古希を迎えた時から、残り少なくなってきた人生を悔いなく生きていくために毎年重点テーマを決めて活動するようになった。
2024年は「継承」
ある大規模なプロジェクトを受注したことを契機に設計チームを編成した。意匠、構造、設備、電気等と、これまで様々な調査や設計協力をしてもらっていた人達から選んで設計チームに入ってもらった。それから同時並行の色々なプロジェクトも加わり、議題も増え、チーム員からの個別の業務相談にも対応している。
建築関連法規を基軸として既存建築物の再生・活用を主要業務にして、その調査から工事監理までを一貫して行っている弊社は、建築設計業界の中では「変種」らしい。少人数の設計者は中々規模の大きい建物に関与することが少ないが、弊社では多彩な用途の建物と出会うことができる。
やはり実務を通じて口伝で行うのが知恵に結び付くのでてはないか。そう考えて取り組み始めた。
月一回のWEB会議を中心にして、時にはリアルな打合せを加えながら、後進の成長に役立ちたいと考えている。
いまでは施工・積算分野や中部地域に住むメンバーも加わり、忘年会や旅行にはファンクラブ(一部クライアント)も加わり楽しくやっている。
技術面の知恵と人的ネットワークも次世代に継承できれば良いと考えている。
2025年は「空き家活用」
全国各地に出張するたびに、地方都市の衰退、風光明媚な土地の放棄された耕作地、点在する空き家を見て心が痛んでいた。自分達にも何かしら役に立つことができないかと。
一方 東京の住まいは本で溢れかえっていた。段ボールにしまったまま長い間眠っている本、CDを表に出してあげたいとかねてより思っていた。
まず空き家を借りて自ら体験し様々な課題を知ることから始めようと考えた。すなわち時間をかけて実証的研究を進めてみようと。
地方には間違いなく空き家はあり、両親がなくなり子供は他の地域に住まい、ときどき帰ってくるという実質的に居住者がいない家も多い。しかし、それらの家が空き家バンクや不動産マーケットに流通するのは極めて少ない。こんなにも空き家があるのにどうしてなのか、よくわからなかったが最近なんとなくわかりかけてきた。ようは住む人の信頼性が鍵なのだと思う。
これまでも移住者や二拠点居住者を受け入れてきたが、中にはゴミ屋敷にしてしまう人や役所にクレームを言い続けるクレーマー等もいたようで、隣近所に迷惑はかけたくない。素性のよくわからない人には貸せない。という意識が強く働くようである。
株式会社寺田建築事務所は「空き家活用の実証的研究」。合同会社てらだ組は、「地域の食材を使った食の研究開発」を主テーマに活動を始めた。
まだ始まったばかりで、ようやく隣近所から野菜や漬物を貰うようになり、顔見知りの店舗が増えたところである。
2026年以降は、家主が個人で所有している約3反、3,198㎡の使用貸借地の利用について思案中である。それと近隣の人達が一体の土地とみている当該箇所+アルファ(計5,336.41㎡・家主の法人、社長の個人所有地、法人の関連会社の所有地)の環境整備に力を入れたい。同時にマイクロ農業に挑戦していきたいと考えている。
2026年は「職能を磨く」
特に、建築事務所として「設計積算能力を磨く」と「工事監理(品質管理)能力を磨く」の2点に力を入れたい。
建築業界を取り巻く状況は、この半世紀で随分と変わった。建設業に従事している人達は減少し、とりわけブルーカラーは少なくなりホワイトカラーに移行した。プロジェクトがあっても、工事施工会社(元請・ゼネコン)からは、技術者(現場監督)がいない。少ないから受注できないという返事が返ってくる。
従来横行していた競争見積により業者間の競争によりコストダウンを図る手法は、ほとんど不可能になりつつある。付き合いのある施工会社に早くからプロジェクトを打診、建築主に紹介して随意契約で依頼することや、建築主の旧知の施工会社に随意契約で依頼することが増えてきた。
その際の設計事務所としてのコスト管理・工事施工会社の見積額の査定に対する姿勢が問われている。
とりわけ弊社の主要業務分野である既存建築物の増改築・改修・用途変更等では、全体のコスト管理が難しい。解体・修復・付加という要素が加わり見積もり自体にも経験値が要求される。
今までは、できるだけ一次専門業者に見積もりをしてもらったり、自前で積算するなどして積み上げ方式でコスト管理をし、施工会社の見積もり査定を行っている。最近は大規模なプロジェクトも増えたことから、工事費の適正価格を把握するために、その方法に更に時間と予算を振り分け、事務所としての技術力を磨き上げたい。
また現代の形式化・形骸化した建築施工品質管理ではなく建築事務所としての工事監理業務を強化したい。文字通り一人で調査・企画・設計・監理ができる多機能工になれるようにしたいと考えている。