「ずっと工事中! 沢田マンション」

 街の本屋さん探索家の婆ちゃんが「おもしろい本みつけたよと」私の仕事部屋の暖簾をくぐってきた。「この建物、絵本にしてよいかのかな?」といいながら。

「高知の沢田マンションは有名だよ」と言いながら絵本を手に取り、巻末をみる私。2025年10月1日出版だから本屋に並んだばかりのホヤホヤ。

 私の業務、立場から言うと真逆の建物。コンプライアンスを重視して、ほとんど違反建築物が多い既存建築物の「黒」または「灰色」の建物を「白」にしていく私の仕事からすれば、沢田マンションは、建築基準法による確認申請無届、完了検査未了のまぎれもない建築基準法違反建築物。

 でも好き。

 無鉄砲で無計画でセルフビルドで、トランスフォーメーションしていく沢田マンションは痛快でさえある。

 でも少し心配なのは絵本を出して大丈夫かなと思う。正義論を振りかざし、役所に電話するなどする輩は多くいる。それらが行政を刺激しないかと。高知というおおらかな街だからこそ、強権的な指導はこれまでしなかったのであろうと推測するが、大きな事故がないかぎり見守ってやりたい。 ただ老朽化が進んでいるようなので心配ではある。

 この絵本が違反建築物を薦めたり、助長する契機を作ってしまうのではないかという一抹の懸念もある。今でも「建築法令なんか守る必要あるんですか?」と言う若い設計者に出会うことがある。特に内装関係のデザイン事務所には、そういう傾向が強い。そういう人達の書く「絵」を後始末する依頼も多いから。