最近、鳴き過ぎだろうと感じるのは「コンプライアンス鳥」。
些細な事にもエビデンスは?、打合せ議事録は?、この条文の規定の文書化された取扱いは?とか。そういう天の鳥に振り回されることが多い。
そうした中で、一般の人には建築基準法の用語「既存不適格」というのが、どうもわかりずらいようである。
もしかしたら建築関係者でもわかっていないんでないかと思う事がある。「既存不適格だから改修が必要だとか、解体建替えが必要だ」というような文書にお目にかかる事がある。また弁護士などの法律専門家にも詳しく説明が必要な場合がある。
建築基準法の「既存不適格」とは、建築・完成時の「旧法・旧規定の基準で合法的に建てられた建築物」であって、その後、法令の改正や都市計画変更などにより、現行法に対して不適格な部分が生じた建築物のことをいう。「違反建築物」と異なるし、条文毎に時期が異なる。
既存不適格であれば、増築とか用途変更をしなければ、そのまま使用していても法律的には問題は無い。注意しなければならないのは、ここでいう「既存」とは、建築基準法では確認済証があり、かつ完了済証がある既存の建物であって、ただ古い建物=既存建物を言うのではない。
しかし、それは法律的な側面であって、安全上の側面とは異なる。遵法性だけ満足していれば良いというものではない。
法律はその時々の社会経済情勢の反映でもあるから、現行法が全て正しいとは言い切れない。実際 現在の建築基準法は緩和、緩和のオンパレードだ。
ただし、こと安全基準に関わることとなると別だ。特にエレベーターやエスカレーターに関しては、強く安全性の問題を意識せざるを得ない。とりわけ不特定多数の人が使うような建物の場合は、改修が急がれる場合が多い。
【昇降機(エレベーター)】
既存建物の昇降機(エレベーター)は、既存不適格であり法令に違反してはいない事が多い。
ただし、新築時から30年も40年も経過していると、その間昇降機に関する安全基準は大きく変わったため既存不適格項目に基づく改善要望事項は多くなる。
例えば2005年(平成17年)7月の千葉県北西部地震において発生したエレベーターの閉じ込め事故、2006年(平成18年)6月の港区シティハイツ竹芝のシンドラー社製エレベーターの戸開走行事故等を受け、(1)戸開走行保護装置の設置義務付け(令第129条の10第3項第1号関係)エレベーターの駆動装置や制御器に故障が生じ、かご及び昇降路のすべての出入口の戸が閉じる前にかごが昇降したときなどに自動的にかごを制止する安全装置の設置が義務付けられた。
(2)地震時管制運転装置の設置義務付け(令第129条の10第3項第2号関係)
エレベーターについて、地震等の加速度を検知して、自動的にかごを昇降路の出入口の戸の位置に停止させ、かつ、当該かごの出入口の戸及び昇降路の出入口の戸を開くことなどができることとする安全装置の設置が義務付けられた。
さらに2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震での昇降機の被害事例を受けて、昇降機の耐震強化を目的として、2013年にエレベーター、エスカレーターに関する耐震関係告示が制定され、2014年4月1日から施行された。このように昇降機の安全基準は大きく改正されてきている。
また経年変化による劣化が指摘され要是正とされる場合もある。既に昇降機の基準耐用年数(35年程度)を超えていると、新規入替の検討が必要である。事故が発生すれば人命にかかわる事であり緊急の対応が必要であるが放置される傾向がある。
【エスカレーター設備】
エスカレーター設備もエレベーターと同じ問題を孕んでいる。2014年4月1日、建築基準法施行令の一部が改正され、地震その他の振動によってエスカレーターが脱落するおそれがない構造方法の規定が追加された。これは2011年の東日本大震災でエスカレーターが脱落し被害が生じた事による法改正である。
また、2024年(令和6年)4⽉1⽇からエスカレーターの安全基準が変わった。
近年の、エスカレーターの挟まれ事故への対応として、エスカレーターの周辺部に誘導柵、転落防止柵等を設置する場合の安全基準が見直しされた。さらにエスカレーターの転倒事故への対応として、ハンドレール停止等の異常を検出し、踏段を停止させる安全装置の設置が義務化された。
このようにエスカレーターに関わる安全基準は、近年大きく変わってきており、利用者の安全を確保するためにも、エスカレーターの機械設備としての耐用年数が近づいている場合は、現行法令(安全基準)に適合した新規取替が必要不可欠である場合が多い。
ただし、エスカレーターは発注から施工まで1年半。エレベーターは1年という昨今の建設事情では、中々改修のスピードは上がらない。
人間であれぱ、いくら法律的に支障がないとはいえ「身体堅牢・骨太ではあるが、脳や心臓に重大な疾病が発見され至急処置しないと死に至る状態」、「至急外科的出術が必要」というようなケースは多々あるということ。