「感染症の日本史」磯田道史著

2020年。人類は新型コロナウイルス感染症の危機に直面している。現在も様々な情報に翻弄されながらも生きている。生きていくうえで 社会生活を維持していくうえで、どのような知恵を働かせるか。見えないもの、滅多にやってこないパンデミックに対応するには、総合的な知性が必要だと著者は語る。「総合的知性」からの発想がいる問題には、長く、幅広く、時間軸で物事を捉える歴史学が最も威力を発揮すると。

興味深かったのは、1858年ペリー艦隊のコレラに感染した乗組員が寄港した長崎でコレラが発生、8月には江戸に感染が拡大し3万人とも26万人とも言われる死者が出た。その後3年にわたって流行した。開国がコレラの感染を拡大したとして攘夷思想が高まる一因となったこと。

また孝明天皇の攘夷の意志は、1862年(文久二年)の麻疹(はしか)流行が大きな影響を与えていること。孝明天皇は観念的なものではなく、感染症を媒介として「異国は日本を害する」という現実に根差した認識を反映しているという指摘は興味深かった。確かに「感染症」という物差しにより日本史を見てみると新しい視点が広がる。

「歴史は単なる過去の記録ではありません。日常生活で生かすことのできる教訓の宝庫です」

主に歴史学・経済学・建築学の本を並行して読んでいるが、歴史の本は一気に読める。今更ながら道を誤ったかなと思う今日この頃。