ICBAイブニングセミナー2012 ・第3回「住宅・建築分野の訴訟事例」

8月17日、財団法人 建築行政情報センターのセミナー、イブニングセミナー2012 ・第3回「住宅・建築分野の訴訟事例」に参加してきた。

今日のセミナーの講師は、TMI総合法律事務所の富田裕弁護士。この方一級建築士でもあり、審査請求事案では有名な弁護士さん。私はこの方とは審査請求では対峙したことがないが指定確認検査機関の経営陣には煙たがれている存在らしい。

今日のセミナーは、三部構成になっていて、

  • 第一部: 建築確認取消、失効の事例・建築確認取消の事例
  • 第二部:設計が遅れたとして解除・予算オーバーを理由に解除
  • 第三部:指示と違う事を理由に解除・施主都合の解除
  • 消費者契約法に注意
  • 地震と宅地の売主の責任

講義45分、質疑30分だったが、講義の時間が全然短かった。

当然ながら私の関心事は、第一部で、ひとつはスキップフロアー型住宅のロフトの床面積不算入のケース。行政は利用階の1/2と考え、指定確認検査機関は直下階の1/2と考えた。この全体がスキップフロアーで構成された連続的空間の場合は、建築基準法の取扱いは難しい。ロフトの問題だけでなく、採光・換気・排煙などの領域設定は悩むところだ。しかし指定確認検査機関には裁量権(解釈権)は、ないのだから、ここは特定行政庁と事前の打合せが必要だったのだろう。

もう一つ 埼玉県草加市における建築確認取消の事例で、共同住宅の外廊下部分に玄関ポーチに門扉のようものを設置した場合 その領域は共用部分の容積緩和対象面積として認めないとして審査会が裁決し、確認が取り消された事例。

これも中々判断が分かれるケースだが、個人的には共用部分とはみれないのではないかと思うが、東京と埼玉県草加市では意見が異なるように思える。

共同住宅の共用廊下に玄関ポーチのような領域を設定するのは、確認申請時点の設計図書には記載されていないことが多く、完了検査の時点で注意が必要かもしれない。

トラブルを回避する方法として富田弁護士は、

  1. 特定行政庁に申請したほうが安全ではないか
  2. 確認機関の意見を聞くだけでなく特定行政庁に照会する。その際担当者名、回答内容などちゃんと記録しておく
  3. 確認機関がよいといったからよいと考えるのではなく、自分で基準法を読んで納得できるか?
  4. 特定行政庁の取扱基準をしっかり読む

と提案しているが、

1)は、首都圏で85%以上、大阪府では95%以上が指定確認検査機関に確認申請が提出されている現状で、「特定行政庁に申請したほうが安全ではないか?」という事だと、指定確認検査機関の存在否定になるし、指定確認検査機関ができる前に戻せと言っているように聞こえてしまう。現状での提案としては、何の解決策にもならないのではないか?

2)行政の担当者の意見は、主事判断とはならない。勿論 誰と打合せしたかの議事録は確かに大切。設計者と指定確認検査機関の身を守る為にも。

ここで法第77条の32について書くと、「指定確認検査機関は、確認検査の適正な実施のために必要な事項にについて、特定行政庁に照会することができる」ということになっているが、この正式な「照会」はすこぶる時間がかかり、実際のプロジェクトの進行上は時間的制約があるので難しい。正式文書の「照会」は、行政に嫌がられる。

3)これは大事 設計者は専門家・一級建築士として判断してほしい。

4)取扱基準を発表しているのは ごくわずかの特定行政庁だけ。東京都で言えば世田谷区、江戸川区、荒川区だけだと思う。結局 直接 特定行政庁に照会するしかない。

とりあえず東京都は、神奈川県・埼玉県・茨城県等のように統一の取扱基準を示してもらいたいものだ。

もともとつぎはぎだらけで、時代に後追いとなる建築基準法の運用では、「確認」であろうと指定確認検査機関に、裁量権を認めないとというのは現実には無理があるのではないか。

特定行政庁と指定確認検査機関のダブルスタンダード状態は解決していない。

今回の様な確認取消し事例が増えていくと指定確認検査機関の法的位置そのものが危うくなるように思う。