「工手学校・日本の近代建築を支えた建築家の系譜・工学院大学」

明治、帝国大学総長であった渡邊洪基は、建築家の辰野金吾や土木を専門とする古市公威と共に、8つの学科を擁する「工手学校」を設立し日本の建築界に多くの卒業生を輩出しました。

 本書は、工学院大学建築学部同窓会誌『NICHE』に掲載された「輝かしき先輩たち」と題された連載を基に再編集したもので日本の近代建築を支えた工手学校の歩みを、13人の建築家の歩みを通して描かれています。
同窓生だからこの本を持ち上げるわけではなく、日本の近代建築史を学ぶ上での貴重な資料です。とりわけ私が興味深く読んだのは戦前の台湾の活動でした。「戦前期工手学校卒業生の台湾における活動-八坂志賀助を事例として」「工手学校卒業生と台湾総督府の土地調査事業」「飯田豊二と日本統治時代初期の台湾鉄道」「進藤熊之助と日本統治時代初期の台湾鉄道」の四編は、今は資料が少ない戦前の台湾について多くの教示を得ました。
それと 今亡き建築家・内井昭蔵さんの御父さん・内井進さんが同窓だ初めて知りました。
とても面白い本です。

「孤篷の人」葉室麟著

この作品の主人公は、大名(晩年は伏見奉行)、茶人、作庭家、建築家、書家として名を遺した小堀遠州です。フィクションですが、晩年の小堀遠州(小堀政一)が、利休、石田三成、沢庵、古田織部等との邂逅を綴る形で書かれていて、茶の湯の精神とか茶室について理解を深めるための本になっていると思います。
孤篷庵(こほうあん)は、京都市北区紫野にある臨済宗大徳寺派大本山大徳寺にあります。建築関係の本にはよく登場し、時には建築士の試験などにも登場しますが、たまにしか一般公開しませんし茶室内部の写真撮影は禁止なので、著名な割には実物を見た人は少ないと思います。そういう私も何度か大徳寺には行っていますが実物を見たことはありません。
この庵号の「孤篷」は「一艘の苫舟」の意で、小堀政一(遠州)が師事した春屋宗園から授かった号です。
なにか全てを暗示しているような庵号でもあります。
この本を読んで、すこし即物的な建築の世界から離れて、精神世界に触れることができたような気がします。

NICHE 2017 vol.40

「NICHE」と「NICHEダイジェスト」は工学院大学建築同窓会誌ですが、2014年から建築とデザインの学際的な架け橋として、海外取材に基づく特集記事と連載 を中心とした業書・書籍版(有料)「NICHE」と広報誌「NICHEダイジェスト」に分かれています。

「NICHEダイジェスト」は、「NICHE」から抜粋した内容と大学に関係した記事で構成され同窓生や大学関係者に無料で配布されています。

2015年の「台湾建築探訪」2016年「フランス建築探訪」そして今号「ドイツ建築探訪」と、最近の内容は同窓会誌のレベルをはるかに超えていると言って良いと思います。

今号も

  1. ブルーノ・タウト再考
  2. バウハウスとその時代
  3. ドイツ派、妻木頼黄と矢部又吉

と興味深い特集記事が組まれています。

そして 亡き武藤章先生が1968年に設計された「工学院大学旧白樺寮」が閉鎖され解体される方針に対して、建築系同窓会が土地の借地権と建物を引き継ぎ、一部を減築し夏季利用に限定した、アールトと北欧デザインづくしの「白樺湖夏の家」として生まれ変わった様子が速報版として紹介されています。

学生時代に白樺寮に一度行ったことがありますが、約半分ぐらい減築し暖炉のあったリビングの部分を残してリノベーションした様子ですが、とても懐かしいですね。

武藤章先生の傑作・八王子図書館が解体されたのは残念ですが、白樺寮が保存出来て良かったです。関係者の皆さんありがとうごさいます。