「旧三井銀行小樽支店建造物調査報告書」

先人達が遺した手書きの図面の美しさには、いつも惚れ惚れしている

この表紙に使われている断面詳細とファサードの青図もそうだけど、報告書に掲載されている幾つもの元設計図には目を奪われる。

いま100年後の人達が目を留める図面を書いているのか。と自問自答

この建物は、鉄骨鉄筋コンクリート造で営業室吹抜けの天井(下弦材)と屋根(上弦材)の二重スラブは、コンクリートスラブと一体となったラチス梁(梁成6尺6寸)となっている事を知った。この構造はメラン式橋梁と同じ構造方法とある。復元図によると約14.544mのスパンであり、石膏繰型の大きな面積で重量のある天井を実現する為に採用されたものと思われる。このメラン式構造はあまり見たことが無かった。

全体として良くまとまっている報告書だとは思うが、やっぱり建築史家の視点のまとめ方だと思った。昔の自分ならこれで充分満足していただろうと思う。

この報告書には記載されない調査はあるようにも思うが、コンクリートの圧縮強度、中性化、塩化物イオン量、躯体の劣化状況等の建築病理学的視点の報告も盛り込んで欲しいと思った。

病理医という仕事に学ぶ

病理医は、病理診断をする医師で基本的な仕事として「病理解剖(部検)」「組織診断(生研及び手術材料)」「細胞診断」があるそうです。

以下「日本病理学会」サイトからの引用です。

病理解剖は病院で不幸にして亡くなられた患者さんの死因、病態解析、治療効果などを検証し、今後の医療に生かすことを目的に行います。
組織診断は内視鏡医がみつけた病変部から採取(生検といいます)した、小さい組織片を顕微鏡でみて診断したり、手術して切除された検体から臨床診断を確認したり、どの程度病気が進展しているかなどを検証する作業を行うことです。手術中の短時間に病理診断を下して、手術方針を決めるのに役立つ「術中迅速診断」も病理医の重要な業務です。
細胞診断は婦人科医が子宮粘膜表面から細胞を採取したり、外科医が乳腺など体表に近い病変部から注射器で針を刺して細胞を採取して検査することです。細胞診断は細胞検査士という日本臨床細胞学会が認定した資格をもつ専門技師と共同で診断します。病理医は病理診断に迷うこともあります。その時はこれが自分や自分の家族だったらどう診断するかと思いをめぐらせることで、答えが自ずと見えてくることがあります。もちろん、難解で自分の手に負えないと思えば臓器別専門の病理医に標本を送ってアドバイスを請うことも少なくありません。これをコンサルテーションシステムとよび、日本病理学会の重要な業務の一つとなっています。
この3大業務以外にも臨床各科と合同で解剖例や手術例についてカンファレンスを行ったり、院内医療安全検討会のメンバーとなって病理の立場から意見を述べたりすることもあります。最近は主治医の立ち会いのもとで、病理医が患者さんに写真や図を示しながら病理診断の説明を行う病理外来を実施する施設も見られるようになってきました。また、蓄積された病理データを使って臨床研究も積極的に行っています。」
「病理医のつよみは、何と言っても、『病気の総合的判断が可能な医師である』点です。その理由として、全科の検体を扱っていること、剖検による全身の病態診断に慣れていること、病理総論的見方を訓練されているために全身の臓器に共通した病変の概念を理解していることなどがあげられます。言い換えれば、病気を正常からの逸脱の度合いという見方からとらえ、病気の本質的な部分を深く考えている医師が病理医と言えるでしょう。」
しかしその病理医も、まだ全国に2,232名(平成26年9 月現在)しか病理専門医がおらず、決して十分とは言えないそうです。
病理医は患者と直接対面する機会が少ないからでしょうか、以前はそういう専門医がいることを知りませんでした。私が大学病院で2回の整形外科の手術を受けたときも、徹底的な入院前検査、手術前検査を受けました。しかし教授回診、担当医師のみならず多くの整形外科チームの医師や内科医などの他、麻酔医師とは直接面談しましたが、病理医と接する機会はありませんでした。
病理医という専門医がいることを知ったのは、2006年に出版された海堂尊の「チームバチスタの栄光」という小説・映画からでした。
その中に鳴海涼基礎病理学教室助教授という病理医が出場します。桐生の義弟で考えも桐生と似通る部分もあり、かつて桐生とアメリカで外科医をしていたが、病理に興味を移し病理医に転進した人です。「ダブル・ステイン法」という術中診断法を確立させ、「診断と治療は分けるべき」という考えから、会議には参加しないが病理医ながらも桐生と切除範囲を決める形で手術に参加している人物として描かれています。
日本の建築界にも「建築病理学」の確立が必要だと固く信じている私としては病理学の手法は勉強になります。

旧高田邸詳細調査

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国立市にある築85年の文化住宅・旧高田邸の詳細調査に参加してきた。既報のように国立市民等のプロジェクトに住宅医協会で協力する形で調査を行った。今日の調査には25人の参加とのこと。

無報酬の調査・ただし昼弁当、味噌汁、飲み物付き

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玄関アプローチ

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午前中は小雨、午後は雨は上がったが曇に覆われていた

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私は、採寸グループで東側立面図の作図を担当した。大まかな実測、矩形図等の他の採寸者と情報を突合せ、フリーハンドで1/50立面図を作図した。

採寸してわかった事だが、2階軒高が現代の木造住宅より1m近く高い。2階の軒の出が3尺、1階屋根の軒の出が2尺5寸ほどだった。

全体としてライト風な水平線を強調するデザインになっている。

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詳細は、住宅医協会のサイトで紹介されている。

http://sapj.or.jp/syousaichousa2015-45/

完了検査済証の交付率

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H26年建築基準法改正にともなう国交省の資料を見ていたら、「検査済み証交付率の推移」というデーターがあった。

H10年には、完了検査済証の交付率が40%を切っていことがわかる。現在では、90%ぐらいまでになつてきているが、指定確認検査機関ができたからというより、世の中の法令遵守への気風が高まったからだと思っている。

ところでも再三指摘しているが、建築ストックの活用にとって、この工事完了検査済証未了・無しの建物を増築、用途変更する時、どうするかとというのは避けて通れない問題である。

国交省のデーターでは、H10年の完了検査済証の無い建物が60%強あるということだが、木造住宅や特殊建築物等、法第6条の各号ごとの交付率は公表されていない。

弊社のデーター(サンプル数500件)による特殊建築物の検査済証未了は30%強だから、木造住宅を始めとしたその他の建物の未交付率は、もっと多いのだろうと推察する。

先日、木造住宅のリフォームの話を担当設計者から聞いた。

建築確認済証はあるが、出来ている建物は全く違う建物で、建蔽率が5%ほどオーバーしているという違反建築物のリフォーム工事の経過だった。

リフォームだから建築確認申請は不要だが、建蔽率がオーバーしているので役所に相談に行ったら、ムニャムニャで終わってしまったらしい。

情けない話だ。

役所は違反建築物を放置しているとしか思えない。

設計者も申請は不要でも建築基準法に適合させる必要があるのだから減築は助言すべきだが、そんなことを言っていたら施主から「固いやつだ」と言われて仕事がなくなってしまうのかもしれない。

工事完了検査済証がない建物でも、用途変更や増築の際に法適合調査を行い法適合が証明できれば確認申請は提出できるが、その調査・診断・評価方法は定まっていない。

全ての構造方法に対応した建築病理学(ビルディング パッソロジー)の構築が必要なのかもしれない。