建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査) Q&A -10

【証明書】

調査の結果、適合証明書等が発行されますか?


「適合証明書」という形ではありませんが、調査結果は「建築基準法適合状況調査報告書」として交付されます。


※このガイドライン調査Q&Aは設計実務者の立場で記載しています。筆者の個人的解説ですので、個々のガイドライン調査機関との見解、取扱いとは異なる事があります。

建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査) Q&A -9

【検査済証に代わるものか】

ガイドライン調査の結果は、検査済証にかわるものや、建築基準法に対する適合性のお墨付きになりますか?


このことについては、Q&A-2でも国交省サイトをリンクし、その見解を紹介しているところですが検査済証にかわるもの、建築基準法に対する適合性のお墨付きにはなりません。調査を行った時点での第三者調査の結果という位置付けになります。
各行政や、指定確認検査機関によって検査済証のない既存建物に対する必要な調査内容について見解が異なる場合があるため、ガイドライン調査結果報告書があれば、特定行政庁や他の指定確認検査機関に増築、用途変更、大規模修繕/改修の申請が可能になるとは限りません。
依頼者が、既存不適格調書や、法第12条第5項の報告書を作成するための調査資料として活用することはできます。


ガイドライン調査機関の別の事務所に建築基準法適合状況調査を添付して確認申請を提出したとき、見解が異なり補充調査を要求された事があると聞いた事がありますので、ガイドライン調査の後に建築確認申請を提出する場合は確認検査員と確認申請を決済する確認検査員は同一の方が良いかと思います。


※このガイドライン調査Q&Aは設計実務者の立場で記載しています。筆者の個人的解説ですので、個々のガイドライン調査機関との見解、取扱いとは異なる事があります。

建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査) Q&A -8

【躯体調査】

躯体調査はどのような調査が必要ですか?


ガイドライン調査機関の担当者・構造担当者と調査項目、箇所数について、事前に協議をしてください。コンクリート強度、配筋探査、鉄骨溶接部超音波探査、鉄骨ボルト接合部調査、部材断面調査等が必要となります。

あわせて建物所在地の特定行政庁の見解を確認するのが望ましいです。(検査済証がない場合の構造に関する調査項目を定めている場合があります。)ただし特定行政庁の対応は、まちまちです。

参考資料:「建築構造設計指針2019」(一般社団法人東京都建築士事務所協会発行)
参考資料:「既存建築物の増築等における法適合性の確認取扱要領及び同解説」大阪府内建築行政連絡協議会


※このガイドライン調査Q&Aは設計実務者の立場で記載しています。筆者の個人的解説ですので、個々のガイドライン調査機関との見解、取扱いとは異なる事があります。

建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査) Q&A -7

【構造計算書は必須か】

構造計算書が保存されていません。構造計算書は必須書類でしょうか


基本的には、法20条(構造規定)の確認の為に必要となります。
この場合、確認申請図書の構造図があれば、構造計算書がなくても良い場合もありますが、躯体調査の結果、構造図と不整合があった場合は、適合性確認のために構造計算書の復元や検討書が必要となる場合があります。


※このガイドライン調査Q&Aは設計実務者の立場で記載しています。筆者の個人的解説ですので、個々のガイドライン調査機関との見解、取扱いとは異なる事があります。

建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査) Q&A -6

【一部の図面しかない場合】

確認申請図書ではない図面(契約図、竣工図、改修図、現況図)があります。調査はできますか?確認申請図書の一部しかありません。(平面図しかない等)調査はできますか?


依頼者(代理・設計者)が確認申請図書相当の、復元図書を作成する必要があります。

「図面の復元」をしたことがない人達からしたら大変な業務なのかもしれないが、古民家や木造住宅のリノベーションの世界では当たり前の作業。筆者も学生時代から伝統建築物の調査や図面復元に関わっているので、木造であれば汗をかきかき灼熱の天井裏で調べたり、狭くてかび臭い床下にもぐり調査したり大変な作業であることは間違いない(尚、最近は体積が多くなり過ぎたのと加齢のため、小屋裏、床下の調査があっても若い人にお願いしている)が、だからといって全体を指揮して調査し図面を復元するのは苦にはならない。又幾度か図面復元に関われば何人工で調査ができ、何人工で復元図が作成できるか、規模、構造、階数等により算出は容易となる。

図面の復元をしたことを、ことさら「すごいでしょう」と吹聴したり、過大評価する第三者がいたりするから世の中面白い。


※このガイドライン調査Q&Aは設計実務者の立場で記載しています。筆者の個人的解説ですので、個々のガイドライン調査機関との見解、取扱いとは異なる事があります。

建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査) Q&A -5

【既存の図面が無い】

確認済証、又は役所発行の台帳記載事項証明書はありますが、図面が一切ありません。調査はできますか?


確認申請図書相当の図書を復元し、躯体調査結果報告書があればできます。ただし、現状から完全な復元図書を作成するには、大変な労力が必要となります。又当時の基準での構造計算の復元は中々難しいです。

 既存建物のガイドライン調査や遵法性調査、リノベーション、レイアウト変更を行う際、新築時の図面が残っていなかったり、当時の図面と異なっている事がある。現状を把握しないと既存建物の改修方針は定まらない。検査済証があろうが、無かろうが、既存建物を活用しようと思ったら「まず調査」から始めないといけない。これが結構アナログだし費用がかかる。また一回で終わらず追加調査が必要になつたりする。


※このガイドライン調査Q&Aは設計実務者の立場で記載しています。筆者の個人的解説ですので、個々のガイドライン調査機関との見解、取扱いとは異なる事があります。

深夜の調査立会

リノベーションに伴って既存のエレベーター、エスカレーターを交換する為の調査に立ち会った。営業中の店舗なので営業が終了した午前1時から午前5時までの調査だった。

新築と違って既存建物のリノベ―ションなり大規模改修の設計では、設計段階で調査が必要です。

先にエスカレーターの動力盤の確認。1階-2階エスカレーターの動力盤は1階のバックヤードに、地階-1階のエスカレーターの動力盤は地階バックヤードに設置されていた。

昇降路内の内寸、階高、オーバーヘッド、ピット深さ等を実測する

基礎フーチングのハンチ部分の形状が既存図とは異なることがわかった

こちらはエスカレーターのモーターと電源部。

床プレートを外したらこうなっています。

電圧を確認しています

エスレ―ターは油が生命線とか

この部分に出入りすると靴裏をウエスで丹念に拭いていました

メーカーから三人の技術者が来てくれました。

私は ただ見てるだけ

久しぶりに終電で移動し、始発で帰宅

それにしても日の出が遅くなった

5時でもまだ暗い

RC構造体の耐用年数評価がでた。

かねてより依頼していた既存鉄筋コンクリート建築物の構造体の耐用年数評価(ドラフト版)が(財)日本建築センターから送られてきた。(財)日本建築センターに設置する「既存建築物の耐用年数評価委員会」(委員長:宇都宮大学名誉教授 舛田佳寛)において確認されているとある。

評価書によると調査時点(コア試験体採取年=2023年)からの推定耐用年数は80年。

既に築年数44年の建物だから竣工時からの推定耐用年数は124年。予想していた耐用年数より寿命が長い。

先に耐震診断の結果も出ていて、構造耐震指標が一番低い1階のX方向でIso=0.96あった。層間変形角1/250での目標値Iso=0.6を超えており、安心していたところだった。

構造体としては、とても良い状態の既存建築物だとわかった。同時に幾つかの問題点も判明しているので部分的な改善工事をしなければならない。

調査をして既存建物の潜在能力(ポテンシャル)がわかり。それを生かす方向でプロジェクトが進んでいく方向になってきたことは、調査者・設計者としてとても嬉しい。

建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査) Q&A -4

【調査資料】

調査にはどのような資料が必要ですか?


確認済証、又は役所発行の建築確認台帳記載事項証明書は必須となります。
 確認申請図書(意匠図、構造図、設備図、構造計算書)、もしくは確認申請図書相当の復元図書。

 特殊建築物等定期調査報告書、建築設備等定期検査報告書、昇降機設備定期検査報告書、消防用設備等点検結果報告書等もあれば役立ちます。(当然定期報告対象外の場合もあります)
 依頼者が実施した躯体調査結果報告書(コンクリート強度、配筋探査、鉄骨溶接部超音波検査、鉄骨ボルト接合部調査、部材断面寸法調査等を出来るだけ用意してください。


 実際のところ、上記の書類類が残っている事や建築主が所有していることは少ないです。図面類が無ければ図面類を復元しなければなりませんし、躯体調査結果報告書類が残っていなければ新たに調査をしなければなりませんから、その費用と作製日数を事前に見込んでおかなればなりません。

 尚、一般的にこれらの資料を準備するのは依頼者(建物所有者)から相談を受け業務を委任された設計者が行いますが、一部のガイドライン調査機関では躯体調査等をまとめて受託しているところがあるようです。


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建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査) Q&A -3

【ガイドライン調査機関】

このガイドラインによる調査を受けたいのですが、どこに相談すればよいですか。費用や日数はどれくらいかかりますか。


2022年8月22日時点で、全国に下記38社のガイドライン調査機関があります。各調査機関にお問い合わせください。

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutakukentiku_house_fr_000061.html

ガイドライン調査機関は、原則として依頼を受けられないものを各社定めていますので、良く確認して事前相談先・依頼先を決めましょう。また、その費用も各社まちまちです。

【下記のような対応がみられます】

・確認申請がなされていないものは対応しない。
・確認済証の無い建物にも対応している。

・明らかな違反建築物となっているもの(その程度が不明)は受理できない
・依頼者が物件の所有者、管理者等でないものは受理できない
・都市計画法第29条の許可を受けているもので都計法検査済証未取得のものは受理できない。

・鉄筋コンクリート造で、構造図が無いものは受理しない。
・自社で建築確認済証を交付した建物に限る。
・新耐震建物(昭和56年6月1日以降)に確認を受けているものに限る。
・延べ面積500㎡を超える建築物、建築設備又は工作物に限る。
・地上3階、1000㎡以下の建築物に限る。
・一戸建ての住宅、長屋及び共同住宅で床面積2000㎡以内に限る。
・大臣認定、型式部材製造者認証又は旧法38条による大臣認定を受けた建築物に限る


※このガイドライン調査Q&Aは設計実務者の立場で記載しています。筆者の個人的解説ですので、個々のガイドライン調査機関との見解、取扱いとは異なる事があります。

建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査) Q&A -2

【ガイドライン調査は、検査済証の代わりとなるか】

「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」(平成26年7月国土交通省)(以下「ガイドライン調査」) による報告書は検査済証の代わりになりますか


この事については、国交省サイトで説明しています。

「本ガイドラインに基づく法適合状況調査の報告書は、検査済証とみなされるものではありませんが、増改築時の既存不適格調書の添付資料として活用することが可能です。
 なお、本ガイドラインに基づく法適合状況調査の結果を検査済証のない建築物の増改築や用途変更に伴う手続き等の基礎資料として活用する場合は、あらかじめ特定行政庁(建築主事を含む。)や指定確認検査機関と相談しておくことが望ましいです。詳細は、ガイドラインp.5「1-3 ガイドライン策定にあたっての基本的な考え方」をご覧ください。」(国土交通省HPより転載)

 このガイドライン調査を利用する目的は、検査済証未取得物件の法適合性を証明するため。あるいは増築・用途変更等の建築確認申請をする為と、大きく二つの目的に分かれています。ガイドライン調査を行って検査済証未取得物件の法適合性を証明することが、実際の不動産の売買価格や価格の査定にどう反映されているのかは、よくわかりません。


※このガイドライン調査Q&Aは設計実務者の立場で記載しています。筆者の個人的解説ですので、個々のガイドライン調査機関との見解、取扱いとは異なる事があります。

建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査) Q&A -1

【既存不適格建築物】

既存建築物で新築してから一定の年数が経過したものは、建築基準法の「既存不適格建築物」と考えて良いですか。


いいえ違います。既存建築物で確認済証と検査済証があり、時間経過後に建築基準法の改正があつた場合、法に適合しない事があります。これを建築基準法では「既存不適格建築物」と位置づけています。状態の変更に伴い建築基準法に適合しなくなった違法建築物とは区別しています。

※このガイドライン調査Q&Aは設計実務者の立場で記載しています。筆者の個人的解説ですので、個々のガイドライン調査機関との見解、取扱いとは異なる事があります。

外部サッシと外壁下地の確認

今月始めて工事監理中の現場へ

外壁サッシが取りつき、外壁下地の施工が終わっていた

シーリングも終わっているようだ

2階にあがってみる。

2階も外部サッシは取り付き、外壁下地まで完了してる

やっぱり職人さんと現場監督には遭遇しない。いつ工事しているんだろう

盆休みもあり、しばらく外出していなかつた。午前中に打合せ、午後移動して現場へと外出していたら汗が噴き出した。日に当たって丸焼けになるか、日影で蒸し焼きになるか、調理方法が異なる肉料理になるところだった。

検査済証の無い既存建物には昇降機は設置できない。

昇降機(エレベーター)は建築設備として、建築基準法第87条の4及び同施行令第146条1項1号の適用を受けます。

既存建築物の屋外にエレベーターを設置する場合は、通常床面積が増加するので「増築」となりますので、エレベーターを設置する既存建築物の検査済証が無い場合には、建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査等)が必要となり建設時の法適合性が確認されないと昇降機の申請を出すことが出来ません。
 
 ただし既存建築物の屋内に設けるエレベーターで床面積が増加しない場合、つまり既存の床スラブ等を解体し、そこに昇降機路を設置する場合には、建築基準法上の「増築」には該当しませんので、建築基準法第87条の4及び同施行令第146条1項1号により、確認を要する建築設備としてエレベーター単独での確認申請が必要となります。

この場合でも既存建築物の検査済証が無い場合には、建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査等)が必要となり建設時の法適合性を確認する必要があります。

 既存建物の昇降機を交換する場合も同様です。

 既存建築物が建築基準法第6条1項4号に該当する場合には、昇降機(エレベーター等)の確認申請については規定がありません。この場合特定行政庁は、建築基準法第12条5項に基づく報告を求めます。

 昨今、リノベーションやリフォーム案件が増え、昇降機新設に伴って、こうした相談がガイドライン調査機関に多く持ち込まれているそうです。

 又、最近はエレベーターメーカーの法令遵守の意識は高く、昇降機設置の相談をすると最初に確認済証ありますか、検査済証ありますかと聞いてきます。検査済証が無ければ昇降機の出荷はできないようです。

 弊社では、既存建物に設置する場合の相談等をする時は、最初に建築確認記載台帳証明や検査済証を昇降機メーカーに見せるようにしています。

ALC工事の確認

しばらくぶりに工事監理中の現場へ、今月二度目

ALCの界壁や一部外壁が終わっていた

フロントサッシが取りついていた

しかし この現場、抜き打ちで行くと職人さんや現場監督と出会わない

少しずつ工事は進んでいるようだから、まあいいか。

それにしても暑い。

出来るだけ日中は外出しないようにしているから、身体が適応できないのかもしれない。

たまたま岐阜の山間部の知人にショートメールしたら、「朝夕は布団をかけないと風邪をひいてしまいます(笑)」と返信があった。本当に避暑に行きたい。

8月も前半と後半に出張が入った。出張すると調査+打合せ+視察+遊びと予定を詰め込む癖があるが、今年はバテルかも知れない。

塗装のタッチアップ

6/26にコンクリートコアを採取した現場の塗装タッチアップに朝から立会

塗装屋さんも、足場鳶も、コア採取業者も自分で手配しているので現場に立ち会わなければならない。

パテ処理をして塗装

この日、都心は36.5度。朝から暑い一日だった。

通常はたまにしか外に出ないので、陽を浴びてビタミンDを生成しなければ

朝8時30分には、塗装屋さんが来ていて外壁の色と色合わせをしていた

塗装する場所を一通り案内して、1時間あまりで完了

職人さんがいて我々の調査や設計の仕事が

成り立つのだぞえ

鉄骨胴縁工事の確認

久しぶりに工事監理中の現場に出向く

基礎の立ち上り、柱脚の根巻コンクリートが終わり、現場は外部の鉄骨胴縁の取付工事中だった。配筋検査以来約1ヶ月ぶりに現場に行ったから、これほど現場に行かない工事監理者もいないかも。

柱脚の根巻コンクリートは、きれいに打ちあがっていた

基礎の調査の為に掘削した箇所もコンクリートが打設されていた

2階サツシ開口枠の胴縁は終わりつつあった。

2階は、これまでと違って随分と開放的で、外部からの視認性が高くなるだろう。ちょつと西陽が気になるが・・

新たに設置する東側の排煙窓用開口も出来ていた

1階北側の基礎回り、外壁を解体してみたらこの部分は立ち上がりが無く、雨仕舞に課題があつたので、新たに基礎立ち上りを作った。

現場には来れなかったが、6月はサッシ、ALC、鉄骨胴縁の施工図のチェックと承認。変更工事の見積チェックや、別契約にしていた設備・電気工事の見積チェック、テナントとの調整、質疑回答など結構忙しかった。毎月クライアントに工事監理報告書を提出しているが、文書にして1ヶ月を振り返ると、結構な業務量になっていた。

次回は、サツシの取付時ですかね。現場に行くのは・・・

「はじめてのヘリテージ建築」宮沢洋著

最近は「古さ」を楽しむ人が増えたのか、自分が関心があるから目につくのか「ヘリテージ建築(歴史遺産建築)」に関わる出版が多い。この本は2023年6月初版だから、出たばかりの本。

このヘリテージ建築には、建築設計者の手で保存再生され、魅力的な場に生まれ変わったものもあります。元日経アーキテクチュア編集長の宮沢洋さんが現地を巡り、分かりやすいイラストを交えながらその面白さを「変化を楽しむ」「物語に出会う」「グルメを楽しむ」という構成で伝えています。

この本はヘリテージビジネスの分野で、組織設計事務所の中では何歩も先を行く日建設計が全面協力という。日建設計のヘリテージビジネス分野のリーダーである西澤氏が案内役をしているが、西澤氏は構造設計や耐震工学の専門家であると聞くと既存建築物を扱っている人間としては合点がいく。既存建築物の法的課題、技術的課題の7割から8割が構造的な問題だからだ。エンジニアリングでありながら文化的センスのある人がこの分野のリーダーに相応しい。

今まではヘリテージというと伝統木造や文化財といった歴史的建造物を想起しがちだが、いま鉄骨造や鉄筋コークリートなどの近現代の建造物が、解体の岐路に立たされており急速に文化財的保存、動的保存の対象となりつつある。また官民建築物の長寿命化も最近の重要課題の一つとして浮上している。

本書とは関係ないが、上記の写真は沖縄の名護市庁舎。鉄骨鉄筋コンクリート造りの3階建てで1981年4月に完成した。全国的な設計コンペで最優秀だった象設計集団の斬新なデザインで日本建築学会賞(作品)を受賞した。庁舎には56体のシーサーが設置されていたが、老朽化で2019年に全て撤去された。いま、この昭和の名建築が築42年で老朽化という理由で解体されようとしている。なんとまあ歴史を大事にしないことか。

近現代建築物には耐震改修や安全性の確保、設備の更新が強く求められるが、経済的付加価値を適切に加えていくことが大切。保存改修設計とか耐震補強とかのシングルイシューだけでなく総合的な視点とそれに対応できる技術力を早急に構築することが必要と思う。

【覚書】ECI方式

ECI方式(ECIほうしき、英語: Early contractor involvement、アーリー・コントラクター・インボルブメント方式)あるいは先行発注型三者協定方式とは、主たる元請業者がプロジェクトの初期段階で関与して設計段階への意見を提供する建設契約の一種。

従来、設計段階の終わりになってから請負業者を参加させる設計-入札-施工方式(DBB方式)とは対照的。

このモデルにより、請負業者はスキームの設計に情報を提供し、バリューエンジニアリングの変更が提案可能となる。

弊社では、以前より既存建築物の活用に係る建築工事については、ある時期から建築主の了解を得て建築業者を選定し、プロジェクトの情報開示を行い色々な技術的提案を受けている。ただ規模が比較的小さい事もあり、プロジェクト建築工事会社として内定してから工事請負契約までの期間もさほど長くなく、検討業務もさほど過大なものでなかったので、その業務報酬は話題にもならなかったし実際発生する事もなかった。

弊社から工事会社を推薦しても、建築会社から一切のバックマージンを貰わない事を宣言している。そうすることで仕事を通じて親しくなっても工事金額の査定、チェックには厳密でいる事ができる。

現在進行形の既存建築物のプロジェクトでは、大規模でもあり工事仮設計画や安全計画、ローリング計画が複雑なのでECI方式を提案した。官公庁物件では最近目につくようになっているし、大規模な既存建築物の工事では適切な方法なのではないかと思う。

ついに査読に突入

東京都建築士事務所協会で編纂作業が進んでいる「既存建築物活用に係る建築基準法令とその解説(仮題)」の2023年6月段階での全章を印刷したファイルが事務所協会事務局から送られてきた。

私は、東京都建築士事務所協会のワーキンググループであるリノベーション専門委員会の編集委員のひとり。

まだ補強すべき箇所や書き加える章もあるが、こうして一冊のファイルになってくると、中々読みごたえがあるし、今まで約20回(月1回)にわたる委員会の成果なので振り返ると考え深いものがある。

建築基準法の事だけ考えていると頭の中が酸性になりそうで嫌なのだが、時間を割いて私が書いた章以外も真剣に読まないとならない。多忙で書けなくなった他の編集委員の人の章もバトンタッチして書かないとならなくなったし大変。

法令解説本というのは、世に沢山出版されている。主として指定確認検査機関や元行政関係者などによる本であり、それらの本は当然設計者にとって有意義な本だ。

ただ設計者は建築基準法だけを見ているわけではなく、あまたある法令 例えば消防法、都市計画法、福祉のまちづくり条例等、建築プロジェクトに係る法令全般を俯瞰し把握しなければならない。

すなわち設計者は、常に「森をみている」

指定確認検査機関は建築基準法という「木」、消防は消防法という「木」、沢山の条例という「木々」。個々の「木」を見ているだけの場合が多い。

設計者は森をみる。それに役立つ法令解説本を作りたいと個人的には考えている。


耐用年数評価の為のコンクリートコア採取

蒸し暑い一日だった

耐用年数評価用+耐震診断用のコンクリートの中性化、圧縮強度を

調べるためのコンクリートコア等を採取した。

ちょつと声をかけたら見学者が6人、皆真剣に作業を見守っていた

2階の外壁部分からコアを採取する為に足場を建てた

未確認部分だった1階屋根の部分には、

図面には設備基礎が書かれていたが無い事が判明した。

鉄筋クロス部分を露出させて発錆状態を確認

コンクリートかぶり厚は、5cm

外壁側2cmの増し打ち、打放コンクリートの上に外壁塗装という事を確認

フェノールフタレイン液を噴霧して、中性化状況を確認

これが全部で5箇所

圧縮強度+中性化試験の他に塩化物調査用、含水率調査用を別に採取

夜7時まで延長して全てのコア抜き、斫り調査は終わったが、

コア抜き箇所の無収縮モルタル詰めは翌日の午前中作業となった。

現場主義を貫きファクトに向きあうと得るものも大きいが、

身体には応える

それでも この案件の大掛かりな現場調査は無事終了

耐用年数評価・耐震診断・耐震補強計画・改修計画に進む

耐震診断の為の図面照合と重量物調査

今日は耐震診断の為の図面照合調査でRC壁の開口寸法の調査

上記の写真のようにRC壁を貫通してるダクトや配管等も調べる

併せてコンクリートブロック壁の配筋調査。

CB壁の鉄筋探査はボッシュの簡易測定器で

全ての内壁のブロック壁は有筋だった

その他設備機器類の基礎を計測、体積計算をした。

これらの調査野帳を整理しCAD図に記載して構造事務所に送らねばならない。

今日の調査の弁当は、のり弁山登りの「大漁」

鶏肉、鮭、竹輪等が容器にみっしり

クライアント、調査員らと、本日も和気あいあいと、

だが食べている時は黙々と食した

耐用年数評価の現地調査

鉄筋コンクリート造の既存建物(築43年)の実質耐用年数評価を日本建築センターに依頼した。その現場調査を行い実際にコンクリートコアを採取する箇所等を現場で決めた。

上記の写真は、鉄筋探査機(電磁波レーダー)で鉄筋のかぶり深さを計測しているところ。この箇所は5cmと計測できた。

赤い紙テープは鉄筋の位置

内部の空調機械室

この日は、日本建築センターから3人、非破壊検査会社から3人、弊社、クライアントが調査に参加。

コンクリートコアは圧縮強度試験、中性化試験をする他、塩化物調査用、含水率調査用、じゃんかがある箇所、両面打放コンクリートの箇所等、耐久性調査だけでなく建築病理学的に興味がある箇所も抜くことにしたら、凡そ30カ所になった。こうした調査の際に建築病理学的な見地からの調査を加味すると後学の為の資料が蓄積できる。

築43年の既存建築物をあと20年利用したいという場合は、この実質耐用年数評価・調査はしなかったかもしれない。43+20=63年なので建築学会でいう一般的なRC造耐用年数60年~65年に相当するから。だが30年~35年というと43+30=73年~78年なので、対外的なエビデンスとして必要だろうと判断しクライアントに説明し了解を取り付けることができた。

クライアントの担当部長説明から始まって、社長・役員・技術顧問が並ぶ中で必要性をプレゼンした。ここに至るまでには結構隠れた苦労があるのです。

斫り箇所の中性化状況の確認は5箇所だけ、非破壊検査会社の人は現場での中性化試験はやったことがないというので、アナログ経験者である私がやることにした。

フェノールフタレン液だけは、新しいものを買ってこよう

そういえば何年か前に、現場での中性化試験をやったはずと思い、自分のサイトを検索してみた。8年前にやってました。

この記事を書いたら、「大田区の町工場の親父(社長)みたいだ」という最高の誉め言葉をもらったのを思い出した。

これに追記するとコンクリート粉を飛ばすエアダスターと、濡れた場合の為にぼろ布が必要だったはず。準備せねば。

現場でのコンクリート中性化試験は科学の実験みたいで楽しいですね。

正確に記しておくと現場での中性化試験は、コンクリートを斫り鉄筋を露出させて、その腐食状況を確認するのが第一の目的。日本建築学会「建築保全標準・同解説IAMS3-RC」によれば、鉄筋の腐食グレードと腐食状態は5段階あると書かれている。

「学校施設の教育環境向上を図る改修等に関する課題解決事例集」文科省

文部科学省において、「学校施設の教育環境向上を図る改修等に関する課題解決事例集」がまとめられ、5月23日にホームページに公開されました。

問題点が整理されていて学校施設の改修設計等の参考になりますし、民間の建物の長寿命化計画を検討するうえでも大いに役立つ内容になっています。

 「学校施設の教育環境向上を図る改修等に関する課題解決事例集の公表について(概要)」文部科学省

https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/seibi/1372577_00003.htm

 「学校施設の教育環境向上を図る改修等に関する課題解決事例集(全体版)」
https://www.mext.go.jp/content/20230524-mxt_sisetuki-000029813_02.pdf

この中に「2改修・活用の促進」として「(1)メリットの見極め・課題解決の見通し」について記載されている部分を紹介します。

「学校施設において、長寿命化改修を進めていくことにより、改築に比べ工事費の縮減を見込むことができ、廃棄物や二酸化炭素の排出量が少ないなど、コストや環境面にメリットがあることに加え、限られた予算の中で域内の多くの学校施設の安全性を確保し機能向上を図ることができる。
公立小中学校施設については、構造体の耐震化率が99.7%、体育館等の吊り天井等の落下防止対策実施率が99.5%と概ね完了しており、一定の耐震性が確保されている。また、個別施設計画の策定時に個々の施設の実態を調査しているところが多いことから、当時の調査結果や経年の近い類似施設の比較などにより 、QCD(品質・コスト・工期)のバランスを確認しながら、改修のメリットを大まかに整理することが可能である。
また、各施設の長寿命化改修を行う際には、当該施設の資料や現地調査により、既存建物の施工当時の状況や現在の劣化状況の把握に合わせて、構造・法令上の観点から改修範囲の見極めや課題解決の見通しを立てておくことで、新しい時代の学びを実現する計画・設計の可能性を広げ、教育環境向上による品質向上につなげていくことができる。工事段階では、内外装を撤去した際に、事前の調査等では分からなかった追加工事が必要となる場合もあるため、調整できる工程をあらかじめ見込んでおくとともに、それらに対応するための費用についても考慮しておくことが有効である」

整理すると

・教育環境向上の手法(民間の施設だと、より収益を生む為の活用計画、省エネを含めた総合的な検討)

・構造体の改修範囲の見極め(民間の施設だと、耐用年数評価や耐震診断・耐震補強が必要なる場合がある)

・法的制約や法解釈(民間の施設だと建築確認等が必要な場合の既存遡及の適用に係るコストの把握、居ながら改修における安全計画・仮設計画とそのコスト)

・施設の有効利用(民間の施設だと、クライアントの理解は勿論、銀行融資先の理解を得る必要がある)

耐震診断のための現場確認

鉄筋コンクリート造の既存建物の耐震診断をするにあたって、構造事務所と一緒に現場確認をした。

外部・内部の劣化調査は既に済ませてあるが、これから耐震診断のための「図面照合調査」(既存図面と現況の主として壁種別の確認、壁開口の大きさ確認、実測)をする為の下見。

耐震診断業務も調査から計算まで一貫して依頼出来る会社もあるが、現在弊社で検討している耐震補強設計の技術的難易度が高そうなので、対応できる構造事務所と弊社で手配する調査チームの共同業務にした。

RC壁でも写真のように上部にダクトが貫通していると右側部分は耐震壁として評価できず、左側のみの評価となる。現地調査をして図面に壁種別と開口寸法を記載していく調査。

屋上には、何のための基礎だったか良くわからない基礎が残っていたりする。こういう設備基礎の類も実測しなければならない。これを「屋上重量物調査」という。

建築・設備を含めた竣工図が残っていない既存建物、長い期間の間で更新されて変わってきた設備類の記録が整理・保管されていない既存建物は、まことに手間がかかる。

既存建築物の活用では、こうしたアナログ調査が不可欠で、身体を使い汗をかく。こういうところが敬遠される所以なのかもしれないと思うこの頃。まあ爺さんは楽しみながらやっているが。