「書庫を建てる」松原隆一郎・堀部安嗣著

この建物を雑誌で見たのは随分と前だったように記憶していた。本には2013年2月竣工とあったから、随分時間が経過してからこの書庫が建てられた経過や建築主や設計者の意図を詳しく知ったことになる。

この書庫がどこにあるかは知っていた。早稲田通り沿いに面して小さいけど存在感がある小豆色の建物。知る人ぞ知る建物だったから。

竣工まもなく雑誌に紹介された時、えらく施工が難しい建物だなと思ったのが第一印象だつた。多角形の平面の中を大小3つの円がくり抜かれている。しかもRC造で階段は鉄骨造。敷地は狭く、早稲田通りは交通量も多い。今回この本を読んでみて、更に納得した。

自分より年齢が若い建築家の中では、堀部安嗣さんの作品に惹かれる。堀部さんの建築の特徴を端的に文字にすると「静謐」という言葉が使われる。空間に緊張感はあるが近寄りがたいものではない。とても印象にのこるシーンが連続している。

この書庫は、本を読むことと文字を書くことと先祖を祀ることが共存している不思議な空間。書庫の中に仏壇が鎮座することで精神性の軸が出来上がったのかも知れない。

だが堀部さんの作品は主に住宅が多いので、部外者は中々空間を体験することはできない。

昨年から堀部安嗣建築設計事務所のユーチューブチャンネルを見て、部外者でも見れそうな建物をチェックしていた。多くはないが全国各地に点在している。それらを見に行くことが目標となり楽しみになった。