
2001年6月初版、もう25年前の本なのだが、本箱の片隅から出てきたので、懐かしくなって読み直した。
1960年代後半から70年初め、法政大学宮脇研究室のデザインサーベイの活動が繰り広げられた。
私が大学生になった頃それらの活動は終息期に入っていて、デザインサーベイに直接かかわることはなかったが、大学の図書館と伊藤研でむさぼるように本、図面、資料を読んでいた記憶が蘇ってきた。もう半世紀も前の事だ。
2年社会人をしてから大学に進学したが授業は退屈だった。自然と授業に出席せず大学の図書館に入り浸るようになった。食事は学食でカレーライスか、かけそば。本を買う金も飯を食う金にも困っていた。そんな青春時代を過ごしたせいか、今でも駅の立ち食いそばが大好き。それと本に囲まれている空間が一番落ち着く。
1979年大学卒業だから、丁度宮脇研と陣内研の活動の端境期になる。もう少し時期がずれるとデザインサーベイの活動に参加していたかというと、それはわからない。何しろ当時は、各地の民家、集落を見に行く、調査しに行く旅費さえなかったから。各地の伝建地区を見に行けるようになったのは、随分と後の事。
中山繁信先生が書いている「教室やゼミでどんなに頑張るよりも、実際のフィールド調査を学生たちと出掛け、ある期間、建築や都市空間のハードな調査一緒に行う方がずっと効果があがる」「建築を学ぶには、心と頭と身体のどれもが必要だ。それには、実際の建物に触り、空間を感じ、そこに暮らす人たちと交流するという、まさにトータルな経験ができるフィールド調査が威力を発揮するするのは当然だろう」
「本書は、二つのゼミナールにおける「デザインサーベイ」と呼ばれる実測調査を紹介するものである。ひとつは、1960年代後半から70年代半ばにかけて日本国内で調査を行った宮脇檀氏のゼミナール。宮脇ゼミが開始したデザインサーベイはフィールドワークの先駆けであった。そして、もうひとつは現在も海外を中心に活動中の陣内秀信氏のゼミナールである。
活動時期や調査対象とする場所は異なるが、両者には共通するものがあるようだ。彼らの体験から、実測調査というものが単なるデータ収集の作業ではないことが理解できるだろう。
まず、「調査への情熱」である。それが地道な作業の積み重ねへの糧となる。そして、その情熱は建築や都市に対する想いの現れであろう。デザインサーベイの作業は、あたかも彼らが建築や都市へ抱いている熱き想いを確認する作業であるかのように映る。
もう一点は、調査中に遭遇する「住民たちとの触れ合い」である。調査のなかで感じた住民たちの優しさや温かさについては誰もが強調している。彼らの体験は、都市や街の魅力がそのような住民たち、人間によって支えられているということを如実に示している。それは近代の建築や都市に欠けていた視点ではなかろうか。彼らは調査を通して、ごく自然にそのようなことを学び取っている。これこそがフィールドワークの醍醐味なのであろう。
生前、宮脇氏は「一に旅、二に旅、三と四がなくて五に建築と冗談を言うほど旅が好きだったそうである。旅好きが抱く見知らぬ土地への想いが彼をデザインサーベイへと誘ったのであろう|。そんな宮脇氏の教え子たちが綴った体験記を読んで、無性に旅にでたくなった自分がそこにいた。」と別なところで、この本について書かれている。
今、主要な業務である既存建築物の再生・活用で、調査を人任せにせず、毎回調査チームを編成して調査・設計・監理と一貫して行うスタイルを保持しているのは、デザインサーベイの遺伝子を少し受け継いでいるからかもしれないと自分では思っている。