合成の誤謬

image-1

日影被害の話し

赤い部分が今回の被害宅で木造平屋建て築50年近く経過している建物

西側に7階建てのマンション、南側に5階建てのマンションが次々と建った。

それぞれの建物は圧迫感はあるし午後の陽ざしはほとんど入らなくなったが日影時間は適法。午後は陽がささなくなったが、それでも東側隣地は2階建てのアパートだったので、朝から昼近くまで陽はさしていた。

ところが東側隣地に、新しく建替えで5階建てのマンションが計画された。説明を受けると一日中太陽が差し込まないようなのだ。

しかし東側の計画建物は、提出された日影時間図等を見ると適法のようだ。

「日影被害を訴えられるか」と聞かれたので「難しいだろう」と答えた。三つの所有者の異なる建物からの複合被害だから、「建築基準法を作った国を訴えるしかないかも」と

『合成の誤謬(ごうせいのごびゅう、fallacy of composition)とは、ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロ(集計量)の世界では、かならずしも意図しない結果が生じることを指す経済学の用語』(Wikipedia)

最近の建築基準法の改正は、私権の拡大が目立つが環境に配慮した項目は少ないようにも思う。

「合成の誤謬」そんな言葉を思い出した事例だった。

「環境時代のビルディングエンベロープを考えるシンポジウム」IN 東大

DSCF0316_R

環境時代のビルディングエンベロープを考えるシンポジウム~省エネ・健康リフォームをいかにして普及させるか~in  東大に11月20日参加して来た。

ビルディングエンベロープすなわち外皮を多面的・複眼的に捉え環境時代の外皮に相応しいものを見つけ出すヒントを得るというのがシンポジウム開催の趣旨とのこと(坂本雄三・建築研究所理事長)

第三回目となる今回のシンポジウムでは「住宅の省エネリフォーム」について集中的に議論しようとした企画となっていた。

DSCF0315_R

【会場の伊藤謝恩ホール】

三人の講演と五人の異なる分野からのパネラーの参加によるパネルディスカッションでみっちり4時間

この分野で、現在どういう取り組みがなされているのか解った。

小規模マンションの受電方法

小規模マンションの計画では、もともと敷地が狭く、そこに建蔽率いっぱいで建物が計画され、緑地やゴミ置場も必要ということで集合住宅用変圧器(パットマウント)の設置場所に苦慮する。

過密都市東京ならではの設計上の悩みでもある。

小規模マンション(20戸~30戸程度)の電気容量は、電灯が50KVAを超え、動力は10KVA以下(ELV、増圧ポンプ等)という特徴がある。

事務所・店舗等の動力が多い傾向の建物とは異なる特徴を持っている。

ところでこの集合住宅用変圧器(パットマウント)は、建築設備であり、高さが1.2mを超えているので建築基準法施行令第130条の12の後退距離の算定の特例を受けられない。

つまりパットマウントの道路側の位置が、道路斜線制限の最小後退距離となる。

2013年度の国交省による指定確認検査機関の処分で、「建築物の各部の高さの制限に係る建築物の後退距離の算定において、建築基準法施行令(以下「令」という。)第 130 条の 12 に定める特例の対象とはならない変圧器の存在を見落としたまま令第 135 条の 6 に定める基準を適用したため、結果として高さ制限に適合しない計画となっていたこと)を看過し、建築基準法第 53 条及び第 56 条の規定に適合していない建築計画に対し確認済証を交付した。」事などが処分理由とされた事案があり、パットマウントの位置が注目を浴びた。

単身者用マンション(1K・1LDK)などでは、一住戸が30A程度でもよい時代があったが、昨今の電気器具の消費傾向が反映してか1Kでも東京電力は40A(契約容量ではない)と言うし、同時使用率を考慮してもすぐ50KVAを超えてしまう。IHコンロを使う場合は、もっと受電容量が増える。

とういうように高圧受電となった場合の対応は、建物内に東電借室 (電気室)、集合住宅用変圧器(パットマウント)方式、施設柱方式となるが、初めに書いたように設置場所や最少後退距離の問題があり、色々と苦慮する。

店舗・事務所等の事業用「低圧弾力供給」は、電灯が50KVAが超えると適用できない。そこで出てくるのが共同住宅用の「低圧架空2条引き込み」である。

東電に建築場所を確認してもらい、「低圧架空2条引き込み」(電灯線を二条、動力を一条)でOKが出れば、敷地内に立つのは引き込み柱だけとなる。

もっとも「低圧架空2条引き込み協議・事前確認票」という書類に必要事項を記載し、図面などを添付してFAXして、東電が現地調査をして約4週間程度の時間が経たないと可能性の可否が判明しない。

意匠設計者のプロデュース力が低下している・・・

「知らない・書けない・解らない」というのは困ったものだ。

「法令に基づく申請」@行政不服審査法

「法令に基づく申請」は、行政不服審査法第2条で不服審査の対象となる「不作為」についての定義として 規定されている用語だが、「法令に基づく申請」についての明確な定義はない。

「申請」については、行政手続法第2条で以下のように定義されている。

「法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を 付与する処分(以下「許認可等」という。)を
求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされ  ているものをいう」

ここから「法令に基づいて行政庁に諾否の応答義務がある場合に、 行政庁にその応答を求める行為」と考えられる。

ここで法令、条例や細則等に基づく各種の届出が「法令に基づく申請」にあたるかどうかは議論が分かれるところ。

建築確認申請で言えば、例えば「中高層予防条例」。

これは建築関係規定ではないが、お知らせ看板=標識と報告書を提出する。条例によって規模で期間を規定しているが、例えば確認申請受付の30日前に提出するとか、何月何日に確認申請を提出してくださいと副本に記載される。またその日付を確認して指定確認検査機関は受付するようにしている。

建築関係規定ではないが行政と指定確認検査機関の紳士協定で、さも関係規定のように運用されているのが実態だ。

行政は、中高層予防条例は関係規定ではないと言う一方。実際には関係規定と同様な運用を建築主、設計者、指定確認検査機関に強いている。

これをダブルスタンダードという。

シロアリの生態@住宅医スクール2014

「防蟻対策の実務~シロアリ駆除と予防法の事例」と題する阪神ターマライトラボ代表の水谷隆明氏の話を聞いてきた。

住宅医スクール2014の一講座

シロアリの生態から始まり駆除や予防法について、まとまって専門家から話を聞くのは初めてだった。

ヤマトシロアリ、イエシロアリ、アメリカカンザイシロアリとそれぞれ生態が異なり、それぞれに応じた駆除方法や予防法があるとの事。

「シロアリは多数の個体によって集団(コロニー)を形成していますが、各々の個体が各々の役割担いながら高度な社会生活を営んでいます。
この各々の個体を階級(カースト)といいます。
シロアリは集団生活を行い、親が子を育て、成長しても共同生活を行い大きな集団となっていきます。
 生態学的にみると『真社会性』と言われる状態です。これは下記の3つの特徴を有しています。
 (1) 同じ種類の複数個体が協同して子供を育てています。
 (2) 生殖を行う個体と生殖を行わない個体がいます。
 (3) 親世代と子世代が共存しています。」(阪神ターマライトラボのサイトより)

 

駆除にしても予防法にしても、ただ薬剤を散布すればいいというものではなく、シロアリの家屋への浸入パターンを読み、適切な方法で対応するということをパワーポイント100枚ぐらいで丁寧に説明してもらい、シロアリに対する認識が変わった。

点検できる高さの床下を確保して定期的な点検ができるようにする等、薬剤に頼らないシロアリ対策・設計上の工夫が必要とのこと。

アカデミックな視点を持つ実務者の話しは面白い。阪神ターマライトラボでは、シロアリを飼育し生態や薬剤効果を今も実験中との事、詳細は、以下の阪神ターマライトラボのサイトに詳しく掲載されている。

http://homepage2.nifty.com/hanshin-termiteslabo/index.htm

訓示規定

法令などで定められた規定のうち、もっぱら裁判所または行政庁の職務行為に対する命令の性質をもち、規定を遵守しなかったとしても処罰の対象にはならず、また、違反行為そのものの効力も否定されない性質の規定のこと。

訓示規定に対して、規定に違反した場合に処罰の対象とされる規定を「取締規定」という。取締規定は行為そのものの有効性は否定されない。行為そのものが無効であると見なされる性質の規定は、「効力規定」と呼ばれる。

訓示規定は当事者に対して努力すべき内容を指示する規定であり、それ自体に直接的な法的効力はないと言える。訓示規定の具体例として、労働基準法第1条第1項「労働条件の原則」などが挙げられている。

さて、建築基準法では 例えばこういうのが訓示規定である。

建築基準法94条2項には、「審査請求を受理した場合においては、審査請求を受理した日から一月以内に裁決をしなければならない」とある。

実際のところ1ヶ月で採決したケース少ないのではないだろうか。受理してから概ね二ヶ月以上はかかっているように思う。各特定行政庁の建築審査会事務局に聞いたら、「それは裁量権の範囲」と軽くあしらわれるだろう。

建築法規の試験で建築基準法94条2項に関する出題があっても、試験と現実は違うということ。

 

工事の着手 -2

「工事着手の時期」は、既存不適格の適用の有り無しと絡んでくる。

「工事の着手」は、建築基準法では定義化されていない。

建築基準法第3条第2項には、改正された法の施行又は適用の際、

  1. 現に存する建築物若しくはその敷地
  2. 現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地

「1」は、工事完了検査済証を取得していて使用が開始されている場合。「2」工事中の場合で、ここで「工事の着手」時期が問題になることがある。あるいは工事着手時期の操作が発生する場合がある。 「法改正の施行日が建築確認の受付後か、あるいは確認許可後の日でも既存不適格扱いとなるか」という質問を受けたことがあるが、改正法令の適用を受けない場合の基準時は、既存建物の場合は、一般的には建築確認申請許可日が基準時となるだろうか。

尚、「基準時」は、令第137条に規定されており「法第3条第2項の適用を受けない期間の始期をいう」のだが、令第137条に掲げる規定ごとに抽出しないといけないので、中々厄介なのだ。

工事の着手 -1

知人から電話が来て「工事の着手」についての建築基準法の定義はないかと言うので、日本建築行政会議編集の「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例」(2013年度版)の34頁を送ってあげた。

『「工事の着手」の時点とは、「杭打ち工事」「地盤改良工事」「山留工事」又は「根切り工事」に係る工事が開始された時点のことをいう』

工事の着手

今時、「工事の着手」時点は何時かと聞かれるのは珍しい。

法令が大きく変わる時には、改正前にとりあえず建築確認だけ降ろしてダミー施工会社に一部掘削なりさせておいて「工事着手」させ、その後確認申請は、大きく計画変更確認申請をして正式に実施図面を完成させ施工会社と契約して本当の工事着工。確認から正式着工まで1年以上という、手法が流行ったりした。

いわゆる「かけこみ着工」なのだが、工事の継続性があるのかないのか、偽装もできるし、中々わかりづらいものだ。

ところで、知人の相談には現場の写真が添付されてきた。

2014-07-01 17.26.43

敷地は道路より約1.6mほど高かった。

DSC_1828

掘削して山留のH鋼を設置している

現地2

道路より約1.6m高かった敷地の土砂を掘削し平坦にし、山留H鋼を打ち込み矢板も設置している。この時点でも工事施工会社と工事監理者は工事着工前の準備工事中と言い張っているらしい。

驚き、桃の木、山椒の木である。

不作為

古い建築審査請求の裁決書をながめていた。

中野区の「17中建審・請第1号審査請求事件」。

審査請求の内容は、「一低層地域にある○○会社が所有する建物は、法第48条が定める用途地域制限に違反しているから是正してほしい旨、繰り返し(5回も)特定行政庁に求めたにもかかわらず、法第9条第1項の規定に基づく違反の是正命令を発しないことは建築基準法に違反する不作為にあたる」という請求。

行政不服審査法第2条第2項の「不作為」とは、「行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内になんらかの処分その他公権力の行使に当たる行為をすべきにかかわらず、これを発しないことをいう」

この裁決書では、「不作為の前提となるべき、法令に基づく申請」が存在しない「審査請求人(近隣住民)が不作為庁(中野区)に対して行った一連の要求(是正申出書)は、法令に基づく申請にはあたらない」とし「したがって、請求人の要求に対して不作為庁が違反の是正に必要な措置をとることを命じることその他の行政指導等を行わなかったとしても、これをもって行審法にいう「不作為」ということはできない。よって請求人の本件請求は、行審法にいう「不作為」に該当しない事項を対象として行われた不適当なものである」として住民からの不作為の審査請求を却下している。

この場合、具体的にどのような経過で住民が5回も行政指導をお願いしたのかわからないが、住民側が不作為の審査請求まで出すのは余程の事だと思う。不作為の審査請求があることを知っていて活用しているのはあまり多くない。

処分庁(中野区)が弁明の中で「住民の要望」は、「特定行政庁に対して職権の発動を求めたものに過ぎず、行審法第2条第2項に規定する「法令に基づく申請」にはあたらない」と主張している」

だとしたら建築基準法には規定されていても、条例や細則等に規定されていないような事柄。

例えば「工事現場の危害の防止」が建築基準法に明白に違反している場合でも、近隣住民などは、お上にお願いするだけで、職権の発動はすべて行政の裁量であるから黙っていろと言っているのに等しい。

施行者側に何らかの処分を求めて不作為の審査請求を出しても行審法第2条第2項に規定する「法令に基づく申請」には該当しない事となり 建築基準法に違反していても事実上免責されてしまう。

「することができる」と「しなければならない」

建築中の建物の山留工事について、安全上不安があると近隣住民が都内の特別区に要望書をもって陳情に行ったという。

「要望書」は、施工者が工事説明で配布した山留計算書に対して第三者の技術者が意見書を付けるという体裁のもので、私も見せてもらったが、施工者の計画は山留計算における背面側上載荷重が極めて少なく、非常に不安がある内容だった。

紹介議員(区議)を通じていたせいか部長と課長が対応してくれて、施工者なり工事監理者に何らかの指導をすると言ってくれたそうだ。

根切、山留については、建築基準法施行令第136条の3に規定されているが、この規定に違反していることが明白になった場合、建築基準法第9条第10項による職権の発動をしてもらわないといけない。

とはいっても条例や施行細則に記載がない限り 事前に施工計画書などを届け出る必要はなく、近隣住民側が不信に思い第三者に技術的検討でもしないかぎり事前の問題点を発見できたりすることはできない。

この行政の「職権の発動」は、中々腰が重い。法文の最後に「~することができる」とあるように、すべて行政の裁量にゆだねられている。

建築基準法は、行政側が対応するものは「~することができる」だが、建築主や設計者や施行者は「~しなければならない」と本当によくできているというか・・・

上記の陳情の際、行政側は「民間の指定確認検査機関を利用した場合、工法の変更は強制できない」という 発言をしたという。

これは、責任逃れの発言としか思えない。

第一 指定確認検査機関で確認処分をするとき、山留工事の施工計画は設計図書には含まれない。

行政は、2005年の最高裁判決を忘れてしまったのだろうか。

「建基法の規定から判断すると、建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについての確認 (建基法6条1項、6条の2)に関する事務を、地方公共団体の事務とする前提(同4条、地方自治法2条8項)に立 ったうえで、民間機関をして、上記の確認に関する事務を特定行政庁の監督下(報告、是正権限)において行わ せる(建基法6条の2第3項、同4項)こととした、と言うことができる。     
   そうすると、民間機関による確認に関する事務は、建築主事による確認に関する事務の場合と同様に、 地方公共団体の事務である。 
  その事務の帰属する行政主体は、当該確認に係る建築物について確認をする権限を有する 建築主事が置かれた地方公共団体であると解するのが相当だ。 
  したがって、民間機関の確認に係る建築物について、確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、民間機関の当該確認につき、 行訴法21条1項所定の「当該処分または裁決に係る事務の帰属する公共団体」に当たるというべきであって、 横浜市は本件確認に係る事務の帰属する公共団体に当たると言うことができる。 
 A社は本件確認を横浜市の長である特定行政庁の監督下において行ったものであること、 その他、本件の事情の下においては、本件確認の取消訴訟を横浜市に対する 損害賠償請求に変更することが相当であると認めることができる(最高裁2005年6月24日決定)」

 

 

山手通りの家 -3

知人「やあ あれ わかった?」

私 「ごめんごめん 五層竪穴区画無しの件だね」

知人 「仕事忙しかったの?」

私 「ちょっとね 盆前だから まとめなきゃならないことがあって」

知人「忙しくて何よりでした。それで どう?」

私 「う~ん あれは イルージョンだね」

知人「えっ そうなの?」

私 「最初、床面積が100㎡以下なので準耐火建築物ロ-1かと思ったんだけど、階段は鉄骨造だし、他の状況からみても耐火構造の建物。防火地域で階数が3以上だから、耐火建築物にしなければならないし、耐火構造だと階段部分の竪穴区画(令第112条第9項)は逃れられない」

私 「5階=ルーム5は、天井高さが2010mmなので居室として確認申請が通るわけがない。でもベットが設置され寝室としての利用なので居室だし・・・」

知人 「建築確認申請は許可になっているようだね」

私 「そう確認と中間検査はA指定確認検査機関、完了検査はB指定確認検査機関になっている」

知人「ロ準耐なら可能は可能?」

私 「そう、防火地域以外で主要構造部が実際にロ準耐の仕様なら・・」

知人「耐火構造でありえるとしたら?」

私 「1,2階の店舗部分と3階部分で区画して5階は非居室」

知人「ということは 確認申請図書と実際の建物は祖語があると」

私 「断定はできないけど 可能性は大いにある」

知人「これ以上調べられない?」

私  「役所に情報公開請求を出す。そうすると役所は指定確認検査機関に法第12条第5項の報告を求めるから、ある一定の確認図書は公開される。そうすると今よりははっきりするんじゃないかな。ただし内部は個人情報保護とかで黒塗りにされてくる可能性が大だから、どれだけわかるかは定かではないけどね。」

知人 「調べてくれる?」

私 「これ以上は、有償だよ。経費がかかるから」

知人 「検討します」

 *8/13、一部記載に不備があり修正しました。

防火地域内で階数が3以上あるに、床面積が100㎡未満だからロ準耐でも良いと誤解される表現がありました。この建物は耐火建築物である必要があります。

山手通りの家 -2

【建物概要】

建築場所 : 東京23区内、山手通り沿い

用途規制 : 近隣商業地域、防火地域、40m高度地区

容積率400%、建蔽率80%(基準)+10%(角地)(実際は耐火+防火100%で申請)

道路 :  前面道路幅員40m (山手通り)、側道路・幅員6.84m、角地

主要用途 :  店舗併用住宅(具体的用途不明・実際は1階物販店・駐車場、2階物販店、住宅として使用は、3階~5階)

敷地面積 : 24.32㎡

建築面積 : 17.92㎡

延べ床面積 : 89.60㎡

構造規模 :  鉄筋コンクリート 地上5階建て

建築確認・中間検査 :   A指定確認検査機関

完了検査 :  B指定確認検査機関

山手通りの家 -1

1週間ほど前、知人から電話がかかってきた。

知人「新建築7月号に掲載されいる住宅なんだけど、地上5階建てで五層も階段の竪穴区画がないんだ。うちも こういう竪穴区画の無い住宅を提案したいんだが どうやったらできる?」

私「五層竪穴区画無しなんて無理だっぺ・・」

知人「でも雑誌に掲載されているからには、建築確認降りてるだろうな~。資料送るから知恵貸してよ」

私「了解」

この知人は研究熱心で建築雑誌に掲載されている建物で、建築基準法的に面白そうな物があると私に振ってくる。そして、この住宅の概要・資料が送られてきた。

私「資料みたよ。この場所だいたいわかる。山手通りは結構行き来しているからね」

私「S区の場合、山手通リ沿いは防火地域だね。床面積が100㎡未満だけど階数が3以上だから耐火建築物。防火地域でなければロ準耐で設計する方法もある」

知人「鉄筋コンクリート造のロ準耐って主要構造部のどれかの部位の仕様を変えるだったよね」

私「そう。鉄筋コンクリート造りだと外壁・屋根・床がコンクリートで耐火構造仕様になっているから、階段を木造にしたりするんだよね」

知人「鉄骨階段じゃ駄目?」

私「鉄骨階段だと耐火構造になるでしょ。幾ら準耐火ロ-1とか記載しても実態上の仕様が耐火構造になるから」

知人「イ準耐と耐火構造は竪穴区画必要でロ準耐だと竪穴区画しなくていいっていうのも一般には説明しずらいところだ」

私「専門家でも 中々理解しずらいところ」

知人「でも この建物は耐火建築物である必要がある」

私「そうだね もう少し調べてみるよ。」

知人「全館避難安全検証法だったりして」

私「住宅は発熱量高いし、以前シュミレーションしてみた事あるけど この手のプランでは無理だと思うよ」

知人「そうなんだ・・」

私「では 調べてから電話するよ じゃあね」

ということで、知人から課題を与えられてしまった。

やれやれ

【法令メモ】

建築基準法施行令第112条第9項(9項区画・竪穴区画)は「主要構造部を準耐火構造とし、かつ、地階又は3階以上の階に居室を有する建築物」が対象です。

準耐火構造というのは建築基準法第2条七号の2に規定されていて、45分準耐(面積区画は1時間準耐)、例示仕様は平成12年建告第1358号。

「主要構造部を準耐火構造とし」とは、準耐火建築物である場合は、準耐火(イ-1、2)が該当し、準耐火(ロ-1、2)は対象外。

法令上の用語として「上位の性能を有する材料・構造等は、下位の材料・構造等に含有されるものとして整理」(平成12年建住指第682号通知)されたから、主要構造部を耐火構造としたものも対象建築物となる。

わかった?

わからないしょ

でも法文上はこうなる 

 

 

「建築に係る行政訴訟判例カルテ」@建築学会

日本建築学会 建築法制本委員会の「建築専門家の行政訴訟参加に関する研究小委員会」が平成25年2月にまとめた「建築に係る行政訴訟判例カルテ」。

PDFで公開されているが、A4版で250頁のぶ厚い資料である。

「行政訴訟においては、建築基準法等の建築関係法の制定背景や基準の趣旨、その規定の果たしている役割と他の規定との関連性など建築に関する知識と経験を有する建築専門家の関与が重要と思われる。」とあり、このカルテは「行政訴訟を対象として、裁判判例を通じて、建築専門家の関与の必要性を明らかにすることを目的として判例の分析を行った。」と書かれている。

内容は、以下の項目が章立てて展開されている

  1. 訴訟要件
  2. 建築確認
  3. 建築物と敷地
  4. 建築物と道路
  5. 建築物の規模・配置
  6. 建築物の用途
  7. 既存不適格の発生ほか

その他

「ドイツの建築規制・建築許可・建築紛争に関するメモ」

「Land  Use Planning and development regulation lawの一部邦訳まで記載されているという。お得な情報が満載の資料。

まぁ こういう資料を読むのは、一部の研究者か建築審査請求に色々と思いがある人など限られているだろうが・・・。

建築法規も深みに入っていくと 底なし沼のように捕捉される。あるいは「オタク」的な世界だろうか。

建築審査請求 -2

弁護士を代理人とする場合、住民側代理人も建築主側代理人も建築審査請求は初めてという事も多く。結構、頓珍漢なやり取りが交わされたりする。

又、数々の建築審査請求の事例を見ていると、手練れの建築専門家が加われば・・・とか思うことも多い。

建築審査請求は、指定確認検査機関制度になってから増えたようにも思うが、以下に整理して記載しておこう。

****************

1.審査請求とは

• 建築基準法に基づく(建築確認)処分に不服がある場合やこれらによる申請を出したのに、処分が行われない(不作為)場合に、市町村や都道府県の建築審査会に不服を申し立てることができる。
•申し立てを受けると建築審査会で審理を行い、申立てに対する裁決を行います。処分又は不作為が違法又は不当と判断された場合は、裁決により処分が取消される。

2.審査請求の申立先
•物件所在地を所轄する建築審査会へ申し立てる。
•審査請求書の提出は、建築審査会の事務局。(最寄の特定行政庁へ相談)

まず、特定行政庁に建築確認申請図書の開示請求(情報公開請求)を行う事。その請求に基づいて特定行政庁は、処分庁等に対して建築基準法第12条第5項報告を求める。とにかく確認申請図書を入手して建築の専門家達が検証することが不可欠になる。まれにパフレットとか新聞折り込み広告、住民説明用計画図等で建築審査請求を提起する人がいるが、図面開示とその検証に基づき、法的な文書の作成が必要

3.審査請求ができる期間

審査請求は処分のあったことを知った日の翌日から起算して60日以内にしなければならない(行政不服審査法第14条第1項)。

また、処分があった日の翌日から1年が経過すると審査請求はできなくなる(行政不服審査法第14条第3項)。

上記の期間を過ぎた後になされた審査請求は、原則として不適法なものになり、却下裁決となる。

4.審査請求の流れ

審査請求は、原則として書面で審議を行う。
審査請求人、処分庁の双方から書面の提出を受け、口頭審査(口頭審理)を経て、裁決をする。
5.裁決の種類

•認容裁決
処分に違法又は不当が認められ、処分が取消される裁決です。取り消されると、処分は、処分をした日に遡って効力を否定される。

不作為についての審査請求では、不作為庁に対し、速やかに申請に対する何らかの行為をすべき旨を裁決する。

•棄却裁決
処分に違法又は不当が認められず、審査請求を退ける裁決です。

•却下裁決
審査請求が法定の期間を経過した場合や、処分を取消す利益がないときなど不適法であるとき、審査請求を退ける裁決です。審査請求の中身については審理されない。

6.その他

・執行停止申立て

審査請求をしても、処分は裁決で取消されるまでは有効として扱われるので、処分の執行を停止したいときは、執行停止申立てをする必要がある。処分の執行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると認められたときは、執行が停止される。
(建築確認処分に対する審査請求をしても、建築確認処分の効力は裁決で取消されるまで継続する。この場合、建築確認処分の効力が存続しているので、工事は継続して行われる。工事が継続することにより何か重大な損害を受ける場合等は、執行停止申立てをする必要がある。

・審査請求と裁判の関係

建築基準法令に基づく建築確認処分や都市計画法令に基づく開発許可処分などについての取消しの訴えは、 原則として審査請求の裁決を経た後でないと、提起できない(行政事件訴訟法第8条第1項ただし書、建築基準法第96条、都市計画法第52条)。

【参考】用語解説
•不作為
 法令に基づく申請に対して、相当の期間内に何らかの処分をするべきにも関わらず、何の処分もしないこと

•裁決
 審査請求に対する審査会の決定。裁判の判決と同様なもの

•異議申立て
 審査請求と同様に処分等に対して不服を申し立てる制度。審査請求とは違い処分庁自身が、申立てに基づいて決定を下す制度
 

 

 

建築審査請求 -1

事務所を始めてから、世の中には建築主と設計者のトラブル。近隣とのトラブルが実に多いことを知った。

そうした相談が、知人や弁護士を通して持ち込まれる。

  • 設計者が建築主の希望を聞き入れて設計してくれない。
  • 外壁の材料の耐久性・防水性が不安として施工会社が降りたが、設計者が設計変更しない。
  • 設計を途中解約したが、まだ基本設計しか終わっていないので設計者に設計料の返還請求したい(契約12%、50%支払済み)
  • 隣地に幼稚園が計画されているが、子供の声はうるさいので中止させたい。(この相談には正直困った)
  • 擁壁下の隣地に地下2階の建物が計画されているが、擁壁が崩壊しないか不安
  • 設計が完了し工事見積りを取ったら工事費が予算の倍以上になった。設計変更しても予算内への減額は無理。設計を解約して設計料の返還請求ができるか。

等々

それらの相談から、あるものは民事訴訟となり、あるものは建築審査請求へとなっていく。

指定確認検査機関に勤務していた時は、処分庁として建築審査請求を受取る側で、徹夜して抗弁書を起案したり、公開口頭審査に出席した。現在は、住民側の専門家として建築審査請求に加わり、建築審査請求の提起、反論書の作成にも加わっている。

建築審査請求に両方の立場で関わった人は、そう多くないようだ。

どちらの立場になっても、建築審査請求に関わると結果が出るまでは胃がキリキリする。

簡易宿泊所@用途変更

このところ 既存建物を用途変更して外国人向け簡易宿泊所にしたいという相談が相次いでいる。

2020年東京オリンピック開催の観光客需要を見込んでか、あるいは、一部の人材不足を補うための外国人受け入れが今後増えていくことを見込んで、より収益性の高いビジネスへの転換だろうか。

古い賃貸共同住宅や古い事務所ビルで、空き家率が多くなっている収益性の低い建物が都内には多くなっている。

共同住宅と簡易宿泊所は、境界がグレーな部分も多いが、簡易宿泊所を無許可営業していたとして警視庁保安課が摘発していた事例も出てきているので、大っぴらに営業するためには旅館業法の許可が必要で、その為には建築基準法の用途変更は、不可欠という事になってきているのかもしれない。

簡易宿泊所を無許可経営、外国人観光客狙い 英国人を逮捕 警視庁

2014.5.16 14:47 [外国人犯罪]
 簡易宿泊所を無許可で営業したとして、警視庁保安課は旅館業法違反容疑で、英国籍で東京都足立区足立、無職、ジェームス・クリストファー・ウッド容疑者(28)を逮捕した。同課によると、「日本の外国人観光客が増え、東京五輪も開催されるため、低料金で宿泊所を提供したかった」と容疑を認めている。

 ウッド容疑者は昨年11月以降、3階建ての自宅の1~2階を簡易宿泊所「東京プレイスズ」として9人分のベッドを設置。1泊2500~6千円で提供し、これまでに約130万円を売り上げていた。都が昨年12月以降に10回、行政指導したが、「シェアハウスだから問題ない」などと応じなかったという。

 逮捕容疑は今年3~4月、自宅で簡易宿泊所を無許可のまま営業し、専門学校生のタイ人女性(21)ら男女7人を有料で宿泊させたとしている。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140516/crm14051614470014-n1.htm

 

 

山留め工事の施工計画書@横浜市

横浜市で2013年4月1日以降に工事着工する建物で、高さ3mを超える根切工事をする場合は、「山留め工事の施工計画書」等の提出における工事範囲が拡大されていた。

工事着工前に、「山留め工事の施工計画書」の提出が必要だったのは、私の知る限り横浜市、藤沢市、川崎市、渋谷区・・。いずれも起伏のある地形が多い場所。

東京の城南とか、北区なども起伏がありそうだが、擁壁や崖の脇に地階のある建物の工事現場を覗くと、根切や山留工事が適切に工事がされているのか、近隣住民でなくてもちょっと心配になる。

近隣住民などの当事者であれば尚更不安の種だろう。

万が一斜面や擁壁の崩落事故が起きた場合に、工事会社に保証能力が十分にあるのかも住民の不安の一要素になっている。

事故が起きた場合は、施工会社だけでなく工事監理者の責任も問われるので、しっかり工事監理は必要。

横浜市建築基準法施行細則の改正に伴い、平成25年4月1日以降に着工する工事からは、指定確認検査機関で確認を受けた物件についても「山留め工事の施工計画書」等の提出が必要です。
【制度改正の目的】

横浜市内では、斜面地における戸建住宅等の建設現場において、山留め仮設工事に十分な検討・準備が行われなかった結果、斜面の崩落事故や、これに伴い近隣敷地に危険な状況を生じる事例が発生しています。
こうした危険な状況の発生を防止するため、横浜市では、横浜市建築基準法施行細則を改正し、これまでも工事施工者又は工事監理者にお願いしていた山留め工事に関する報告について、提出対象となる工事範囲の拡大等を行うこととしました。
【制度改正の概要(横浜市建築基準法施行細則第17条の3 H25.4.1施行)】

1.横浜市建築主事に確認済証の交付を受けた物件に加え、指定確認検査機関で確認済証の交付を受けた物件についても提出の対象となります。
2.提出書類が変更になります。

◦高さが3メートルを超え5メートル以下の根切り工事を行う場合
⇒山留め工事の施工計画概要書等
◦高さが5メートルを超える根切り工事を行う場合
⇒山留め工事の施工計画書等

http://www.city.yokohama.lg.jp/kenchiku/shidou/anzen/tetsuzuki/yamadome.html

ゴルフ場のクラブハウス

ゴルフ場のクラブハウスに関わる建築基準法等の問題点を整理してみた。

【都市計画法】

ゴルフ場は第二種特定工作物であり、市街化調整区域の用途規制の対象外なので市街化調整区域に建設できる。第二種特定工作物の用途に包含される附属建築物(例えば、ゴルフコースのクラブハウス、陸上競技場のスタンド等)は、必要最小限のものに限り、第二種特定工作物の一部として建築が認められる。(とは言ってもコース数によって入場者数は変わるが、それなりの規模にはなる。)
一方、ゴルフコース等に併設される宿泊施設は第二種特定工作物に附属するものとはみなされず、開発審査会による許可が得られる場合しか建築できない。

【建築基準法上の用途】

ゴルフ場のクラブハウスの基準法上の用途(確認申請書第3面)は何になるか。

施設内容はカート置場、ロビー、レストラン、ロッカー室・大浴場、事務室、機械室等によって構成される。

こういう複合的な用途が含有されている建物の建築基準法上の用途判断が一番いやらしい。

  1. 集会場等類似用途として結婚式場のようなものとし判断する
  2. カート置き場が別棟の場合は飲食店。カート置き場は自動車車庫と判断
  3. ゴルフ場は、会員制であっても、実際上は会員利用は少なくビジターは自在に増やせるので不特定多数の人が利用する特殊建築物として判断(法第2条第二号の用途・その他これらに類する用途として)
  4. その他(具体的用途としてクラブハウス)

以上のような判断が考えられるが、建築主事判断となることが多い。通常は、指定確認検査機関より裁量権のある特定行政庁に聞いた方が良い。

私が近年関わった千葉県の物件の場合は、用途は「その他」(具体的用途として「クラブハウス」)だった。

消防法上は15項だった。

確認申請書第4面に記載する用途は、飲食店、公衆浴場、自動車車庫、サービス業を営む店舗等に仕分けする。

【個別許可】

浴場は、公衆浴場法の許可(保健所)が必要

レストランは、営業許可申請(保健所)が必要

【カート置き場】

・道路運送車両法では

第二条  この法律で「道路運送車両」とは、自動車、原動機付自転車及び軽車両をいう。
2  この法律で「自動車」とは、原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具であつて、次項に規定する原動機付自転車以外のものをいう。
3  この法律で「原動機付自転車」とは、国土交通省令で定める総排気量又は定格出力を有する原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具をいう。
4  この法律で「軽車両」とは、人力若しくは畜力により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具であつて、政令で定めるものをいう。
5  この法律で「運行」とは、人又は物品を運送するとしないとにかかわらず、道路運送車両を当該装置の用い方に従い用いること(道路以外の場所のみにおいて用いることを除く。)をいう。
6  この法律で「道路」とは、道路法 (昭和二十七年法律第百八十号)による道路、道路運送法 (昭和二十六年法律第百八十三号)による自動車道及びその他の一般交通の用に供する場所をいう。

ゴルフ場のカートには、ガソリンと電動(バッテリー)があるが、ここは素直に、カート置き場は法律論ではなく実態上で判断し自動車車庫とするのが妥当。

消防法上は自動車車庫として判断される。

尚、

ゴルフカートは公道を走らない限り道路交通法の適用除外であるため、安全規格や整備基準が定められていないらしい。

ゴルフ場施設利用損害保険の保険金支払いデータによると、ゴルフ場施設の事故の約半数がゴルフカートの事故であり、その内容は対人衝突、カートの横転や転落などの自損、カーブを曲がるときなどに同乗者が振り落とされる転落、カート同士の衝突などが多いらしい。

完了検査済証の交付率

img134

H26年建築基準法改正にともなう国交省の資料を見ていたら、「検査済み証交付率の推移」というデーターがあった。

H10年には、完了検査済証の交付率が40%を切っていことがわかる。現在では、90%ぐらいまでになつてきているが、指定確認検査機関ができたからというより、世の中の法令遵守への気風が高まったからだと思っている。

ところでも再三指摘しているが、建築ストックの活用にとって、この工事完了検査済証未了・無しの建物を増築、用途変更する時、どうするかとというのは避けて通れない問題である。

国交省のデーターでは、H10年の完了検査済証の無い建物が60%強あるということだが、木造住宅や特殊建築物等、法第6条の各号ごとの交付率は公表されていない。

弊社のデーター(サンプル数500件)による特殊建築物の検査済証未了は30%強だから、木造住宅を始めとしたその他の建物の未交付率は、もっと多いのだろうと推察する。

先日、木造住宅のリフォームの話を担当設計者から聞いた。

建築確認済証はあるが、出来ている建物は全く違う建物で、建蔽率が5%ほどオーバーしているという違反建築物のリフォーム工事の経過だった。

リフォームだから建築確認申請は不要だが、建蔽率がオーバーしているので役所に相談に行ったら、ムニャムニャで終わってしまったらしい。

情けない話だ。

役所は違反建築物を放置しているとしか思えない。

設計者も申請は不要でも建築基準法に適合させる必要があるのだから減築は助言すべきだが、そんなことを言っていたら施主から「固いやつだ」と言われて仕事がなくなってしまうのかもしれない。

工事完了検査済証がない建物でも、用途変更や増築の際に法適合調査を行い法適合が証明できれば確認申請は提出できるが、その調査・診断・評価方法は定まっていない。

全ての構造方法に対応した建築病理学(ビルディング パッソロジー)の構築が必要なのかもしれない。

 

 

「建築・新しい仕事のかたち~箱の産業から場の産業へ」

DSCF9450_R

一般社団法人住宅医協会設立記念講演会「建築・新しい仕事のかたち~箱の産業から場の産業へ」東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授の松村秀一先生の講演を聞いてきた。

東京大学(農学部)弥生講堂アネックス/セイホクギャラリーという木造シェル構造でできている建物が会場だった。

DSCF9449_R

松村先生の話は刺激的だった。

日本の産業構造が「ハコの産業」から「場の産業」=「より望ましい生活を展開する『場』を構成するあるいは提供する産業」に一大転換している時代と位置づけられた。

「新しい仕事のかたち・七つの要素」として

  1. 生活する場から発想する
  2. 空間資源を発見する
  3. 空間資源の短所を補い長所を伸ばす
  4. 空間資源を「場」化する
  5. 人と場を出会わせる
  6. 経済活動の中に埋め込む
  7. 生活の場として評価する

をあげられ、具体的事例を紹介されていた。

私達が目指している仕事の方向が、あながち間違ってはいないのだなぁと思った。

DSCF9421_R

DSCF9446_R

刺激的な空間で刺激的な話を聞けれて脳が活性化した一日だった。

「近畿建築行政会議 建築基準法 共通取扱い集」

img136

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山の行政と指定確認検査機関によって構成されている近畿建築行政会議の建築基準法の共通取扱い集の初版が発売された。

「住宅用エアコン等の室外機を設置した開放廊下、バルコニーの床面積」「飾り柱等がある場合のバルコニーの床面積」「敷地内に2棟ある場合及びドライエリアからの採光」「住宅等における納戸」「小規模な鋼製の置型倉庫(物置)」・・・

日本建築行政会議の「建築確認のための  基準総則・集団規定の適用事例」より一歩踏み込んだ内容が網羅されているが、まだ共通取扱い項目が少ない。今後協議を継続して共通取扱い項目が増えてくれると実務上大いに助かる。

東京、関東もこういう共通取扱い集ができてくれると助かるのだが・・・。

連続的空間領域における採光について -1

case1_floor

無印良品の新シリーズ・縦の家をながめていた

toplight_img03

中央にシースルーの階段を配置し、最上部にトップライトを設置して採光をとっている。

三階建ての住宅としては、さほど新鮮味のある平面計画ではない。今までも多くの設計者が採用しているのではないだろうか。

まあ 1階の寝室は右側窓から採光(法的な)をとるのは難しいそうだ。敷地条件によっては2階のダイニングキッチンも採光(法的な)はOUTになるかもしれない。

このベースプラン(3.64m×8.19m)の場合、各階の床面積は

1階:23.18m2 / 2階:29.81m2 / 3階:29.81m2 / 計:82.80m2となっている。

現行法では、階をまたいでは採光をとることができないが、このように三層吹き抜けで階段部に間仕切りがない連続的な空間が構成されている場合で、階段最上部あるいは階段壁面部に採光に有効な開口部があるときは隣地境界線側に採光に有効な開口部を設けなくても実際のところ採光が得られるのではないだろうか。

試算してみると

1階必要採光面積(概略) 23.18m2×1/7=3.32m2

2階必要採光面積(概略) (29.81m2-13.24m2)×1/7=2.37m2

3階必要採光面積(概略) (29.81m2-13.24m2)×1/7=2.37m2

・2階リビング、3階サンルーム水回りを3.64m×3.64m=13.24m2として、道路側であろう開口部より採光が確保されるものと仮定した。

階段最上部のトップライトは、どの程度の開口面積があれば三層の有効採光を確保できるであろうか。

3階 2.37m2÷低減率=無 =必要採光面積 2.37m2

2階 2.37m2÷低減率=0.8 =必要採光面積 2.97m2

1階 3.32m2÷低減率=0.7     =必要採光面積 4.75m2

合計 10.09m2÷3(トップライト) = 必要採光面積 3.37m2

1間角強のトップライト面積が必要となるが、少し大きすぎるというか、暑くてたまらないかなぁ・・・ 階層による低減は必要ないのかもしれない。

低減無だと、

合計 8.06m2÷3=2.69m2

これで1.6m角程度だから低減しなくてもよいかもしれない

是非、無印良品さんにはモデルハウス等で実際の照度計測をしてもらいたいものだ。

【無印良品・縦の家】画像は下記のサイトから拝借しました。

http://www.muji.net/ie/tatenoie/

 

余剰空間

よ‐じょう【余剰】 必要分を除いた残り。剰余。余り。「人員に―が出る」「―価値」「―米」 大辞泉

建築基準法の取扱いで出てくる「余剰空間」は、例えば小屋裏物置等の取扱いについて見られる。 img060   上記のように床下・天井裏・屋根裏などの、もともと作ろうと意図したところの「形」の中で機能性を持たなかった部分として捉えられているようだ。

ようするに余剰空間という意味は、計画当初の機能を持つことが出来ない空間や、機能が明確に想定されない空間のことであり、不本意に余ってしまった対象と言える。

このような機能配置の計画外に残されてしまう余剰空間は、使用上の寸法や動線や機能などの様々な問題によって多かれ少なかれ発生するものであり、その余剰空間をどう扱うかは建築計画論的にも法的にも課題の一つであるように思う。

余剰空間は、上記の図のような建築基準法の概念として活用されているが、現代の建築空間は切妻や片流れような固定的形態だけでなく、様々な形態として現われる。従来の固定的「形」では判断さえつきずらくなっている。

都心では道路斜線・高度斜線・日影規制などの集団規制の制限を受け、そこに天空率や高さの緩和、平均地盤の調整等を駆使し複雑な、ときに異様な突出した建築が現われる。

前面道路が法第42条第2項(4m未満の道)等の細街路で、木造二階建てが地域の街並みを形成する建物のボリュームのところに、突如4階建てと錯覚するような木造3階建てが建築され、周囲があわてることもある。これは元々総合設計制度という大規模建築に適用されていた天空率という手法を、すべてに適用した為だ。

敷地には、幾つも建築基準法の規制による建築可能な空間領域があり、その見えない空間領域が、建築可能な形態の制限となる。

ある一定以上の面積や道路幅員をもつ場合は、その建築可能な空間領域を余剰空間として捉えることができないであろうか。

これは 仮説的提案である。

追記

上記記述は、若干 論旨不明確でした。

前面道路が法42条2項道路等の細街路には天空率の適用は止めるべきで、そうでない場合は、法的可能な空間領域内は余剰空間として突出型のロフト・小屋裏収納等は認めていいのではないかというものです。

 

防火フィルム

避難安全検証法を用いた場合、避難経路等に面するガラス等を用いた間仕切壁は防火設備としての性能が必要となる場合がある。 防火設備となると価格の高い耐熱ガラスや意匠性を損なう網入りガラスしか選択できないのが現状だ。 そこで、単板ガラスに張ることで防火性能を満足するフイルムを探した。 ネット検索でヒットしたのは、下記の清水建設の2011年ニュースリリースで、大臣認定を取得済みで2011年秋には外販を始めると書いてある。それに安価なようだし、もう時間が経過しているから外販しているはずと思い、記載してある栃木県の製造会社を探したが見つからない。 img129 https://www.shimz.co.jp/news_release/2011/826.html

そこで清水建設本社→清水建設技術研究所→三生技研→SVC(愛知県)へと電話をかけ、ようやく製造販売している会社にたどり着きカタログと見本を送ってもらった。 img127

商品名はファイヤーブロック

img128

製造会社に聞くところによると、中々量産化が難しかったらしい。製造ラインは幅1.5m×長3mらしいが、現在商品化しているのは1m角との事。

ところで、この材料は建築基準法第64条(外壁の開口部の防火戸)で施行令第136条の2の3(準遮炎性能に関する技術的基準)で告示例示がない為大臣認定が必要。準遮炎性能20分で屋内に面するものに限られている。

防火性能のある安価で透明なフイルムは、中々難しいのかもしれない。