし第1版から第2版の差分が判るのは、とても使いやすい。

誰かが言ったが法律は「生もの」である。法の改正や取扱いが変われば、その時点で旧来の解説書の類は役に立たなくなる。変化に対応するスピードが必要で、近畿圏という多くの都道府県の特定行政庁と確認検査機関から意見を集め、内容を整理し発行に至るのは、相当のリーダーシップが必要ではないかと推測する。

新規の項目で目に留まったのは、「吹抜けを介した採光」の規定、「増築に該当しない項目」「屋根の修繕の取扱い」「排煙方式が異なる異種排煙の区画」「給水管等が防火区画を構成する床・壁と一体となる柱・はりを貫通する場合の取扱い」「法第86条の7第1項による増築又は改築を行う場合の既存エレベーターに遡及適用される規定」等が気になって注意深く読ませてもらった。

設計者にとって法律は「武器」である。日々鍛錬にいそしむ年にしたいと思う。

「エンドウ・アソシエイツのデザイン/エンドウ・アソシエイツの物語」

12月の中旬、事務所協会の会議の後に、株式会社エンドウ・アソシエイツの加藤社長から頂戴した「エンドウ・アソシエイツのデザイン/エンドウ・アソシエイツの物語」(70年社史)をようやく読み終えた。

加藤社長とは、メール・電話・ZOOMで継続的に交流はあるのだが、リアルに会うのはコロナ禍前だから3年振りぐらいだった。

私が審査機関に勤めていた頃、エンドウ・アソシエイツの元気なスタッフが相談に来ていて、それから加藤社長とも交流が始まった。歳は私より 少し上で兄貴分にあたる。何しろ精力的に活動されている。長く東京都建築士事務所協会の理事を務め、現在も事務所協会の幾つものワーキンググループに加わっている。しかも所員15名程をひきいる設計事務所の社長であり、自分でもCADやADSを使いこなし、建築のボリューム検討はこなすそうだ。「経営者と設計者の二足のわらじ」と言われていたが、中規模事務所の所長ともなれば営業に専念し実務から遠ざかる人も多いが、加藤社長はとにかく実務に詳しい。法令の勉強も時間をかけて勉強しているのが、会議の発言などから解る。

さて株式会社エンドウ・アソシエイツの、創業者である圓堂政嘉(えんどうまさちか、1920年 – 1994年)は、 元日本建築家協会 会長(1982-1986)。 1966年に山口銀行本店で日本建築学会賞・作品賞を受賞しており、手堅い設計で、当時若い人達からは垂涎の的 (すいぜんのまと)の設計事務所だった。

その圓堂建築設計事務所の個人事務所の頃から70年。この冊子であらためて時代を振り返ることができた。この社史からはエンドウ・アソシエイツは建築事務所の王道を歩いてきたように感じた。時代に順応し、自分自身を変えて生き残ってきた設計事務所の歴史を知ることができた。

また、圓堂建築事務所からのDNAを未来に繋げたいという強いメッセージを受けた。

非売品の冊子にしておくのは勿体ない本だ。

「日本史を暴く」磯田道史著

地方巡業の旅で電車での移動が増えたので、合間に少し本を読めるようになった。まぁ大概は寝てるのだが・・

上野駅の本屋さんで見つけて買った「日本史を暴く・戦国の怪物から幕末の闇まで」磯田道史著を読んだ。

帯にある「歴史には裏がある。歴史には闇がある」はインパクトのあるコピーだ。

磯田さんは「毎日、私が古文書のホコリと闘いながら、まことにアナログな手法で、自分で一つずつ集め、日本史のある面を暴いていったものである」と書く。その現場主義、一次資料を確認する研究姿勢が好きだ。

私も既存建物の調査で、いつまで現場主義を貫くのかと聞かれる。現場調査は若い人に任せ、報告書だけまとめれば良いのではないか。報告書を検証する立場でも良いのではないかと言われる。しかし現場に出向かないとわからない空気感がある。同じ年月を経過した建物でもメンテナンスがちゃんと行われているかどうかで、こうも違うのかという事を知ることができた。同じ建物でも地域の管理者の姿勢も違う。紙になった報告書ではわからない別世界の魅力みたいなものに取りつかれている。

流石に10万㎡とかの規模だと体力的に自信は無くなったが、1万㎡以下ならまだ大丈夫なようだ。夏の40度の時期から、気温数度の季節になったが、あの夏の時期に現場調査を行ったので今の寒さぐらいは快適でもある。

さて 磯田さんの本の事に戻そう。

都合の悪い事は古来より文書に残らないもののようだが、奇跡的に文書が残っている事があるそうだ。例えば1811年(文化八年)に奈良県の薬種商が書き残した「関東一見道中記」には、珍しく道中の「女郎」に関する価格と出費、品定めが詳しく書かれているそうだ。それによると大体の相場は六百文・現在の価格で約3万円だったらしい。

聞くところによる新宿大久保公園に立つ女性の相場がホテル代別で2万前後と聞くから、今も昔も相場は変わらないのかも知れない。

江戸後期の庶民の旅費は一日当たり四百文。当時の一文は米価格なら現在の約10円、労賃価格で約50円なので、旅費は一日2万円。これも旅費・宿泊費を含めれば 今とさほど変わらないのかもしれない。

まあ、こんな感じで様々な歴史の裏と闇が暴かれていくのは痛快だ。

「台湾のトリセツ」執筆・撮影 片倉佳史

地域特有の地勢・地形、歴史、交通、文化、産業等のジャンルからトリビアを深掘りしていく「トリセツシリーズ」

この本は、デジタル産業を中心に近年目覚ましい経済発展を遂げている台湾を紹介している。

片倉佳史さんの台湾紹介本は幾っか持っているが、この本は単なる観光ガイドブックではない。過去・現代・未来という時間軸の縦糸と風土が織りなす横糸が重なりあう、読み応えのあるガイドブックに仕上がっていると感じた。

日本とは地理的にも歴史的にも身近な存在である台湾。過去に深くかかわった人達の事も紹介されている。台湾産紅茶の発展に寄与した新井耕吉郎さん。鳥山頭ダム等の水利事業に関わった台湾総督府の土木技師・八田興一さん。日本統治時代から現代まで数えきれないほどの人達がいる。

三年前仕事で台湾に行くところだったがコロナで中断。色々な台湾に関する本を読み、心の準備は出来ているのだが、観光であっても中々台湾には行けないでいる。

「詳解・建築基準法(改訂版)」

「詳解・建築基準法(改訂版)」は、1991年に出版された本で、もう31年前の法令解説書です。

この本は、現在は絶版となっていますし、最近の改正条文が反映されているわけではありませんが,この本に書かれている内容は運用が定着してます。役所に相談に行くと時々担当者がこの本を引用したりします。

最近編集中の法令解説書の議論の中で、この絶版となっている書籍からの引用は読者に親切なのかどうか疑問を呈した事がありました。それほど価値ある本なのか?という疑問が生じたのですが、まずは再読してみようと思いました。

実は、この本は会社にあるものを昔パラパラと読んだくらいで、自分では所有していなかつたので、古本屋さんのネットワークで購入しました。

10数年ぶりに読み返してみると、これが実に内容が濃い本なのです。

建築基準法関係法令を項目ごとに分類整理した上で、編集したものであり、単なる逐条解説とは異なり、これらを総合的かつ体系的に理解できるよう構成されている点が秀でています。

法令改正時にその改正の意図等は、改正説明会で国交省から解説がされるのですが、年月が経つと明文化された法令のみが歩き始め、その背後に隠れている意図を見失いがちになります。この本を読み直してみると建築基準法令の神髄が伝わってきます。

この本が、建築行政にかかわる人たちの間で広く運用が定着している訳がわかりました。

建築法令解説本の中では、不朽の名著のひとつかも知れません。

「建築申請に役立つ技術的助言ガイドブック」

2019年に新日本法規から出版された本です。

国土交通省から発出された建築基準法の技術的助言には、建築設計を始めとした関係業務を行う上で、法を適正に判断をする上で参考となる情報が多く含まれています。いわば建築法務を行う上で技術的助言は「宝の山」ともいえます。

建築行政情報センターの個人会員になると法令データーサービスの利用ができ、法・令・規則・通達等の検索はできるのですが、半デジタル・半アナログ世代の自分でも、相当に目的が明確でないと、あまりに情報が多すぎて必要な情報に、すぐたどり着けない事があります。

この本のわかりやすさは、技術的助言を「基準総則」「防火・避難」「集団規定」「構造規定」の4つのテーマに分類した上、さらに関係する建築基準法の条数ごとに整理していることです。

実際 よく利用するする技術的助言を精選して掲載しているので、データーベースと違い不要な情報はカツトされているから「わかりやすい」のだと思います。

私は、法令データーベースとの中間的な位置付で利用しています。

編集者の建築申請実務研究会は、かの「建築申請memo」の編集者でもあり、この本への参照表記を「建築申請memo2020」から行っています。

「ジブリの立体建造物展・図録<復刻版>」

監修は藤森照信さん、コンセプト・デザイナーは種田陽平さん。

ジブリの作品に描かれる建物には、何故か懐かしさを感じる

所謂建築家が設計したような建物は出てこない

それが皮肉と言えば皮肉で、

建築家は、こうした建物は設計できないのかも知れない

宮崎駿さんと藤森照信さんの対談が興味深い

この本を時々見直すと「ホット」する

「建築技術・2022年3月号」

5月の下旬に岡山県西粟倉村に視察に行き、あわくら会館を含めた地域の林業の取組みや地域エネルギーについて勉強して来た。そのことをまとめて整理しておきたいと思っているのだが、西粟倉村の視察に刺激されて読み始めた本が多いため中々記録を残すことができないでいる。

この「建築技術」2022年3月号も特集は「多層木造建築物の現状整理」となっているが、表紙にもあるように巻頭の特集はあわくら会館。

現物を見てきてから、この本を買い求め詳しく読んでいる。

とりわけ山田憲明さんが書いている「構造計画」はより深く理解するのに役立つ。視察でもアルセッド建築研究所の小口さんから説明を受けていたが、改めて図面を見ながら構造計画の部分を読むと、平面・構造・防耐火構造の苦労がわかる。

一般木造と耐火構造の棟を交互に並べ、それぞれを1000㎡以下に分節し合計7つの棟が構造的に独立している。またサスペントラス構造のヒントはロベール・マイヤール設計のキアッソの税関倉庫(1925年)と知った。

その他、「木材供給体制」「地域の森林経営と計画施業」「素材生産の現場から」「地域の木材流通と木材調達」「百年の森林構想とあわくら会館」と詳しい原稿が当事者から寄せられている。

「建築雑誌・3月号」は読み応えあり。

「食エネ自給のまちづくり」小山田大和著

耕作しながら太陽光発電する「ソーラーシェアリング」に取り組む小田原市の社会起業家・小山田大和さんの20年わたる実践の書で2022年3月に出版された。

ソーラーシェアリングというのは、太陽の光を発電と農業で分けるシェアすることから名づけられているが、一般的な日本語では「営農型太陽光発電」と言われている。

単に太陽光発電をするというのではなく、日本の農業をどう再生していくのか、地域の活性化・再生という観点に立たれている。

日本の農業が抱えている後継者不足、耕作放棄地の問題、鳥獣害等の問題をどう解決していくのかソーラーシェリングの実践はその解決の糸口を秘めている。

また幅広い活動をされているが、故郷の環境を守るとともに、地域の復活、地産地消の地域循環型経済による元気なまちづくりを目指していることは一貫している。

今や東京ではカロリーベースで食料自給率0%。神奈川県では2%しかない。日本全体で38%。ちなみにフランスは122%。イタリアは62%。

食べ物はなくならない。お金を出しさえすれば買って来れると思っている人は多いが。東京大学大学院教授の鈴木宣弘教授が「農業消滅・農政の失敗がまねく国家存亡の危機」(平凡社新書)で書かれるいるように「食料の確保は、軍事・エネルギーと並ぶ安全保障の要」であるはずなのに そういう危機感を抱いている人は多くはない。

小山田さんの会社の名前は「かなごてファーム」というのだけど、「かなごて」というのは、御殿場線の神奈川にある駅の総称の事で、つまり一つの自治体ではなく領域でとらえられている処。テリトーリオで問題の解決を図っていこうという姿勢に共感を覚えた。

「テリトーリオ」とは、長く法政大学の建築学科で教えられていた陣内秀信さんが「都市とその周辺の田園・農村がつながる経済的・文化的なアイデンティを持つ、こうしたまとまりのある地域」と定義づけられたが、流域圏=経済圏で問題の解決を図っていこうという取り組みである。

全国各地を歩いてみると日本の地方のポンテシャルはまだまだ残っていて、若い人達が地方再生の為に汗をかいているところも増えてきたと感じる。

もうひとつ、小山田さんの根底には、小田原出身の二宮尊徳の「推攘の精神」に裏打ちされていることに感心した。「どんな人にも必ず能力=「徳」がある。その「徳」を今の自分のためだけに使うのではなく、将来の自分の為に磨き、社会の為に使っていくべきである」。

二宮尊徳が実践した思想は、協同組合思想と言って良く、至誠、勤労、分度、推譲を実践し地域の皆が幸せになる健全で活力あるまちづくりに取り組んでいることだ。小山田さんは1979年生まれと若く、今後一層の活躍に期待したい。