「デザインサーヴェイ図集」伊藤杏里編著、中山繁信・最勝寺靖彦・笹原克・井上洋司共著

研究室に入室が許可され、この本に掲載された倉敷・海野宿の図面・ 集落実測調査の原図を見てぶつたまげた記憶が蘇ってきた。

私が伊藤研究室に入室が許可された頃、伊藤ていじは学長兼理事長の時期で、極めて忙しかった。前年に倉敷川畔の伝統的建造物保存地区関係の研究はほぼ終わっていて、助手の中山繁信さんは既に大学を去り、この本の共著者である最勝寺・笹原・井上の諸先輩は既に大学院も終了し伝説の人達だった。

伊藤研究室・515Aは、工学院大学新宿校舎の今は超高層ビル校舎に建て替える前の旧校舎にあり、許可願いを出せば泊まり込みが出来た。これらデザインサーヴェイの原図を見続けた日々。貧乏学生だったが好奇心は旺盛だつた。

「一に掃除、二に体力、三に忍耐」伊藤研究室のモットーが懐かしい。挨拶と掃除には厳しかった。

樹木の書き方、葉の表現、建物の陰影の付け方(陰影をハツチで4段階に描き分ける)等を知った。烏口は既に過去の文具でロットリングを使っていたが、輪郭線は0.5mm、表示線は0.3mm、ハッチングは0.1mmと使い分ける事等も知った。ロットリングの0.1mmは良く詰まり、貧乏学生には辛い出費だった。

伊藤研で見知ったドローイング技術で設計課題も作成するものだから、「伊藤研らしい図面表現になってきた」と冷かされたりもした。

今、こんな思い出を語ってもデジタル世代には、そんな50年前のアナログ図面と馬鹿にされるかもしれない。私から言わせるとCADだって もっと表現力豊かな図面は書けるはずだと言いたい。

数年前 古民家調査をしているという若い設計者に伊藤ていじの名前を出しても「知らない」と言われた。彼が勉強不足なのか、先生が忘れられた存在になったのか。ちょつと寂しかった。

この本がきっかけで、デザインサーヴェイや伊藤ていじが、もう一度光を浴びることがあればいいのだが。

編著者の伊藤杏里さんは、伊藤ていじの息子さん。私の学生時期には、東大を出て鹿島建設に入社したての頃だったと思う。この本で父親の事を語っていて、先生がアメリカから幼い息子に送った絵手紙を始めて見た。先生も父親だったんだ。

伊藤研究室は、どちらかというと歴史系の研究室だが、私の年度は卒業設計メダル組を多数輩出しデザイン系研究室を凌駕し面目躍如だつた。

「ナンバーワンをめざせ、さもなければオンリーワンになれ」

「今の流行に追従するのではなく、人のできないこと、やらないことに目をつけることだ」

なんだ、先生の教えを守って生きているぞ。

「孤独の愉しみ方・森の生活者ソローの叡智」ヘンリー・ディヴイッド・ソロー著

もう随分と前の本だが、時々この本を読み返す。

孤独が寂しいとかではなく。たぶん疲れた時

ひとりになって自分を見つめ直すとき、この本に書かれている言葉に目が行くが、

その時々で気になるフレーズが変わる。

「孤独には力がある」

「風向きが定まらないこの世で 生き抜く方法が一つある。すべてを簡素にしておくことだ」

「予定通りに進まないかもしれない。でも正しい目標があればいい。」

「弱者や少数派を守れない政府は、もはや政府とは呼ばない」

「なぜ貧しいのか。それは、家という常識にからめとられているからだ」

「仕事とは何かをやりとげるためにするものだ」

今日のシンプルライフの原典とも言われるこの本。150年もの間、アメリカで読み続けられてきただけのことはある。

「聲の形」(こえのかたち)

つい最近アニメーションを見て、続けてコミック(全7巻)を読んだ。

アニメーションは2016年に山田尚子監督で京都アニメーションが作成した大ヒット作で、これはNET FLEXで見た。

ヒットしていたころから5年も経ってから知り、とても感動した。

自分の経験から若い時も今も「つながりたいけどつながらない。伝えたいけど伝わらない」という経験は多い。多分普遍的なテーマなんだと思うが、つながったと思った時のほっこり感に年齢は関係ないものだろう。

「聲」という漢字が魅力的だ。

この「聲」という文字は「声」の旧字体(1945年までは使われていた)で、耳(みみ)と殸(けい)という2個以上の漢字が合成されて違う意味を持つ「会意文字」

聲のつく言葉として

「磬鍾」(けいしょう)とは、「磬」と寺の鐘楼に吊るされている鐘を意味する。

「磬声」(けいせい)は、「磬」を打ち鳴らして出す音のこと。

「編磬」(へんけい)は、磬を何枚も並べて作った楽器。

「磬折」(けいせつ)は、くの字の形状をした「磬」のように、体を曲げてお辞儀をする様子を表現した漢字。

「馨香」(けいこう)は遠方まで香りがすること

「馨聞」(けいぶん)は世間の批評が良いことを意味する。

「聲」の訓読みは「こえ、こわ」で、音読みは「しょう、せい」。もともと耳と石でできた打楽器「殸」を打って音を鳴らす意味。

「すごい平屋」

エクスナレッジが60軒以上の平屋住宅を徹底解剖し編集した本。

妻が面白いよと言って置いて行った。

以前から「終の住まいは、小さくても平屋の家」という希望を我が家のクライアントから聞いているので、またもや、さりげないプレッシャーかと思っていたが、パラパラとめくってみると中々面白い。

外部空間とのつながり、機能的な動線計画、コスト、温熱環境、耐震性や防犯性などカテゴリー別に整理されている。しかも実際に出来上がった住宅の写真やイラストが多いので、住まいを考えている消費者や建築のプロにも役立つ内容が豊富に書かれている。こうしたターゲッドユーザーの範囲の広い本は中々工夫がいるが、成功している本だと思う。

何しろ妻がこの本を見つけてきたのがヴィレッジバンガードだから。

これまで階層では平屋、2階建て、3階建て。形式的にはマンション、アパート、戸建て等異なる住まいで暮らしてきたが、確かに叶うなら平屋が一番だと思う。

『田根 剛 アーキオロジーからアーキテクチャーへ』

先月末「帝国ホテル 東京 新本館」のデザインアーキテクトに田根剛氏が選定されたが、この本は、その田根剛氏へのインタビュー本で2018年にTOTO出版から出版された。

サッカーから建築へ。夢と希望を携えて日本を飛び出し、いつしか建築家に。
記憶へのリサーチ、意味の探求、チームを率いること。今注目のまとである若手建築家・田根 剛氏の独占インタビュー。

建築家を志したきっかけから、「エストニア国立博物館」など話題のプロジェクトの背景、設計思想、そして未来への思いが、ジャーナリスト・瀧口範子氏のインタビューから率直に語られている。田根氏の人間像がひも解かれた本書は90頁ばかりの本ながら濃密な内容になっている。

田根剛氏の「弘前れんが倉庫美術館」。

見る前は、さほど期待していなかつたが、実際の空間を体験してみると「記憶の継承」というリノベーションの神髄を味わうことができた。

過去の部材の持つポテンシャルを引き出し、展開し、新しい意味付けをされている。とても42歳の作品とは思えない。

ヨーロッパを拠点に活動している人は、リノベーションは流石に上手だ。薄ぺらな保存修景等ではなく、まるで壮大な時間軸の中にいるようだ。

舗石の煉瓦の面取りの違いだけでこんなにも見え方、表現が異なるものかと学ぶことができた。また建築全体のディテールが非常にしっかりしている。

4代目の帝国ホテルには期待している。