「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」

以前から気になっていたフレデリック・ワイズマン監督の「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」を観た。

Ex Libris: The New York Public Libraryは、ニューヨーク公共図書館を主題としたアメリカ合衆国のドキュメンタリー映画で、DVDディスク1と2合せて3時間以上と長い。

https://moviola.jp/nypl

このドキュメンタリーの中には、まったく知らなかったアメリカがあった。

ベトナム反戦運動の高まりの中で青春時代を過ごしたこともあり、アメリカ帝国主義とアメリカそのものに、長く嫌悪感を抱いてきた。アメリカの民主主義は健在かもと思い始めたのは、さほど以前からではない。

さて、このドキュメンタリーは、ニューヨーク公共図書館の担う探究、交流、学習の平等なネットワークとしての役割に迫る。中心人物はなく、玄関ホールや別館、ミーティングルームなど、あらゆる場所に無名かつ普通の図書館利用者が登場する。

図書館を率いる幹部は多様なニーズに応えるという課題を議論し、ワイズマンはそれを様々な図書館の利用者と対比させ、ノートPCユーザ、研究者、ホームレスの姿をとらえている。

この図書館には分館が92ヵ所あり、それぞれの地域のニーズに合わせ、異なるサービスを提供していることが良くわかる。図書館というものの定義、役割を再認識した。

ワイズマンの手法の特徴は、映像をTVドキュメンタリー番組のようにナレーションや字幕を使って明確に意味づけることを徹底して回避し、映像だけを観客の前に差し出すことにある。観客は、さまざまな解釈の幅を含みこんだままの映像に対して、自ら働きかけて物語を読み込んでゆかねばならない。

私は、あらためて公共とは何か、民主主義とは何かを考えた。

ワイズマンは、プロデュース・撮影・編集を自ら担当し、極めて少人数のスタッフとともに制作するスタイルを貫いている。だからか細部の表現に目が行き届いていると感じた。

The New York Public Library (nypl.org)

この図書館の本館となるシュヴァルツマン・ビルディング(Schwartzman building)はマンハッタンの5番街と42丁目のブライアント・パーク内にあり、その豪奢なボザール建築で観光名所としても知られていて、映像の端々に表れる建築を見るのも楽しい。