小屋裏物置の法改正履歴

元々

国土交通省(旧建設省)の通達(昭和32住指発第461号)による「普通の構造の小屋裏の一部を利用し、季節的に不要な物等を置く設備を設けたものと認められる程度のもの等は、通常階数に算入されない。」というのが基本的な考え方のベースにあります。

住宅の小屋裏物置に関する規定条文は、建築基準法施行令第2条第1項第八号です。

この規定は、昭和50年に改正されて現在も有効です。

「八  階数 昇降機塔、装飾塔、物見塔その他これらに類する建築物の屋上部分又は地階の倉庫、機械室その他これらに類する建築物の部分で、水平投影面積の合計がそれぞれ当該建築物の建築面積の8分の1以下のものは、当該建築物の階数に算入しない。また、建築物の一部が吹抜きとなつている場合、建築物の敷地が斜面又は段地である場合その他建築物の部分によつて階数を異にする場合においては、これらの階数のうち最大なものによる。(昭和50年4月1日 – 現在有効)」

昭和55年に「小屋裏利用の物置の取扱いについて(昭和55年2月7日住指発第24号)」が発出されて 以下のことが記載されています。


昭和55年2月7日


建設省住宅局建築指導課長・建設省住宅局市街地建築課長から特定行政庁あて通知
 標記については、すでに「昭和32年6月1日付け住指受第461号徳島県土木部建築課長あて」例規が示されているが、最近この種の形態を有する住宅の建築が増加しつつあることにかんがみ、その取り扱いの統一を図るため、今後は左記により取り扱われたい。

          記

 住宅の小屋裏部分を利用して設ける物置(以下「小屋裏物置」という。)で、次の各号に該当するものについては、建築基準法の規定の適用に当たつては、階とみなさないこととする。
一 小屋裏物置の部分の水平投影面積は、直下の階の床面積の1/8以下であること。
二 小屋裏物置の天井の最高の高さは、1.4m以下であること。
三 物の出し入れのために利用するはしご等は、固定式のものとしないこと。

(昭和55年2月7日)


さらに平成12年に「建築基準法の一部を改正する法律の施行について(平成12年6月1日住指発第682号)」が発出されており、この中の第5項(2)に下記の事が記載されており、この時に1/8から現在の1/2に取扱いが変わりました。

「(2) 木造建築物の耐震壁の配置規定の整備(令第46条並びに告示第1351号及び第1352号関係)
 木造の建築物については、基準の明確化を図る観点から、木造建築物の耐震壁の配置の方法に関して建設大臣が定める基準によらなければならないこととした。建設大臣が定める基準においては、建築物の部分ごとの耐震壁量の割合等を定めた。
 また、小屋裏、天井裏その他これらに類する部分に物置等がある場合において、当該物置等の最高の内法高さが1.4メートル以下で、かつ、その水平投影面積がその存する部分の床面積の2分の1未満であれば、当該部分については階として取り扱う必要はないものであるが、近年このような物置等を設置する事例が増加してきていることを踏まえ、軸組等の規定を整備した。なお、構造計算が必要となる場合においては、令第85条の規定に基づき当該部分の積載の実況を反映させて積載荷重を計算することが必要である。」

注意しなければならないのは、小屋裏収納の面積が、その存する階の床面積の1/8を超えた場合は、軸組計算に面積を加算しなければいけないという事です。

 固定式階段の有無については、昭和55年当時は、固定梯子も不可とする取扱いでしたが、現在は「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例(2022年度版)」に小規模な階段に関する記述があり、「小屋裏物置等への専用の階段は、法第2条第5号に規定する「局部的な小階段」に該当する」とあり、一般的に固定階段を認める取扱いとなっています。しかし階段設置を不可としている特定行政庁もあります。

法令の規定を変更しないで通達類で取扱いを変更してきているので、法令集も法文・施行令の規定・告示を拾い読みしただけでは解りづらいです。

大規模庇の建築面積緩和

2023年(令和5年)4月1日より、建物用途限定で大規模庇の建築面積が緩和される。

令和5年国土交通省告示第143号

対象は「工場又は倉庫」で「貨物の積卸し等の業務」。建物の一部に当該用途があっても適用。

柱で支える形式の軒は不可。

緩和されるのは建築面積のみ。

建築面積哀歌(エレジー)

 

 

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建築面積にまつわる話し

一番上は、三方が壁に囲まれている(両袖壁)バルコニーの場合は、建築面積に算入する。日本建築行政会議編の「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例」(2013年度版・49頁)等で示されている取扱い基準。この場合袖壁の長さに関係なく「黄色」部分は建築面積に算入する。

中段は、片袖壁で構造的に片持ちスラブとなっており、はね出しで「軒、ひさし、はねだし縁その他これらに類するもの」として取り扱えれるので、建築面積には算入しない。

上二段については、昨今ではかなり一般的な取扱いかと思う。

さて問題は下段。

両袖壁があるバルコニーだが、右側袖壁との間に数センチの床スリットをもうけているので、「物理的にはねだしとなっているので、建築面積には算入しない」「否、水平投影面積が基本なのだから算入するべき」と意見が分かれているケース。

とある指定確認検査機関が「建築面積には算入しない」として「確認」した案件で とある都内の建築審査会が「認容」した取扱いなのだが、私が都内の他の指定確認検査機関や特別区建築指導課にヒアリングしてみたところ意見が分かれた。結局のところ「建築主事判断」ということになるようだ。

この案件の建築審査請求は、下段の判断等を含めて特別区の建築審査請求で棄却され、現在国交省に再審査請求を提出中と聞く。

上記(下段)のバルコニーを建築面積非算入にすると、1割ぐらい 建ぺい率は稼げるのだが、これでは都市計画による規制そのものがなしくずしになる恐れもある。

もともと「建ぺい率」とは、建築物の建築面積の敷地面積に対する割合のことで、その上限を定めることにより敷地内に適当な空地を確保し、採光・通風等を満足させ、防災上の安全を確保しようとするもの。ちなみに「容積率」とは、建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合のことで、その上限を用途地域毎に定めることにより、街全体の環境や土地の高度利用を図ろうとするもの。

そして建築面積は、「建築物の外壁又はこれに代わる柱の中心線で囲まれた部分の水平投影面積」(建築基準法施行令第2条第1項第ニ号)であり「建築物が敷地をどの程度覆っているか」かの規定である。

「自分さえよければいい」は現代の風潮だが、建築主・建築業界の「私権」の為だけに、建築はあるわけでなく常に社会的存在であり、環境に配慮したものでなければならないのだと思う。

こんな脱法的で姑息な手法で建築基準法の精神が侵されているのを聞くと なんだか哀しくなる。

注記: 上記建物には屋根があります。